Column3 「AまたはB」の話

 今回は、「AまたはB」で使われる「または」について取り上げようと思います。


     ☆


 先日、Webで公開されているある創作論で「最近の異世界ファンタジーの転生は、A亦はBの状況が多い」というものを見かけました。(「亦は」の表記だけ残して、あとは全て変えています)


 内容は全く関係ないので気にしなくて構いません。重要なのは「亦は」の使い方です。

 これは「亦」と書いて「また」と読みますが、上記に挙げた例文での使い方は一般的ではありません。漢字の表記もそうですが、意味が少し違うのです。


 上記に挙げた例文「A亦はB」というのは、「AかBかのどちらか」(『三省堂国語辞典 第八版』より引用)という意味で使われています。

 ですがこの場合、漢字で表記する際は「又は」を使うのが一般的です。


 何故そうなるのかというと、「亦」のほうは「同じく」とか「ひとしく」という意味として使われるため(『新選国語辞典 第十版』を参照)、「AかBのどちらか」という意味には使われないからです。


 分かりやすくするために「亦」を使った例文を挙げてみましょうか。


 ①彼も亦、探偵なのさ。

 ②彼女も亦、負けず嫌いなんだよ。


 いかがでしょう。ここから分かるように、「AかBかのどちらか」という意味で使われていないことが分かるのではないでしょうか。


「または」という接続詞で使う際は、ほとんどひらがなで書かれることが多く、漢字で使う方はそう多くないかなとは思います。


 しかし、中にはこだわって漢字で使う方もいることでしょう。その場合は使い分けを知らないとニュアンスが変わってしまうので、気を付ける必要があるのではないかと個人的には思います。


 ちなみに、「又」のほうは「また」の副詞はもちろん接続詞にも使えるので、漢字で悩む場合はこの漢字を使用したほうがいいのかなと思います。



*補足*

 本文に「漢字で表記する際は『又は』を使うのが一般的です」と記載したのは、『精選版日本国語大辞典』に、「亦は」を「AかBかのどちらか」という意味で使用している例文があったからです。しかしその例文と言うのは、7世紀から8世紀ごろの文章の中に記されているものでした。


 また、いつものように複数の辞書を引いて調べましたが、『精選版日本国語大辞典』以外は「または」を「亦は」の表記で表しているものはなく、全て「又は」でした。


 思うに、過去に例はあるものの、今日に至るまでに使われている頻度がとても少なかったのではないかと推察されます。


 よって、現代の文章で「亦」を使うのであれば、やはり本文中に挙げた①や②の例文のような使われ方をするのが一般的ではないかと、個人的には思います。

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