第8話

 部屋の中、あなたは目をつむっている。布団の中で、微動だにできず、ただ意識をとぎれさせるだけの行為をしている。そんなあなたを、ぐるりと囲んで、みんなが言う。


「どうしてこんなことになってしまったの」


と。


 あなたは、目を開く。水中にいる様に視界が曇っている。耳の内にこぼれ落ちて、それが涙であると、うろんな意識の中に悟る。

 あなたは、その言葉も、何もかもを覚えては居なかった。しかし、ただ、ひどく胸が痛んでおり、なにかに傷つけられたのだと、感じる。

 なにに傷ついたのだろう。その疑問は、言葉どころか、一音にもならぬままに、あなたの意識から散って霧散していく。

 そして、ちかちかと明滅する視界の向こうで、またあの光景が浮かぶ。

 しかし、それは、もはや、あなたにとってはどうでもよいことだった。

あなたはあれから、念願の看護士の資格を得て働き始めた。人間関係と、血に慣れることに苦戦した。それでも、いっぱしの人間になれた気がして嬉しくて、嬉しくて、あなたは、仕事を一心にした。

とにかく、お金がほしくて、シフトが空いていれば、すかさず名乗りをあげた。

もとより、あなたは深夜に起きているのは苦手なので、夜勤は不安だった。けれど、頑張る義務が、ある、そう、あなたは信じていた。

そうしている内に、いつの間にか、あなたは知らず、疲弊していった。一度くずれた体力は戻らないんですよ、と、主治医の先生の言葉が、よみがえった。

その時に、ポキリ。

また、戻ることとなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る