その3 水を望んだ翌日は望まない水の日。

「まあなんとなく凄いと感じた」というのが召喚術史料館の私の感想だ。

アホで...申し訳ない。


史料館よりも、イケモト自身が家族について語った内容の方が、私の頭に残った。



「じいちゃんは資格試験に落ちた。」

「実はばあちゃんは別の特殊な魔術能力を持っている、隠れ魔術師だった。」

「じいちゃんには娘しか居らず、その全員が召喚士になろうとしなかった。」

「父は平凡なサラリーマン。」

「先祖代々続くハゲの歴史はじいちゃんが止めた。」


つまり、池本家の中で、じいちゃんが最も偉大かつ功績が大きいというわけだ。


そうした話が続くうち、私の心を強烈に惹き付けるフレーズが出て来た。



イケ:「ひいじいちゃんは乙枯川おつかれがわを飲むのが好きで、亡くなる時に最後に飲んだのがその水でした。」


新井:「そこって遠い?」



0.25秒で食い付いた。



イケ:「すぐ近くですよ。だけど甘い水は、上流まで行かないと飲めません。」


新井:「行きたい...。」


イケ:「腰はどうですか?」


新井:「...うーーん...。」



明日になれば今よりもっとマシになる、きっとそうだ。

それでも上流まで歩けるかって言われたら、自信ないなあ。



イケ:「コルセットを巻いたら...いや、治るのが遅くなるかもしれません。」



あ、そうか、コルセットね。

7年前にぎっくり腰になった時は、1度も使わなかったな。

動けるようになるまでひたすら横になって寝てたわ。


食事・家事・仕事、それに私の介助も元夫がしてくれてたから、生活に問題は無かったんだよね。

そういやその時も、「コルセットして動くよりも、安静にしてた方が早く治るって聞いた」と言われたなあ。


すぐにでも行きたかったけれど、史料館から宿に戻った後は、安静にして寝た。

朝・昼・夕と、自分で食事を作って提供してくれるイケモトに、感謝の気持ちでいっぱいになった。

何かお返しすべきだと思う。

そのためにも、少しでも早く回復したいと強く思うようになった。



翌日、腰の状態はさらに回復した。

よっしゃ!と思って窓の外を見ると、勢い良く雨が降っていた。



....



イケ:「ゲームでもしましょうか?」


新井:「イイネ!」


イケ:「軍棋はできますか?」


新井:「ノン。」


イケ:「狭碁は?」


新井:「ノッ。」


イケ:「シャッハエアファッセンは?」


新井:「なんすかそれ?」


イケ:「ならば...。」



そう言ってイケモトは部屋から出た。

そしてすぐに戻って来た。

手にはパソコン。



イケ:「色々できますが、僕としては猫生ゲームをしたいですね。」


新井:「パソコンでやるの?」


イケ:「はい。」



そう言ってイケモトは、日本でなんだか見た事あるようなゲームコントローラーを2つ、パソコンにぶっ刺した。


むぅ...やった事ないぞ...。


予備知識0で始めたそれは、意外なほど白熱した。

操作は簡単で、運要素が大きい事もあり、初心者の私でも最終結果でイケモトに勝利する事ができた。



自然と、2人の心の距離が縮まった気がした。



新井:「自分、タメ口でいっすか?イケちゃんもアタシにタメ口でおなしゃす!」


イケ:「全然OK。」


新井:「もう『はるか』って呼び捨てでいいよ。」


イケ:「イケちゃんでもシンタローでもなんとでも呼んで。」


新井:「そういやシンタロウだったっけ?」


イケ:「うぉい!忘れるの早いな!」


新井:「おぼろげながら忘れておりました。」


イケ:「それもうおぼろげですらないよね。」



そんな会話と共にゲームを楽しんでいたら、あっさり1日が過ぎてしまった。

この日1番の驚きは、私よりイケモトの方が1~2歳年上だという事実だった。

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