第4話 初討伐はスライム

 街の外に出たグリム。

 グリムが居た噴水広場のある街、フォンスから東に少し行ったところ。そこには森があった。


 街を出たところ、チラホラ見えたプレイヤー達が何故かこっちの方角に歩いて行ったので、もしかしてと思いついて行くと、この森があったのだ。

 つまり、初心者にも打ってつけ、近場の良い狩場ということだ。


「この森広そう」


 最初にグリムの口から出た感想は、あまりにも漠然としたもの。

 ファンタジーな世界には全く関係のない、分かりきっていることだった。


「って、レベル上げ……うわぁ」


 目の前には人が居た。

 しかも一人だけじゃない。何人もチラホラ男女問わずプレイヤーが武器を構えている。

 一人で剣を構えると男性。

 男女で睦まじく槍と弓を構えるペア。

 モンスターの背後を取り、短剣を突き付ける少年。とにかく多種多様だった。


「そうだよね。初心者に打ってつけの狩場ってことは、それだけたくさん人が集まるってことなんだよね。困ったな、これじゃあレベル上げする前に、モンスターを狩り尽くされちゃうな」


 グリムは顳顬を掻いた。

 プレシャスコード・オンラインの世界にはたくさんのダンジョンがある。

 そこにはモンスターが生息していて、いわゆる狩場になる。


 モンスター達は一度倒せばしばらく出てこない。

 一度に出てくるモンスターには限りがあるのだ。


 もちろん時間が経てば再び現れるようになる。

 だけどこうプレイヤー達がひしめき返り、狩場を独占するようなことになれば、プレイヤー間でのトラブルにも繋がる。


 そこでグリムは森の少し奥までいってみる。

 そうすれば、他の人とバッティングすることもないと予想した。


「少し奥まで行こう。その分、モンスターは強いと思うけど」


 グリムは初心者にもかかわらず、森の奥を目指す。

 チラホラと聞こえた声を掻き分け、森の奥へと消えていた。




「ここまで来ればいいよね」


 気が付けば、森の奥にやって来ていた。

 他にプレイヤーがいる気配はなく、声すら聞こえなくなる。よっぽど遠いらしい。

 グリムは一人ぼっちになり、モンスターを探す。


「最初は楽なモンスターを狩って、経験値になれば……そりゃ、いないよね」


 草むらを掻き分けて探してみた。

 しかしモンスターの姿は無い。

 グリムは困った様子で眉根を寄せ、皺を作ると、背後に気配を感じた。


「ん!?」


 距離を取って振り返った。

 するとグリムの背後にいたのはモンスターだったらしい。

 とはいえ強そうじゃない。

 RPGでは定番の雑魚モンスター、スライムだった。


「スライム?」


 プキュー!


 声の無い萎む音が聞こえる。

 今のはスライムの鳴き声? ではないと思うが、無警戒なのか全然逃げようともしない。


「倒すの忍びないなー。でも、狩らせてもらうよ」


 声を少し低くして、鞘から剣を抜いた。

 ギラリと普通の剣(ショートソード)が陽光を浴びて光り輝いて見えた。


「おっ、かなり良いね」


 正直、剣なんて生まれてこの方持つ機会なんて無かった。

 グリムは気分を上げ、スライムに攻撃を繰り出す。

 縦切りによる一刀両断が決まった! かと思えば、スライムは避けていた。


「避けるとかあるの?」


 グリムは驚く。

 スライムに避けられるなんて誰も思わない。

 倒せたと思った渾身の一撃を躱され、スライムは反撃とばかりに攻撃して来た。


 プキュー!


 体を窄ませ、飛び上がる。

 その瞬間、グリムは左足を一歩下げ、右手に持った剣を振り上げる。

 決して速いわけではなく、スライムの目の前まで剣を持っていくと、そのまま見事に命中して、カウンターで振り抜く。


「そりゃぁ!」


 スライムの体を一刀両断。

 横一文字で薙ぎ払われると、スライムは消滅。

 何も残ることはなく、スライムだけを撃破した。


「倒した?」


 半信半疑なグリム。

 如何やら器用さを表す、DEXが高いおかげで、カウンターによる反撃の一撃の確率が上がったらしい。

 ちょっと上げておいて良かった安堵すると、トュルルルーン! と、ファンファーレが流れる。


「な、なに?」


 何事かと思いキョロキョロすると、目の前にステータスバーが表示される。

 そこには何とLV2の文字。

 如何やらレベルが上がったようで、ステータスも少し成長している。


「やった! レベルアップだ」


 グリムは普通に喜んだ。

 初めてのモンスターに避けられて気持ちの良い一撃ではなく、カウンターによる反撃なのはイレギュラーだとしても、レベルが上がるならそれで良い。

 もう一度胸を撫で下ろすと、グリムはこの調子でもう少し森の奥まで行ってみることにした。


「この調子でスライムを倒せば、何か落とすかも。それを売ったらお金の面も心配ないよね」


 グリムは堅実思考だった。

 そのために危険を冒していた。

 しかしグリムは大丈夫だと思っていた。

 それもこれも、MENが高いおかげだと、グリムはポジティブに考えて歩き出した。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る