Golem Battle Online ~俺がゴーレムだと名乗れる世界はデスゲームだった~

モノクロ

第1章 チュートリアル

第1話 殴りたい、このドヤ顔

 明日葉恭介はVRMMORPGのGolem Battle Online(略称:GBO)において、トゥモローのキャラネームでプレイヤーしている。


 GBOはフォールンゲームズという堕天使をロゴにした会社が開発したゲームであり、ゴーレムを操ってタワー探索やバトル、レースを楽しむものだ。


 プレイヤーはパイロットと呼ばれ、ゲームスタートと同時に1機のベースゴーレムを与えられる。


 パイロットはタワー探索、バトル、レースで手に入れた設計図や鉱物、魔石を使ってゴーレムを強化できる。


 現在、GBOは世界10ヶ国でプレイできるようになっており、いずれの国でも大人気のゲームとして知られている。


 プレイできる国は以下の通りであり、それぞれの国のサーバー名も異なる。


 日本は瑞穂サーバー。


 A国はユニコメサーバー。


 BR国はサッカボサーバー。


 C国はチナシンサーバー。


 D国はジャルマンサーバー。


 E国はエゲレシュサーバー。


 EG国はファラオウサーバー。


 F国はフレッチサーバー。


 IN国はカルエサーバー。


 R国はマトリョサーバー。


 サーバーを跨いだ協力プレイはできないが、各国のパイロットは代理戦争というイベントで国を超えてバトルもしくはレースで対戦できる。


 それはさておき、トゥモローは瑞穂サーバーにおけるゴーレムレースの大会に出場していた。


『3,2,1,Go!』


 3カウントからレース開始の合図がアナウンスされ、選手の乗ったゴーレムが一斉にスタートする。


『さあ、第3回ゴーレムレース大会の決勝戦が始まりました! 注目は4番ゲートから発進した瑞穂の黄色い弾丸ことトゥモロー選手のドラキオンです! 第1回第2回と優勝し、このレースで1位になれば三連覇達成です!』


 アナウンスにある通り、トゥモローはドラキオンというゴーレムでゴーレムレース界隈では二つ名持ちの有名なパイロットなっていた。


 このドラキオンはユニークゴーレムであり、全サーバーにおいて1つしかない黄色い竜人型ゴーレムだ。


 何故なら、ドラキオンの設計図は第1回大会と第2回大会で手に入れた設計図を合成した後にパワーアップさせたからである。


 第1回大会の設計図はアダマントタンクで、第2回大会の設計図はドラゴイルのものだ。


 これらを探索中に手に入れたレアアイテムを使って完成したのがドラームドなるゴーレムであり、更に別の探索中に手に入れたレアアイテムによってドラキオンになった。


 10あるサーバーの中で、そんなことができたのはトゥモローだけだから、全サーバーにおいてドラキオンはユニークゴーレムなのである。


「う~ん、実に我ながら素晴らしい。ドラキオンでレースに出て負ける気がしないね」


 トゥモローはそう言っている間にも他の選手を気にせず、モンスターを含む障害物を最小限の動きで躱してどんどん差をつけていく。


 番狂わせが起きることもなく、トゥモローは1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


「瑞穂の黄色い弾丸って恥ずかしいんだよなぁ」


 アナウンスはAIによるものなのだが、トゥモローは今まで一度も自分から名乗ったことのない二つ名を聞いて恥ずかしくなった。


 学生時代なら無邪気に喜んでいたかもしれないが、明日葉恭介トゥモローは現実において社会人になって5年が経っているサラリーマンだ。


 中二病の香ばしさを感じる二つ名なんて恥ずかしいだけだろう。


 というよりも、二つ名なんてどうでも良いから早く優勝賞品の設計図をくれという気分である。


 トゥモローの視界は光に包まれ、光が収まったら表彰式に場面が映るはずだった。


 ところが、光が収まってトゥモローが目にしたのは待機室パイロットルームだった。


 待機室パイロットルームとは、各パイロットごとのホームで許可がなければ他のパイロットは入れない。


 しかし、この待機室パイロットルームはトゥモローのものではなかった。


 そう判断できたのは今いる待機室パイロットルームがパイロットに与えられる初期の状態であり、自分以外にパイロットスーツを着た女性パイロットがいたからだ。


「ようやく来たわね。この私を待たせるなんてどういうつもりよ?」


「いや、あんた誰? いきなりパイロットに待たされたとか言われてもなんのことかわからないんだが」


「うぐっ、私のことを知らない? それ、本気で言ってるの?」


「知らないって言ってるだろ? 誰もがお前を知ってると思うなよ。せめて名乗れや。名前を聞いたら思い出すかもしれないし」


 女性のパイロットはトゥモローに知らないと言われて傷ついたようだが、トゥモローは本当に心当たりがないので知らないと重ねて言った。


「フン、良いわ。聞いて驚きなさい。私が、私こそが福神漬けよ!」


 ドヤ顔で胸を張る女性はスレンダーな黒髪美人だ。


 美人ではあるもののとことなく残念臭が漂っている。


「福神漬けってパイロットなら知ってるけど、あっちは金髪碧眼の凄腕だろ? あんた鏡見たことあるか? 黒髪黒目で見た目が違うのに福神漬けって言い張るのはちと無理があるだろ」


「え? 黒髪黒目? 嘘?」


「嘘じゃねえよ。ってか、初期の待機室パイロットルームじゃ自分の姿の映るものもないからわからないか。いや、メニュー画面を見れば自分の姿がわかるんじゃね?」


「それが開けないのよ。メニュー画面も開けないし、この部屋の外にも出られなくて何もできないから暇死にしそうだったの」


「何それ怖い」


 トゥモローがそんな空間に自分も移動させられたことに気づき、ブルッと体を震わせた。


 (ん? ちょっと待て。汗? ゲームで汗なんてかかないだろ?)


 GBOは優れたゲームだけれど、汗をかくところまでは再現されていない。


 トゥモローが冷や汗によって異常事態に巻き込まれたと理解した時、待機室パイロットルームの壁が光ってモニターが現れる。


 モニターは待機室パイロットルームをアップデートすることで手に入るものだが、自分も福神漬けを名乗る女性パイロットも何もしていない。


 とんだオカルト現象を目撃してしまったと思ったその時、モニターの電源が勝手にオンになった。


「なんだ!?」


「ひぃっ!?」


 よくわからない部屋に閉じ込められ、オカルト現象に巻き込まれれば2人が驚くのも当然だ。


 モニターにはフォールンゲームズのマスコット、フォルフォルというデフォルメされた堕天使が映った。


『明日葉恭介君、更科麗華ちゃん、おめでとう! 君達は瑞穂サーバー、いや、日本を代表して国家の存亡をかけた代理戦争に参加するパイロットに選ばれたよ!』


「ちょっと待て! なんで俺のフルネーム知ってるんだ!?」


「私の名前まで!? フォールンゲームズはどんなシステムを使ってるのよ!?」


『はいはい。お乳突いて、じゃなくて落ち着いて。君達の疑問にもちゃんと答えるから』


 (こいつ下ネタ言い始めたぞ? 最近のAIってそんな機能まであるのか?)


 シルバはフォルフォルが下ネタを挟みながら自分達宥めようとするので、今のAI技術の使い方について疑問を抱いた。


『言っておくけど、私はこの姿を借りた神であってフォルフォルじゃないよ。名前はね、教えてあーげない。だから、私のことはこの姿の通りフォルフォルと呼んじゃって』


 フォルフォルの姿で煽る自称神に対し、恭介と麗華は額に青筋を浮かべた。


 それでも、自称神を怒らせて得られるはずの情報が得られなくなるのは困るから、どちらもグッと堪えた。


「フォルフォル、俺達はいつGBOをログアウトした? いつ、俺達をこの部屋に誘拐した?」


「え?」


『ふーん、エッチじゃん。よくわかったね』


「なんでだよ。エッチ関係ないだろ」


『いやいや、私が丹精込めて創り上げた待機室パイロットルームに君たちを眠らせたまま移動させたのに、ログアウトさせたことも誘拐したと気づくなんて周囲に敏感じゃなきゃわからいよ。つまり君はエッチだ』


 (殴りたい、このドヤ顔)


 体は子供、頭脳は大人な探偵の決めポーズをするフォルフォルを見て、恭介の苛立ちは増す一方だけど、どうにか堪えてみせる。


「GBOでは汗をかくことが再現されない。お前に閉じ込められて冷や汗をかいて気づいた」


『あぁ、なるほどねー。それは考えてなかった。まあ、ここが現実だとわかってくれて話が早いのは助かるよ。とりあえず、君達2人にはこれを見てもらおうか』


 フォルフォルが指パッチンした直後、モニターに映る画面が切り替わって日本を上空から撮影した映像になった。


「おいおい、冗談だろ?」


「光の壁?」


 恭介と麗華の目に映ったのは日本が光の壁に囲まれて隔離された映像だった。

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