遺跡探索 借金取りから見た冒険者

弓納持水面

第1話 顔合わせ 視点ボルドー

「なぁ、ディッツの旦那。これは少し話が違うんじゃねえか?」

椅子に座り、テーブルに足を乗せた女が苛立ちを隠さない声で話す。


「ラアナ。その辺をこれから説明する。」

この部屋には自分を含め、6人の男女が居るが、それを集めた初老のドワーフが低い声で応える。


ここは魔都ハルピアの冒険者の店。

[森の若木亭]ミーティング用の小部屋だ。

集められた6人は自分以外は皆、冒険者。

これから新しいパーティの顔合せだ。


「全員揃ったようだな。飲み物は手元にいったか?皆を集めたのは大金に成る冒険のネタを仕入れたからだ。だが、知った顔、知らぬ顔があるだろう。まずは自己紹介と行こう。」

初老のドワーフがエールの入ったカップを手に立ち上がり話し始める。


「まず儂はドワーフのディッツ。[鋼鉄の鍋]のリーダーにして、今回の冒険の企画人だ。得物は見ての通り戦斧、30年以上戦士をしている。」


「企画の内容については最後に話す。まずは自己紹介からだ。」

そういうとエールを飲み干し席に着いた。


「私は正魔術師のルース。今回の企画には初期から参加しています。調査結果が正しければ大金を得られるはずです。」

痩せた端正な顔立ちの、いかにも魔術師といった風貌の男が立ち上がり自己紹介を始めた。


「奨学金を返し、竜の島で待ってる彼女の為にも大金を稼ぎたい。皆さん協力してゆきましょう」

そして、やはりエールを飲み干す。


「お目出度い野郎だ。彼女とやらは今頃は他の野郎と、よろしくヤッテるさ。」

テーブルに足を乗せた女が横槍を入れる。

魔術師は睨みつけたが、ドワーフが取りなし座った。


「ラアナ、お前の番だ。」


「あたいは最後にさせてもらうよ旦那。場合によっちゃ降りるからな。」


「そっちの仔猫ちゃん達からにしてくれ。」

ラアナと呼ばれた盗賊風の女は立ち上がる素振りも見せず、顎で少女達を示した。


「僕はコドラ村のチカカ。で、こっちの旅司祭はコドラ村のフォニ。僕は軽戦士で得物は片手剣と盾。フォニは神力7、それにメイスが使える。」

2人が立ち上がり挨拶をする。


「ディッツさんに声をかけられて[鋼鉄の鍋]に参加する事にしました。よろしくお願い致します。」

2人共にエールを飲み干すが、チカカという少女はむせている。

まだ成人して間もないのだろう。


「嬢ちゃんにエールは早かったんじゃないか?それに挨拶も出来ねえ、喉の詰まった司祭さまが相方ときた。」


「なぁ旦那!商隊護衛にしか使えねぇ、おのぼりなんぞ、どうするつもりだ?」


「ディッツ殿、そこの鼠も仲間なのか?」

至高神の旅司祭がボソリと呟く。


口の悪い女がテーブルから足を下ろし立ち上がった。

「喋れる様で安心したぜ。糞司祭。」

いつの間にか両手に抜身の短剣を握っている。

司祭はメイスを構えた。


「止めないか。」

険悪な雰囲気を宥める様にドワーフが間に入る。

「ラアナ、お前の番だ。」


「あ?そこの野郎が、まだじゃねぇか。旦那、ボケちまったのか?」

ドワーフが顔をしかめ私の方に向き直る。

「こいつは同行者だが、仲間じゃない。」

ドワーフ以外の全員が怪訝な顔を見せた。

まぁ確かにそうなるだろう。


「すまないが自己紹介をしてくれないか?」

そうして話を振られたので、私は話を始めた。


「私はハルピアのボルドー。フォレスト商会の商人です。神力は4ですが、交易の神の啓示を受けています。得物は片手剣ですが護身程度の腕です。今回、商会からの命令でディッツさん率いる[鋼鉄の鍋]に同行する事になりました。よろしくお願い致します。」

そして、全員を見渡す。

全員が苦々しい顔をしている。


「わかったろう?ラアナ。この面子に声をかけたのは儂だが、集めたのは儂じゃない。それに、お前にも降りる選択肢はないんだ。」


「糞が!付け馬野郎が付くのかよ。」

そう、私はフォレスト商会からつけられた監視役。

ここにいるフォニ司祭以外の全員はフォレスト商会から多額の借金をしている債務者だ。


「フォニ司祭以外でパーティを抜けたい方は債務の全額返済をお願い致します。」

私が念押しすると、敵意が部屋に膨らむ。


「調子にのるなよ糞野郎。月夜の晩ばかりじゃないんだぜ?」


「止めないか。お前がババアになるまで娼館で腰振って暮らしたいなら別だがな。」

ドワーフの再びの制止に女は露骨に舌打ちをした。


「あたいはラアナ。見ての通りケチな盗賊さ。ディッツの旦那の[鋼鉄の鍋]に属してる。」

それだけ言うとエールを煽った。


「それじゃあ、今回の企画の話をする。なに、上手くやりゃ借金なんざすぐ返して、お釣りが来るさ。」

ドワーフが、そう告げたが返事は誰もしなかった。

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