第9話 芋聖女、推しを独り占めする

 交渉は成功したため、夕食を食べることにした。


「早速明日私も魔物狩りに連れてってもらいますからね」


「はぁん!?」


 驚いたセイグリットの顔はとても新鮮だった。


 驚きのあまりパンをテーブルの上に転がしている。


 スマホがあれば今頃連写機能を使って写真を撮っていただろう。


 驚いた顔もイケメンってどれだけ最強モブなのだろうか。


 そもそもなぜ彼をモブにしたのかゲーム会社に何度も問い合わせても、返ってきた答えは予算の都合上の問題だった。


 あの時は絶対クレーマーだと思われていたが、この世界に転生させてくれた神様に感謝だ。


「邪魔にはならないように気をつけるのでいいですか?」


「絶対ダメです。あなたに怪我などさせられません」


 はい、キター!


 無自覚スパダリ攻撃!


 もう私のライフも0になりました。


「もしかして私一人を守れないんですか?」


 ここは煽り攻撃で反撃を仕掛ける。


「私を誰だと思っているんですか」


 仮面で隠れているが、隙間から眉間をピクピクさせているのが見える。


 そもそも聖女の私は戦う術はないが、守る術は持っている。


 多少腕が折れたり、吹き飛んでも魔法で治すぐらい簡単だ。


 前世の記憶が戻ったら魔力の制御や最上級回復魔法も完璧に扱えるだろう。


「そもそもどうやって食料問題を解決するつもりなんですか?」


 どうやって解決するか方法は一つしかない。


「どうやってって……魔物を食べるんですよ?」


「はぁー、あなたに聞いた私がバカでした」


 セイグリットは大きなため息を吐いた。


 同様にセバスと新しくメイドになったインカも呆れた顔で見ている。


 そういえば、ここはゲームと同じ世界だけどどこまで同じなんだろうか。


 この反応だとあの事実を知らないのか、それとも聖女に関する情報が少ないのかわからない。


「魔物って魔力を取り除けば、動物と同じで食べられることを知らないんですか?」


 パンを食べようとしていたセイグリットはまたパンをテーブルでコロコロさせていた。


 やはり私が食べさせてあげないと、うまく食べられないのだろうか。


「セイグリット様は私がいなきゃダメなのね」


 パンを一口サイズにちぎると、セイグリットの口元に持っていく。


「あーん!」


「いやいや、パンを食べている場合じゃないですよ!? どういうことですか?」


「食べてくれないと言いませんよ」


「くっ……卑怯なマネを」


 悔しそうにしながらもセイグリットは私が口元に持ってきたパンを食べた。


 うん、推しへの餌付けって最高よ!


 もう脳からドーパミンがドパドパ出て、私を幸福感で包んでくれる。


「領主様っていつもあんな感じなんですか?」


「いやいや、メークイン令嬢が来てから変わられましたよ」


 インカはセバスに話を聞いていた。


 私がセイグリットを変えたって言葉はご褒美でしかない。


「それでどうやったら魔力を取り除けるんですか?」


 セイグリットは口を必死に動かしながら聞いてくる。


 今の状況を打破するために必死なんだろう。


 私の手を持って情熱的な瞳で私を見つめてくる。


 推し活の視線最高!


 セイグリット様最高!


 私はしばらく黙ってセイグリットの視線を独り占めしていた。

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