言の葉高校98期生短編集

言の葉綾

1話 入学式(No.218 深谷真紘)

ジリリリリリという目覚ましの音。場所は真紘の部屋。朝日が窓から差し込んでいる。


真紘

「・・・・・・もう、朝。あと、5分・・・・」


 真紘、ベッドで再び寝ようとする。


真紘

「・・・・・ダメだ。これじゃあ、逃げになる」


 真紘、リビングに降りてくる。


真紘

「おはよう」


七虹

「おは・・・・えっ??」


綾乃

「ちょ、真紘くん・・?」


七虹

「母さん! 真紘! 真紘が自力で起きてきた!」


真紘の母

「え? なんですって??? お赤飯炊かなきゃ!!」


綾乃

「どうしたの、真紘くん! 今日は晴れの予報なのに!! 雨が、雨が降るのかしら」


真紘

「何言ってんの。・・・・今日は、入学式だから」



 真紘の目の前に、朝食が置かれる。


真紘の母

「今日は真紘の大好物、サバの味噌煮よ! まさか、こんなに早く起きてくるとは思わなかったわ! さあさあ、食べなさい!」


七虹

「いつになくテンション高いな」


綾乃

「それは七虹ちゃんも同じでしょう?」


真紘

「とりあえず、いただきます」


真紘の母

「でも嬉しいわ。無事、真紘が言の葉高校に入学できるなんて」


七虹

「朝6時に起きてくるのは、予想外だった」


綾乃

「目覚まし掛けても、起こしに行っても、全然起きなかったのに。どうしちゃったのよ?」


真紘

「別に、詮索しなくていいことでしょ。今日からは早起きしなきゃいけないんだから」


綾乃

「・・・・まあ、なんという成長っぷり」


七虹

「再び人格形成された?」


真紘

「失礼な。ごちそうさま。支度してくる」


真紘の母

「あ、あ・・・そう。行ってらっしゃい」


 真紘、自室へ戻る。


綾乃

「・・・・・中学校の時、自分から学校に行こうとしたことが、あったかしら?」


真紘の母

「なかった・・・・・わよね?」


七虹

「あ、そう言えば、あいつ、新入生代表あいさつを任されてるとか言ってたな」


綾乃

「ええっ? あの子、引き受けたの??」


七虹

「引き受けた、って言ってたよ」


 視点は真紘。真紘、部屋で標準服に着替えている。


 チャイムの音が鳴る。


真紘

「・・・・・ハルさんか」


 真紘、リビングに降りてくる。


真紘

「じゃあ、行ってきます」


七虹

「あ、あんた! 道間違えないのよ?」


綾乃

「こここここ交通事故にはくれぐれも気を付けて・・・・」


真紘の母

「運動してなかったんだから、途中で歩き疲れて倒れちゃダメよ??」


真紘

「・・・・大丈夫だから。行ってきます」


 真紘、玄関のドアを開ける。


春菜

「・・・え?」


真紘

「・・・・おはよう、ハルさん」


春菜

「え、ちょ・・・・え? いくら新入生代表あいさつ任されてるとはいえ、早くない? 起きるの」


真紘

「だって、朝7時40分に、体育館集合だから。早く起きただけだけど」


春菜

「・・・・・これが、成長」


 真紘、春菜、駅へ。


春菜

「うううう、緊張するっ!! 電車通学なんて初めてだし・・・・ドキドキする!」


真紘

「電車乗るくらいで、そんなに騒がれたら困るんだけど」


春菜

「はぁ? いっくら起こしに行っても全く起きてくれない方が困るんですけど!」


真紘

「過去の話、掘り起こさないでよ・・・・」


春菜

「って! もう電車来る! あ、来た来た!」



 電車、到着。


 真紘、春菜、乗車。


春菜

「わぁぁぁぁぁぁ。あ、ところどころに、言の葉のブレザー着た人がいる!」


真紘

「電車ではお静かに。落ち着きなよ」


春菜

「うう、でも! 私は新入生代表あいさつじゃないから、教室でずっと待ってなきゃってことでしょ? ええ、緊張の極みなんですけど!(小声)」


真紘

「大丈夫だって。ハルさん、すぐ友達できるでしょ」


春菜

「・・・・・・そうかなあ」


 真紘、春菜、降車。


春菜

「ひぃぃぃ、いつもは車で見てる景色! なんか変な感じ、生で見ると・・・・」


真紘

「そうだね。じゃ、行こうか」


春菜

「あ! スマホのマップ機能使わないと・・・・」


真紘

「わかるから大丈夫。ついてきて」


春菜

「真紘、わかるの?」


真紘

「七虹姉さんに嫌というほど仕込まれたんで」


春菜

「ああ、七虹ちゃん、今年で3年生だもんね」


 真紘、春菜、緊張のあまり無言で歩く。


春菜

「真紘さー」


真紘

「ん?」


春菜

「何で、新入生代表あいさつ、引き受けたの?」


真紘

「何でって・・・・頼まれたからね」


春菜

「真紘、絶対引き受けないって思ってた。中学の時、あんまり学校来なかったし。人前に立つのなんて、もってのほかなのかなーって・・・・」


 真紘、立ち止まる。


春菜

「・・・・真紘?」


真紘

「あの頃の僕は嫌いだから。変わりたいから、だよ」


春菜

「・・・・真紘」


真紘

「もう、誰かに代わってもらうとか、迷惑をかけるとか、心配をかけるとか。したく、ないから」


 春菜、不思議そうな顔をするも、笑顔になる。


春菜

「・・・・・そっか!」


真紘

「ほら、もう見えてきたよ。あそこが、言の葉高校」


 真紘、言の葉高校を指さす。


春菜

「わぁぁぁぁ・・・・・!!」


真紘

「じゃ、行こうか」


春菜

「うん!」


 真紘、春菜、学校に到着。


春菜

「ええ・・・・こんなに昇降口広いの?」


真紘

「全校生徒840人だっけ? それくらいいるの、納得できるな」


春菜

「うう、多いけど、緊張する・・・・」


真紘

「3年生の先輩が、受付にいるって、七虹姉さんが言ってた。まずは教室の前に行こう」


春菜

「私、3組1番だっけ・・・?」


真紘

「僕は1組28番。4階だよ」


春菜

「遠いよ~!!」


 真紘、春菜、4階に到着。


真紘

「じゃ、ハルさん。僕は1組なんで。ここで」


春菜

「あ、真紘!」


真紘

「ん?」


春菜

「頑張ってよ、新入生代表あいさつ!」


 真紘、微笑む。


真紘

「わかった」


 真紘、受付を終え、教室に入る。


真紘(心の声)

「案外、人いないな・・・・・」


 真紘、着席。


 真紘、リュックの中から新入生代表あいさつの紙を取り出す。


 真紘、その紙を見つめる。


(回想)真紘の中学時代


真紘の中学の担任

「真紘くん! なんなんだい、この点数は!」


真紘

「はあ。どういうことです?」


真紘の中学の担任

「入試の点数だよ! 5教科50点満点、233点を取るとは何事だ?? 言の葉高校受験者の中ではぶっちぎりのトップ、そしてこの地区でも、この県内でもぶっちぎりのトップだぞ??」


真紘

「そうですか。ありがとうございます」


真紘の中学の担任

「合格なんだから、もっと喜びなさい! それでだな。言の葉高校の方から連絡があって、入学式の新入生代表あいさつは、首席で入学した人がやる決まりになっているらしい。つまり、真紘くんにやってほしい、とのことなんだが、どうだ?」


真紘

「はい? 新入生代表あいさつを、僕がですか?」


真紘の中学の担任

「まあ、そうなるよな。中学校時代、苦労してたもんな。人前に立ったことも、中学時代はなかったもんなあ」


真紘

「・・・・・・」


真紘の中学の担任

「もしのときは、学年2位で入学する人に、任せたってかまわないんだが・・・・」


真紘

「やりますよ」


真紘の中学の担任

「・・・・え?」


真紘

「僕が通信制を受けなかったのは、変わりたいから。もう誰にも、迷惑とか、心配とか、かけたくないから。自分で立てるように、なりたいから。だから、やります」


真紘の中学の担任

「ま、真紘くん・・・・・・」


真紘

「諸塚先生」


真紘の中学の担任

「な、なんだい?」


真紘

「今までありがとうございました」


真紘の中学の担任

「・・・・・真紘くん」


真紘

「高校からは、僕は毎日、ちゃんと学校行けるように、努力します。中学で躓いた分、高校で取り戻します。頑張りますから、先生」


真紘の中学の担任

「・・・・・真紘くん、成長したね。頑張ったね」


真紘

「精一杯、やります」


(回想終わり)


真紘(心の声)

「・・・・・頑張らなきゃな」



 入学式の時間になる。真紘たち、言の葉高校98期生、入場。


 生徒呼名、祝辞が続く。


司会

「それでは続いて、新入生代表あいさつ。1年1組28番、深谷真紘」


真紘

「はい」


 真紘、ゆっくりと登壇。鼓動は速くなっている。


 真紘、校長先生と向き合う。


真紘

「(深呼吸)」


真紘

「桜が舞い散るこの季節、僕たち280名は、言の葉高校への入学が許可されました。この自主自立自律の校風のなか、自らの個性を伸ばし、新たな友と共に切磋琢磨し、勉学や部活動、様々な面で、充実した日々を送りたいと思います」


 真紘、一旦言葉を区切る。


真紘

「(深呼吸)僕は、中学時代、不登校でした。ほとんど学校に通うことは、できませんでした。でも。僕は決めました。こんな自分から、変わって見せるって。この魅力ある言の葉高校で、心身を、あの頃よりもっと、成長させていきたいと思います。以上を持って、新入生代表あいさつとさせていただきます。新入生代表、1年1組28番、深谷真紘」


 真紘、一礼し、降壇。


 真紘たち98期生、退場。


真紘(心の声)

「ここが・・・・イマが、始まりの時だ」



                        (終わり)


登場人物

深谷真紘(ふかや まひろ) 高1(98期生1年1組)

青木春菜(あおき はるな) 高1(98期生1年3組)

深谷綾乃(ふかや あやの) 真紘の姉 大2

深谷七虹(ふかや ななこ) 真紘の姉 高3

真紘の母

諸塚拓海(もろつか たくみ)真紘の中学の担任 

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