【第5章】もっとチガうヨ

その1 適応。

下の方から、ガタガタ音がする。

うるさいなあ。

音の方に背を向けるよう、寝返りする。



痛ぇあああああ!!



くっそ、腰、クッソ!

おっま、ちょ、睡眠、もうちょっと睡眠させてくださいよ!



イケ:「おはようございます。」



私の、‘本日はもっと睡眠したい願望’に、トドメを刺す声が放たれた。



新井:「う˝ぁ~はようございます。」



そうだ、ここ、自分の部屋じゃないんだよな。

あ~、くっそ、最悪の寝覚めだよ。


...ぶっさいくな寝起きの顔と、怠惰な動物みたいな声で、イケメンに対応してしまった...。

もうほんとダメだ、あたしゃあ、ダメな女だ。

髪の毛も寝癖爆発してるだろうな、どうせ...そういや鏡どこ?



朝の挨拶をしたイケモトは、ススーッと部屋を出て行った。

次にこの部屋に戻って来る時は必ずノックをしてくれる、という信頼のもと、私はリュックに手を伸ばし、のろのろと着替えを始めた。


身体の要の部分に気を遣いながらの動作は、悲しいぐらいにすっトロくなる。

そしてどんなに気を遣っても、ちょっとした刺激でズゴッ!と痛みに襲われる。

思い起こせば、この状態は7年ぶり2回目ですな...要らんわこんなん...。


着替えが終わり、現状における最も楽な姿勢で自分の情けなさに浸っていたところ、ドアをノックする音が耳に入った。



イケ:「食事をお持ちしました。」



執事かよ。

この館のご主人様はあなたの方でしょうが。


昨日の夕食同様、折り畳みテーブルが登場。

そこに並べられたのは、コーンクリームスープ、プチトマトとレタスのサラダ、イモムシのコッペパンサンド、ブルーベリーヨーグルト、この4品と水だった。


私は虫が嫌いだ...。



だが!



食べ物となると、話は別だ。

煮たり焼いたりされていたら、それはもう虫ではなく、料理の品ですよ。


というわけで、何の躊躇もなく、全てを平らげた。

このイモムシは初めて食べた。

香ばしく、トロっとしていて、なかなか美味だった。

なるほど、パンに挟むとこうなるわけか、と、感心した。



朝食後は、イケモトから、昨日の続きという形で、より詳しくいろんな事を話してもらった。


召喚術を使うには、国の許可が必要で、その内容も含めて記入した申請書を提出したとか。

魔法陣は1回描いてすぐ召喚というわけにはいかないんだとか。

私を召喚するまでの事前準備に、かなりの手間をかけたみたいだ。


そして、当日集まったあの人々は、イケモトが招待したわけではなかったらしい。

そもそも召喚術をあの日にあの場所で使うというのは極秘扱いだったという。

ところが、それをどこからともなく知った人々が集まり、あの人だかりができてしまった。


政府はそういう事態を予め想定していて、輪の最前列には私服の警備員が配置されていたとの事。

あの人だかりの中には、監視役として政府関係者が何人か来ていたそうだ。


もちろん、私はそんなの全然気が付かなかった。

それどころじゃなかったからね...。


私があの場から逃走したせいで、その後に予定されていた‘歓迎会@碌迷館’は中止になったそうだ。

その歓迎会には当然、政府関係者の席を用意していたわけだ...しかし当のイケモト曰く、「その3倍ぐらい名無しで席を予約しておいた」のだそうな。

理由は、「当日集まった野次馬の方々のためにね(笑)。面白くなるかな、って。」という恐ろしいものだった。



改めてこの話を聞いた私は、召喚士の世界に興味が湧いた。

召喚された当事者でもあるし。

そこで、召喚術史料館に連れて行ってもらう約束をした。


腰が良くなって、動けるようになったら、の話だけど。

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