第2話 出会い

「はぁ」

「はぁ」


 妓楼を出てため息を吐いた空燕は、同じく妓楼から出てきてため息を吐いた男を見た。


「何だ?兄さん。馴染みの妓女ぎじょに先客でも居たのか?」


 随分と身形みなりが良く、若く、厳つい男に、空燕は興味を引かれ尋ねた。


「いや。私はこの妓楼に初めて来た」


 男は空燕をちらりと見てつっけんどんに返した。


「おっ!?奇偶だな!俺もだ。じゃあ、ため息を吐くなんて、この妓楼に何か不満があったのか?」


 空燕は気にせず会話を続ける。

 男は再びため息を吐くと、なぜ初対面の人間にこのようなことを、という態度で応えた。


「いや、不満はない。女人は美しく、柔らかく、私を受け入れてくれた。ただ……」


「ただ、何だ?」


 空燕が興味深そうに首を傾げる。


「……どの妓楼に行っても、身体は熱くなっても、心は冷めて行くのだ……」


 男は困ったようにため息を吐き、俯いた。


「……あぁ……」


 空燕は男のため息の理由が己と全く同じであることに驚いていた。

 ただ、空燕にはその現象の理由が何となく分かっていた。だから、男に言った。


「おい、兄さん。あんたは若くて、見た目も良くて、身形まで良い。きっと引く手数多だろう。なら、妓楼になんて来ないで、好いた相手を見つけろ。きっと、いた相手ならば心も熱くなるさ」


 その言葉に、男はむっとしたようだった。顔を上げ、口を尖らせ言う。


「愛だの恋だのは面倒だ。そう思うのなら、あんたはなぜ妓楼通いなどしている?」


「俺はあんたとは違う。若くもなければ、男前でもないし、ただの平民だ。俺は肉欲に溺れられれば何だって良いのさ」


 そう空燕は手っ取り早く肉欲に溺れたかっただけだ。

 その結果が少し残念に思えても。


「まぁ、いい。次の妓楼では見つかるかもしれないからな」


 男は空燕の答えに納得いかないようだったが、切り替えるように呟くと妓楼の前を去った。


(なんだあいつ妓楼荒しか?やけに妓楼に拘るな)


 空燕はそんな男に呆れながら、一日で掟を全て破った足で、荷をまとめるために鎮魔司に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る