【第4章】ここがチガうヨ

その1 緑色。

ちょっと眠ったおかげか、病院で貼ってもらった湿布の効果なのかはわからないけれど、ほんの僅か腰痛が軽くなった気がした。

メシまで作ってもらっちゃって、なんだか悪いなあ...。


それはそうと、私はこれからどうするべきだろうか?

もし今の状況が、イケモト氏による大掛かりなトリックだったとしても、そんなに大事おおごとにはならない。


本当に言われるような異世界に来てしまったのだとしたら...。

とにもかくにも、元居た世界と何が違うのかを知っておきたい。

人間はネ、知る事でネ、生きる道をだネ...。



...とりあえず新聞を読んだ。


眠る前に持って来てもらった3日ぶんのやつだ。

流し読みしかしてなかったから、今度はじっくり読んだ。


全身ライガースのユニフォームが、私の知っているプロ野球のものと違っていて、とても気になった。

でもそれ以上に、「銀総書司が自ら飛翔体になった」というのが要注目だと感じた。



人間って、そんなに飛べますか?



記事には、‘自国の魔術力の高さを内外に示す狙いがあると見られる’と書かれていた。

各国において、魔術力は重大要素なんだろうね...。


と、すると、イケモト氏の召喚術は、月本国においてかなり貴重なのではないか?

あー、だから私の医療費が無料になったり、国から補助が出るとか言ってた...のかな。

そうだとすると、なんかとんでもない人の嫁候補になってるんじゃないか、私は。


あ、そうだそうだ、この総書司、無事だったのかな?

その後が気になるわ...ぶっ飛んで海に落ちて無事な人間ってどんなよ?

そういうのも魔法がすげーって理由で全部クリアになっちゃうの?


などと、考えながら新聞を読んでいたら、ドアをノックする音が聞こえた。



イケ:「できました。入っていいですか?」


新井:「あ、はーい。」



ドアを開けたイケモトが持っていたのは、鍋ではなくテーブルだった。

折り畳み式のそれは、私の目の前で広げられ、テーブルとしての本来の姿に落ち着いた。


そしてイケモトは再び部屋を出ると、本命のお鍋を持って来た。

日本でよく見たそれと変わらない、両手で持つ土鍋だった。

それを見て、なんだかホッとした。


イケモトは、それを鍋敷きの上に置き、蓋を開けた。


中身を見る。

豆腐・ネギ・しいたけのようなものは確認できた。

そして、エビ・ホタテ・白身魚の切り身らしき奴等も発見された。


おかしな物は見当たらない。

食べても大丈夫だろう...というか美味しそうだ。



イケ:「あ、忘れてました。ごはん持って来ますね。」



私はこうした鍋料理を食べる時は、ごはんをお供にするタイプだ。

うどんは最後に入れるだけだし、物足りない。

...もしかして、最初から最後までうどんを泳がすつもりだったのだろうか?



イケ:「はい、どうぞ。一緒に食べましょう。」



イケモトがごはんを持って来た。

箸と共に、私に差し出す。

「いただきます。」と、手を合わせようとした時、私の目が違和感を捉えた。



ご飯粒が全て、緑色だった。

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