第3話『生い立ち』

 私の生い立ちは親戚の間では有名な話だ。親戚と言っても近場の親戚に。

 私が母のお腹の中に居たその夜まで、母はずっと大脱走という有名な映画を家族と共に見ていた。

 母、父、姉、従妹、母の姉の数人で、三十年前の大脱走というエンターテイメントを見ていたのだそうだ。

 しかし、問題は既に起こっていた。エンタメを見ていた母は、お腹を抱えて(私が居ながら)大笑いして見ていたのだ。

 察しの良い方はもう分かる通りだろう。

 その夜、母は父と母の姉にこう言った。

「お腹が痛い――産まれるかも」

 そこから母の姉と父、従妹達が大慌て。とんだ迷惑な人にも程がある。しかし相手は妊婦だ。全員それどころではなかった。

 父は病院へと当時の道路を安全運転ですっ飛ばして、母の姉と私の姉は母を介抱し無事病院に到着して私は産まれた。

 今では笑い事だが、はっきり言って、安静にしていないといけない時にエンタメを見るとか私にはちょっと母の感性がよく分からない。

 というより、全国の産科医はこう注意するべきだ。

「お腹に子供がいる時は大笑いしてはいけませんよ?」と。

 いや、普通に考えれば、そんなことするのはうちの母くらいなのだろう。

 しかしながら、産まれた私は未熟児で、暫く保育器に入っていたらしい。保育器の記憶も母のお腹の中の記憶も全くない私には、「へぇ、そうだったんだぁ」という話でもある。

 それでも無事育って退院できたのは、凄くありがたく大切な事なのだと思う。

 そんな私の赤ん坊から小さい頃の話としては、保育園や幼稚園の運動会でよく泣いていたそうだ。

 しかも、かけっこで走りもせず泣いていたそうだ。父と母を見つけると泣くため、父と母は隠れてビデオカメラで撮影していたそうだが、それを見つけるのだから私の視力は良いのだろう。

 いや、それで泣いたのだからメンタルは元々脆弱だったのかもしれない。父と母を見つけた私は、スタートラインなどで立ったまま泣き叫ぶ始末で、父はその様子に怒り狂っていたそうだ。

 今思うと、隠れる側が下手くそだったのではと言いたくもなるが、まぁ、それは置いておこうと思う。

 そのため保育園の年中くらいまで、私のビデオはほとんど残ってない。撮っても泣き顔ばかりで父が消したそうだ。酷いなぁとも思うが、泣き顔ばかりなのも酷いなぁと思うので、お互い様だと思う。

 父は、元々暴走族に所属していて、いわゆるヤンキーだった。そんな父がどうしてか銀行員だった母に恋をしたわけで、母はどうしてか父が気に入り、二人は結婚したのだ。

 恐らく二人の共通点でもある車や出かける事、性格などが一致したのだろう。父はその後暴走族を抜けて、今でいうNEC(当時の日本電気)から委託されている運送会社に就職した。

 父は運転が好きで暴走族にも所属していたが、勉強は出来るようで、玉掛という免許やら大型トラックの免許も持っていた。そのためか、運送会社では重宝されていたようで、あちらこちらへ出張という名目で運送していたそうだ。

 母は銀行員を務めた後、当時では珍しい派遣会社の派遣社員として勤めていた。実名で出すと、マンパワーやスタッフサービスという所だ。大手の派遣会社だが、当時はあまり普及していない頃で、母も一先ず働ければ良いと考えていたそうだ。

 そうして母も父も働くという、当時では珍しい共働きをしていたのだ。後述もするが、我が家は意外と時代の先端を行く家系でもある。パソコンもビデオカメラも携帯電話も何でもござれの家だ。

 そんな母と父の間に私の姉が産まれるのだが、産まれた後も二人の生活スタイルは変わらなかった。だからこそ、当時は富裕層に片足を突っ込んでいたのは間違いない。

 今では当たり前の携帯電話も三十年余り前からあったそうで、パソコンもあればスーパーファミコンもあった。

 そんな家計でもやりくりは大変だったそうで、その理由が車の買い替えだ。一年に一回程車を父も母も買い替えるため、やりくりには母が苦労したのだが、それでもその分入ってくるという何とも奇跡的な家だった。

 そして私が産まれた後、父は男の子だった事に大喜びしたそうだ。それで何でも買ってくるのが当たり前だった性格が加速した。

 子供用のミニカーの大きなトラックとか、ラジコンとかそれこそ子供のためなら何も惜しまない子煩悩であり、良い父親だった。

 しかし、そんな父が急逝する。

 私が三歳の頃、事故で亡くなったのだ。大型トラックを運転中の事故で、誰もが逝去した事を惜しんでくれたと母は言っている。

 そこから母は女手一つで私達を育ててくれたのだが、それはまた後程。

 私の生い立ちを一つで言うなら、早々にちょっと波乱に満ちている感じだ。

 でも、この後もっと波乱が待ち受けている。

 人生山あり谷あり。人に歴史有り、という事だけは今は言える。

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