第8話
部屋の中、あなたは目をつむっている。布団の中で、微動だにできず、ただ意識をとぎれさせるだけの行為をしている。そんなあなたを、ぐるりと囲んで、みんなが言う。
「どうしてこんなことになってしまったの」
と。
あなたは、目を開く。水中にいる様に視界が曇っている。耳の内にこぼれ落ちて、それが涙であると、うろんな意識の中に悟る。
あなたは、その言葉も、何もかもを覚えては居なかった。しかし、ただ、ひどく胸が痛んでおり、なにかに傷つけられたのだと、感じる。
なにに傷ついたのだろう。その疑問は、言葉どころか、一音にもならぬままに、あなたの意識から散って霧散していく。
そして、ちかちかと明滅する視界の向こうで、またあの光景が浮かぶ。
しかし、それは、もはや、あなたにとってはどうでもよいことだった。
あなたはあれから、念願の看護士の資格を得て働き始めた。人間関係と、血に慣れることに苦戦した。それでも、いっぱしの人間になれた気がして嬉しくて、嬉しくて、あなたは、仕事を一心にした。
とにかく、お金がほしくて、シフトが空いていれば、すかさず名乗りをあげた。
もとより、あなたは深夜に起きているのは苦手なので、夜勤は不安だった。けれど、頑張る義務が、ある、そう、あなたは信じていた。
そうしている内に、いつの間にか、あなたは知らず、疲弊していった。一度くずれた体力は戻らないんですよ、と、主治医の先生の言葉が、よみがえった。
その時に、ポキリ。
また、戻ることとなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます