廃業寸前の農家、異世界で救国の女神となり光の騎士王と愛と野菜を育む日々

ワタリ

プロローグ

 少しでも体勢を崩せば、身体ごと空へ吹き飛ばされそうだ。

 地面に埋まった石にしがみつく。降りしきる雨でぬかるんでうまく力が入らない。けれど、必死だった。


 雨が痛いなんて初めての感覚だ。

 まるで無数の針が空から降ってきて全身に突き刺さっているようだ。


 ゆっくりと、慎重に、腕と足を動かして、吹き飛ばされた防風シートに手を伸ばす。幸い近くの木に引っ掛かっていた。


 早くシートをかぶせなきゃ苗が駄目になってしまう。

 来年の出荷が出来なくなってしまう。

 

 そうなったら、もううちの畑は……



 守らなきゃ。命にかえても守らなきゃ。

 お父さんの畑。約束したんだから。


 お父さん。

 

 お父さん。


 お父さん、お父さん、お父さん。


「もう少しぃ……」


 神様に祈るような気持ちで、必死にぐぐっとシートへ向けて腕を伸ばす。


「お願いだから……届いてぇ……!!」



 ガツンッ!!!!!!!!!!!



 頭に強い衝撃を感じて全身の力が抜ける。

 うつぶせになっていた身体は衝撃と強風で浮き上がり仰向けに変わった。


 顔面に降り注ぐ雨の針。薄れゆく視界。


 収穫に使っているコンテナがいくつも宙を舞っているのが目に入った。


 

 記憶は、そこで途切れた。

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