第31話 厄介な腐った友達

 それにしても、他の信者達の目もある教室で佐藤が黒江と親しくしている様はいただけない。

 普通にちんことか言ってるし、威厳もカリスマ性も何もあったもんじゃない。

 そもそも女としてアウトだろ……。

 実際佐藤は他の信者に見せつけ、優越感に浸っているのだろうと、一郎は思う。

 決して周りが見えていない訳ではない。

 ……止めないと。

 一郎は二人のやりとりに割って入った。

「お前らの聖書随分薄いな」

「あぁ鈴木君だぁ」

「それ、聖書じゃなくて性書の間違いでは?」

「なんてフレンチなぁ」

「ハレンチな」

「鈴木君ってぇ、ピカデリー無さ過ぎぃ」

 ……ツッコむべきだろうか。

 自分が最初にふざけたとはいえ、佐藤から怒濤のボケが繰り出され、一郎は狼狽えてしまう。

 代わりに、黒江がこう返した。

「あ、落ち着いて瑠璃江ちゃん。ピカデリーじゃなくて、デリバリーだよ」

「それを言うならデリカシーだよぉ」

 こいつら……!?

「分かってんじゃねーか」

「んっふっふぅ」

 一体何を見せられているんだ……。

 佐藤にペースを乱された一郎は、後日黒江だけを神社へ呼び出して釘を刺すことにする。

「本当は教祖と信者が友達のように接するなんてあってはならないことだ。それはわかってるよな?」

「あ、うん……」

「わかってるよな?僕達は友達を作ることが目的じゃなかったはずだ」

「……」

「いじめを止めさせ、そのままの状態を維持する……だろ?」

「……うん」

「わかってればいいんだ。多くを望むな。命取りになるぞ」

 確かに一郎が注意すれば、黒江は素直に言うことを聞いた。

 ――その場では。

 この数日後に再び一郎は、黒江と佐藤が人目も多い女子トイレの前で親しげに話をしている場面を目撃してしまう。

 それも、とても楽しそうにだ。

 あいつら……。

 あれだけ釘を刺したのに……。

 黒江の口角も、心なしか普段よりも上がっている。

 ここは注意すべき場面だ。

 しかし、一郎は――。

「はあ」と、あえて大きく嘆息した。

 ……まあ、これくらいならいいか。

 自身の考えを改め、目溢しすることに決める。

 黒江はずっといじめられて、友達ができたこともなかったはずだ。

 ああやって、初めてできた友達に浮かれてしまう気持ちもわかる。

 趣味まで合うなら、尚更だ。

 むしろ黒江のメンタルヘルスの平穏のために、佐藤のような存在も必要なのかもしれないな……。

「……」

 改めて二人を見ていて、一郎は思う。

 僕にあの役目は無理だな――と。


 ◇

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