死霊術師は2度笑う

コマ凛太郎

第1話 2つの聖騎士の首

 

 この王国で至高神とされる「慈愛母神マレイヤ」を崇拝し、それに仕える聖騎士。

 その聖騎士の中で精鋭中の精鋭6人を、人々は敬意を込めて「6聖剣」と呼んだ。



 しかしその6聖剣の内の1人トマスの死体には、すでに無数の動屍ゾンビが群がりその肉に鋭い獰猛な牙を本能のままに食い込ませている。


 その光景を目にしながら生き残ったもう1人の6聖剣ラディは、背筋を凍らせ目の前の男にゆっくりと視線を戻した。



「俺の顔は覚えているか? …復讐を果たす為に地獄から舞い戻ったぞ」

「…お、お前が死霊術師ネクロマンサーなのかっ!?」

「――聖なる騎士とは笑わせる。死霊によりて闇に葬られるがいい」



 男がゆっくりとラディに近付くと同時に、大地を覆うように存在する無数の動屍ゾンビが一斉に動き出す。いずれの動屍ゾンビの視線の先には、ラディの姿があった。


 獲物を狙う無数の動屍ゾンビを目前にしたラディは、装備した全身鎧を小刻みに震わせカチャカチャと金属音を立てたのだった。





―――




 大神殿。それは広大な敷地に3年前から大規模な建設が進めれ、今春にようやく完成された巨大な神殿である。


 そこは至高神──慈愛母神マレイヤを崇拝し儀式を執り行う80名を超える司祭や修道女、そして彼らの代表であり最高司祭とされる「司教」が在籍している。


 また同じく慈愛母神マレイヤを崇拝し、国防や国内の治安維持の役割がある聖騎士団総勢50名以上も常に駐屯していた。




 その大神殿の中でも、修道女らの朝は特別に早い。

 彼女らは起床後すぐに身支度を整えると、朝食前には神殿の大聖堂に向かい、祭壇に季節の花を供え祈りを捧げる決まり事がある。


 この日の当番であった若き修道女も、献花と祈りを捧げようと大聖堂にやって来た。そして、大聖堂の高い吹き抜けの奥にあるステンドグラスから入る朝日に気分を良くし、祭壇に向かい歩いていった。


 そして彼女は絶句した。



――神聖なる祭壇にあってはならない特別異質な物。



 それは聖騎士の兜を被った「2つの首」であった。



 若い修道女は絶句したまま腰を抜かし、やがて全身を震わせながら大聖堂中に響き渡る大きな叫び声を上げたのだった。



 その直後、この事件はすぐに大神殿中に知れ渡り、司教であるリアムスと聖騎士団長を務めるウォルグがすぐに大聖堂に駆け付けた。その2人の後に続き司祭や聖騎士らも続々と大聖堂に入る。


「…バ、バカな、この2人は我が同胞、…6聖剣の2人」


 ウォルグは祭壇上の無残な姿になってしまった同胞を、まさに信じられないという眼差しで見ていた。



──3年前の大罪者達は、7日以内に死霊によって闇に葬られる──



 祭壇上の首の横に置かれた羊皮紙には、2人の血で書かれたであろうメッセージが残っていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る