天上の雫 〜幻の蘇生薬を求めて難攻不落のダンジョンを攻略する〜

花屋敷

トゥーリア

第1話

 体内に残っている魔力を全て使い、今自分が撃つことができる最大級の精霊魔法を撃つと、地響きの様な大きな音と共にその巨体がドスンと床の上に倒れ込む。ダンジョンボスのブラックドラゴンは倒れても尚開いている目でこちらを睨みつけていたがしばらくしてそれも閉じられるとその巨体が光の粒となって消え、20メートル以上もの巨体がいた場所に大きな宝箱が現れた。


 全ての魔力を注ぎ込んでその巨体を倒したローブを着ている男。荒い息を吐いて座り込んでいたが左手に持っている杖を頼りに何とかその場から立ち上がって円形の土の舞台の中央にゆっくりと近づいていった。


 男は宝箱を開ける前にその周囲に倒れている仲間に近づくと舞台の周辺に倒れていて動かない仲間の身体を順に揺する。


「ランディ!、ビンセント!、ハンク!、マーカス!」


 名前を呼ぶ、いや叫びながら倒れている4人の身体を揺するが誰もピクりとも動かない。しばらく仲間の身体を揺すっていた男はその場で天を仰いで大声で叫んだ。


「俺だけ、俺だけが生き残ったのかよ。そんなのないぜ、ダンジョンボスを倒したとしても俺だけ生き残っても仕方ないだろう!!俺たち全員で倒したんだろう。なぁ皆んな、戻ってきてくれよ!何で俺だけなんだよ!」


 大声で叫ぶとその場で慟哭する。


 慟哭は10分ほど続いただろうか。涙も出ないほど泣き叫んだ男は何かを決意した顔になるとその場で倒れて動かない仲間の遺体を収納空間から取り出した大きな分厚い布で丁寧に包むと次々と収納魔法で空間の中に収めていった。


 収納魔法、賢者が取得可能な魔法であり、この魔法では生きている物以外は全て収納できる。その中、空間では時間は進まずに止まったままだ。


 細心の注意を払い4人の首や胸元からギルドカードを外し、ゆっくりとした動作で慎重に4人の遺体を布で包んでは収納する。賢者を極めた男の収納魔法は収納可能な容量もとてつもなく大きく、4人の男性の遺体を入れたところで全く問題がない。遺体を収納し終えると男が呟いた。


「俺がお前たちの故郷に連れて行ってやるよ。そこでゆっくりと休んでくれ。そう遠くない未来に俺もそっちに行くだろうから先に行って待っていてくれ」


 友の亡骸をそれぞれの地、故郷に戻すのが残された俺の使命だ。1人生き残った男はそう考えていた。


 4人の仲間を収納した男はようやく大きな宝箱に近づいてそれを開けた。

 

 箱の中には大きな魔石、おそらくボスのブラックドラゴンの魔石だろう。そしてそれ以外には見たこともない様な立派な盾と黒みがかった紺色のローブそして大量の金貨が入っていた。男がローブを手に取ってみると肌触りの良い見るからに高級そうなローブだ。色は黒みがかった濃い紺色でキラキラと輝く虹色の糸で縁取りと刺繍がされている。


 何か特別な効果があるかもしれないと男はそれまで着ていたローブを脱いでその代わりに新しいローブを身につけたが、身につけた直後はその効果はわからない。着心地のよいローブだとしか感じられなかった。ただ暫くすると身体が軽くなっていく感じがする。


「ひょっとして体力と魔力が自動で回復するローブか?」


 新しいローブを着た男はそう呟いて盾を収め、宝箱の中にある1,000枚程の金貨を収納していると宝箱の底、金貨に埋もれていた小さなものを見つける。拾い上げてみるとそれは大人の親指程の大きさで見たこともない綺麗で複雑な装飾をされている透明なガラス瓶だった。男が持ち上げてそれを見ると中には無色透明な液体が入っている。


「綺麗なガラス瓶だがこれは何だろう? このガラス瓶の中身と俺が着たローブ、そして盾。街に戻ったら鑑定してもらおう」


 そう呟くとガラス瓶を収納した。再び金貨を収納していき全ての金貨を取り出して宝箱が空になっているのを確認した男は最後にボス部屋を一瞥して何も残っていないのを見ると部屋の奥で淡く光っている魔法陣に近づいてその上に立つ。魔法陣が今までとは違って大きく光出すと男の姿がその場から消えた。



 トゥーリア王国の中央部よりやや南にあるリゼという王国第2の規模の都市。そこには大陸最高難易度のダンジョンが1つ存在している。それ以外にもダンジョンが多数ありリゼの別名はダンジョンシティだ。


 そのダンジョンシティのリゼ中でも桁違いの難易度の高さで攻略が不可能と言われているダンジョンがあり龍峰ダンジョンと呼ばれている。



 低層から高ランクの魔獣が現れ挑戦する冒険者達の心を折り、時には命まで奪う高難易度、難攻不落と言われ続けている50層の龍峰ダンジョン。



 この世界には4つの国がある。そのうち3つは大陸にあり、1つは大陸から離れた島国だ。


 大陸の3カ国の中にはそれぞれ最高難易度と言われているダンジョンが1つずつ存在している。大陸全土で3つ。大陸以外にある島国でも同じ様なダンジョンが1つ存在しており、この世界には全部で4つの難攻不落と言われている難易度の高いダンジョンがある。


 今まで誰もクリアしたことがないこの大陸に存在している4つのダンジョン。冒険者たちはその4つのダンジョンのことをまとめてこう言っている。


『4つの地獄のダンジョン FOUR HELL DUNGEONS』


通称『地獄のダンジョン』


と。


 今まで数多くの冒険者達が各地でこの4つのダンジョンのどれかを攻略しようと挑戦していった。特にランクAの高ランクの冒険者達は腕試しとレアな宝物を目指してリゼの街に拠点を構えてまでしてダンジョン攻略をしていたが龍峰ダンジョンは次々と挑戦してくる冒険者達を嘲笑うかの様に最下層に到達する前に挑戦者達を次々と跳ね返していた。


 ある冒険者はダンジョンの中で命を落とし、ある冒険者は2度と冒険ができない身体にされ打ちひしがれてこの地を去っていった。他の未クリアのダンジョンとは桁違いの難易度を誇るこのダンジョンでは多くの冒険者達が倒れ、傷ついていった。そうこうしているうちにいつしかリゼにある龍峰ダンジョンは攻略不可能なダンジョンだと認識されていく。


 難攻不落、地獄のダンジョンと言われてきた龍峰ダンジョンがトゥーリア王国所属のランクAの冒険者達によってこの日初めてクリアされた。1人だけを残して他のパーティメンバー全員が死亡するという大きな犠牲を払って……。


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