異世界帰りの父さん

こんにゃく

第1話

父さんが消えた


文字通り消えた、跡形もなく。

最後のメールは今から帰るだけ。

目撃者なし、監視カメラにも写っていなかった。

警察もお手上げ状態らしい。


「どこ行ったのよ!」

「母さん...きっと見つかるよ...」


家族はビラ配り、テレビでの情報提供、色々なことをやったが成果なし。

家族は大黒柱を失い、母さんが働きに出た。家族は憔悴し、次第に父さんのことを家庭の話題でだすのはタブーな風潮になっていった...


父さんが居なくなって3年後...

家族と夕食を取っていると弟の優太が言ってしまった...


「お父さんがいなくなってから今日で丁度3年だね...」

「「「....」」」


誰も何も言わない。


「おかしいよ!お父さんはまだ生きてるかもしれないのに!話題にすら出さないのは!」

「「...」」」

「もういい加減にして!私達は私達で頑張ってるのよ!そんな...消えたやつのことなんてどうだっていいじゃない!」


長女が静寂を破った。


「「...」」


俺と母さんは何も言わない。

ここで反論することにもう何も意味のないことが分かっているからだ...いくら探しても見つからない、そんな状況に俺達は一種の諦めというものを感じていたのかもしれない。


ピンポーン、ピンポーン


またしても静寂が破られた。

こんな夜に誰だよ...


「母さん、僕が出るよ」

「頼むわ...優太...」


優太だけじゃ心配だな...俺も行くか...


「うわぁ!なんだよ!お前!誰だよ!」

「優太!何があった!?」

「お兄ちゃん!お父さんを名乗る変な人物が!」


何!変な人物だって!?優太が危ない!


「久しぶりだな~我が家も...10年ぶりくらいか~?」

「ごめん!お兄ちゃん食い止められなかった!」


その声の調子...その声の起伏...本物...?なわけないよな...?


「...我が高山家の国旗は?」

「アゼルバイジャンの国旗!」

「お母さんの結婚記念日に父さんが買ってきたケーキの中に入っていたものは?」

「シュークリーム!」

「そのシュークリームの中に入ってたのは何?」

「チョコ!」


....全部合ってるし、もしかして本物?


「...私にプロポーズする時何て言いましたか?」


お母さんまで!?


「...君を永遠に幸せにします」

「出来てないじゃない!隆二さん!」

「ごめんなぁ...本当にごめんなぁ...」


あの面影は...ほんとのほんとに父さん!?


「本物のお父さんだ!」

「おぉ!優太...久しぶりだなぁ大きくなったな~」

「お父さん!今までどこ行ってたのよ!」

「あ~それについて話そうか...皆...一旦席に着いてくれ」


3年間も俺達を待たせたんだ。

しかも突然消えて防犯カメラにも何も残っていないと...きちんと説明してくれないと納得できない!


「実はな...父さん異世界に行ってたんだ...」

「「「「は?」」」」


いや...え?待って?異世界?3年間待たせてその原因が異世界?いやいやいやいや、あり得ないでしょそんなの。


「父さん!ふざけるのもいい加減にしてよ!」

「いや、父さんはふざけてなんかいないぞ...父さんだって何が起こったか分からないんだ...その証拠に...ほれっ!」


その時僕達は目を疑った。

父さんの指先から水が出ていたのだ。

それも湯気が立っている温水。

なにかのマジックか...?でも父さんの指先には何も付いていないし...


「お父さん!その指触ってもいい?」

「いいぞ~」

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!何もないよ!」


まさか本当に異世界に行ってたというのか....


「火も出せるし~風も出せるし~雷も出せるぞ~」


そういって父さんは火を指から、風を窓も空いていない部屋に駆け巡らせ、雷を僕達の回りに...どうやら異世界に行っていたっていうのは本当みたいだな...


「隆二さん...久しぶりに家に帰ってきたことだしお風呂にでも入ったらどうですか?」

「あ、お風呂は止めておくよ~この魔法で自分の体も洗えるしね~」


父さんお風呂に入らないってなんだ?魔法で体を洗えるのは本当だと思うんだけど理由になってないよな...まぁいいか


「お父さん!異世界で何があったか教えて!」

「そうだな~今日は遅いからまた明日な~」


もう0時か...明日から5連休とはいえ早く寝ないとな...


「俺はもう寝るよ...父さん、また明日話そうね...今度こそいなくならないでよね」

「そうだねぇ...父さんは居なくならないつもりだよ~」


そう言った父さんの声はなんだか力が無かった...



















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