第4話 芋聖女、脱走する

「そろそろ城だけでは飽きてきますね」


 特にやることがなかった私は散歩として屋敷の中をぐるぐると回っていた。


 セイグリッドからは外は寒いから、出ないようにと言われている。


 推しからの心配に胸が高鳴ったが、ずっと屋敷にいるのもつまらない。


 こんなに雪が降っていたら、雪合戦や雪だるまをしたくなるのは日本の田舎で育ったからだろう。


「セバス街に行ってもいいですか? せっかくだから雪が積もった風景を見てみたいです」


「坊ちゃんからは屋敷にいるように言い伝えられています」


 どうしても私を外には出したくないらしい。


 ただ、外は雪が止んでいるし寒いと思うほど気温が低いわけでもない。


 日本に住んでいたらこれぐらい真冬によくある光景だ。


「なら部屋にこもってます」


「私も作業があるので助かります」


 セバスはニコリと笑い部屋の扉を閉めた。


 ただ、私はこんなところでジッとしている芋女ではない。


 颯爽と帰ってくるセイグリッドを入り口でお迎えする。


 それが推し活としての第一歩だ。


 正直馬に乗って帰ってくる姿を想像するだけで、よだれが止まらない。


 私は窓から下を覗く。


 部屋は2階にあるため、ここから飛び降りても問題はなさそう。


 靴を投げると積もった雪の上にズボッと落ちる。


「んー、思ったよりも高いかな?」


 周囲を見渡すとちょうど良いカーテンと大きなベッド。


「うん、固定すればいいよね?」


 カーテンを外してシーツと結んで長さを出す。


 その後、ベッドの縁に固定すれば頑丈なロープもどきの完成だ。


 正直窓から飛び降りても大丈夫だとは思うが、雪の下に何があるのかもわからない。


 聖女の力で傷を治せば一瞬だけど、痛いのはあまり好きではない。


 ただ、セイグリッドにドS攻めされるのは大歓迎だ。


「よし、行ってみるか」


 シーツを体に巻き付けて、ゆっくりと窓から降りていく。


 元々痩せていたこともあり、布が破けることもなく降りていけそうだ。


「あっ……」


 あと少しのところで布が足りないことに気づく。


 結局、体に巻き付けた布を外すと勢いよく尻餅をつく。


「はぁー、雪があってよかったわ」


 お尻はベタベタになったが、痛みは聖女の力ですぐに良くなった。


――聖属性魔法


 それは聖女だけに与えられた癒しの魔法。


 これでセイグリッドを癒せたら一番良いんだけどな……。


 私はそう思いながらも靴を履いて屋敷の門を出ていく。


 目指すはシャーロン公爵家が管理する立派な領地だ。


 どんな人達が住むのだろうかとワクワクしながら歩き始めた。

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