魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 2

 その日、夜だというのにヒューマンの街『クーラ』は騒然としていた。


 最近話題の地球転生者、ユータロウが遠征から帰ってきたからだ。

 彼は今回の遠征でオークの砦を2つと、オークの同盟種であるトロルの集落を一つ落としてきた。


 誰も彼もが酒場にいるユータロウの元へと集う。

 武勇伝を聞きたがる男たち、かまってもらいたい女たち。


 饗宴は夜遅くまで続いていた。


「ルビィ、そわそわしてるだろうなぁ」


 魔導書グリモア屋のルビィは今頃、ユータロウに会いにいきたくて、でも酒場にいく勇気はなくて、ベットの上で膝をかかえているだろう。


「じゃ、会いにいってやるとするか」

 俺は魔導書グリモア屋の近くの路地で『ミラー』を使い、以前望遠鏡ごしにみたユータロウの姿に変身した。


 店はとっくに閉まっていたが、俺はルビィの部屋の鎧戸に石を投げた。


 すると、やはりルビィは起きていたようで、窓から顔を出してくれた。


「よっ!」


「ゆ、ゆゆ……ユータロウ、さん……! ど、……うしたん、ですか……!」


 あわあわと慌て、急いで髪を整えようとするルビィの姿は大変かわいかった。


「いや、早くルビィに会いたくてな! 迷惑だったか?」

 

「め、めめ……迷惑……だな……んて、そんな! 嬉しい……で、です……!」


「そうか、俺も嬉しいぞ!」


 俺はユータロウの話し方など知らないが、どうせこんな感じだろう。

 正義の味方気取りの中学生の口調なんて、簡単に想像がつく。

 ルビィにも疑われた様子はない。


「なあルビィ、お前と行きたいところがあるんだがちょっと出れるか?」


「い、いい、いまです……か?」


「ああ。夜遅くに悪いがどうしても行きたいんだ――さあ、飛び降りてこい!」


「え、……えぇ!?」


 手をひろげ、「さあ!」と促す。

 ルビィは少しだけ逡巡したようだったが、俺を、いやユータロウを信じて飛び降りた。


 俺は軽々とルビィの体を受け止める。

 俺のままではそんなことは不可能だが、今俺はユータロウになっている。


 変身中は化けている相手の身体能力やスキル、魔法も真似することができるようになる。

 さすがに完全に、というわけにはいかないが、女の子一人受け止めるくらいはわけない。


「そ、それで……ど、こへ……?」


「ああ、ルビィの両親の墓に行こう! オークを倒してきたことを早く報告したいんだ!」


 そういうと、ルビィは感動したようだった。

 自分の両親を大事にしてもらえて嬉しくないやつなどいない。


 俺はルビィをお姫さまだっこしながら歩き出す。

 一歩すすむたび、腕の中のルビィの爆乳がプルンプルンと震える。


 あまりにも柔らかそうで、いろんな意味でおいしそうで……理性を保つのが大変難しかった。


 そうしてしばらく歩くと、街の墓所へと到着した。

 そこには、たくさんの墓標が並んでいた。


「ええと、ルビィの両親の墓はどれだったか。すまん、暗くて」


「あ、あっちの……ほう、で、す……」


 ルビィに案内させ、両親の墓標へ。

 俺は墓に手を合わせ、土の下の両親に話しかける。


 こんばんは、俺の名はモトキといいます。

 今はユータロウくんの姿をしていますが、実際はもっと地味な男です。 


 すいません、あなた方の娘さんを近々もてあそびますが、理由あってのことなので恨まないで下さい。


 墓参りを終えた俺らは、星を見ながら語らった。


 ルビィはぽつぽつと両親との思い出を話してくれたし、俺……ではなくユータロウにどれだけ感謝しているかも恥ずかしそうに語った。


 そして空が白んできたころ、俺は言った。


「残念だ、もう朝が来ちまった。――なあルビィ、今夜のことは二人だけの大事な思い出にしようぜ! 言葉にすると陳腐ちんぷになっちまうから、二人きりの時も今夜のことは話さないことにしよう。心の宝箱に入れて、大事にしまっておくんだ!」


 ルビィが本物のユータロウにこのことを話さないよう、綺麗な言葉で釘をさしておく。


「は、はい……! ここ、ろ……の宝石……箱……」


 心の宝石箱という表現が気に入ったようで、ルビィはうっとりと顔をとろけさせた。



**


 同時刻、ハイ・オークの娘リューも動いていた。


 リューは盗賊系のスキル『壁登り』を使い、魔導書グリモア屋の壁を二本の足でのぼる。


 そしてルビィが飛び降りた鎧戸から――つまり鍵もかけずに開けっ放しの鎧戸から、部屋へと進入した。


 シュタッ! と着地するリュー。


「怪盗リューちゃん参上ですよ、っと。いやー我ながら鮮やかなお手並みですねえ、自分の才能が怖いですねえ、どうしてみんなわたしをあがめないんでしょうねえ」

 一人自慢げなリュー。


 リューはオークの貴族の娘である。

 オークは基本的には醜い種族として知られているが、貴族や王族のオークの風貌はほとんどエルフである。

 美しく、そして魔法やスキルの才能が備わっている。

 

 リューも幼い頃は神童として期待されていた。


 しかし残念ながら、彼女は人格的にあれだった。

 人への嫌がらせといたずらに全力をかけるようなバカな子だった。


 そんなリューは盗賊系のスキルばかりを好んで拾得。

 同族の屋敷に忍び込んでは、どうでもいいものを盗んだりトラップをしかけたりしていた。


 そればかりか、オークの女王オ・ルナの居城から高級酒を盗みだすなど、ばれたら処刑ものの蛮行を繰り返していた。


 そしてばれた。


 だが、ルナはリューをさばかなかった。

『わらわの友になってくれるっちゅーなら許してやらんでもないぞー』と。


 そうしてルナの友となったリューは、よく居城に遊びにきていた。


 そんなリューは、居城に滞在していたモトキに目をつけられた。

 そして、旅に連れ出され、現在に至る。


「ったく、モトキさんはわたしをなんだと思ってるんでしょうねえ。人を顎で使ったりおっぱい見たり触ってきたり、あとで絶対目にものを――お、ありましたありました」

 

 モトキに頼まれルビィの部屋をあさっていたリューは、目的のものを発見した。


 ベッドの下に隠されていたそれは紙の束。

 紙には文字がびっしりと書き付けられていた。


「こんなもの盗ませてどうしようってんですかねえ、あの人」


 それは、ルビィ作の小説だった。

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