第26話 Fragrance like home - E

 確かに、仲良くなる作戦は上手くいった。しかし、よくよく考えてみれば、理由も何も無く、潜水艦の設計図を取ってきてと、友人でも頼める訳がなかった。こうなったら単身で行くしかないか。


 そう思っていた矢先、整備班長の周から呼び出しをされた。


 周は30代のアラブ系の細身の高身長の男だ。女性職員からは、その甘いマスクから人気が高く、彼が来ると黄色い悲鳴が聞こえるとかなんとか。性格は基本、穏やかだが、笑顔で怒るタイプの人である。


 彼の技術力は高く、ストームブレイカーは彼の設計した機体で、未だにあれを超える性能の機体は無いと言うほどだ。


 小会議室で、爽やかな笑みを称える周と向き合って座る。エーテルノイドと戦う時と同じくらい緊張する。息が詰まりそうだ。


「グリムムーンのパイロットだと聞いたよ」

「はい」


 私がグリムムーンのパイロットであることが、どんどん広まっている。でも、私以外のグリムムーンのパイロットがエーテルノイド・ドメインに居るし、今更、そこまで隠す必要は無いか。


「あと、君は勇一君の弟子だったんだね」

「そうですね」

「そういう事情を鑑みて、僕らも君の評価が変わったよ。最初、偵察機だっていうのに、ステルス性能を失うような装備をしていたり、2回しか出撃していないのにオーバーホールしないといけなかったりして、僕ら整備班では君の事を、正直、馬鹿にしていたよ。副班長なんて、君を目の敵にして、毎回君の悪口を言っていたよ」

「そうだったんですね。確かに、私の使い方は酷いものでしたので、整備班の皆様には申し訳ないと思ってます」

「まあまあ、僕らも君たちの機体を修理することが仕事だし」


 整備班から嫌われているなとは思っていたが、ここまでとは。思い返せば、私が整備班だったらと仮定すると、私のスカウターの使い方は正直、嫌だなとは思う。中破して、その後、エーテルノイドに汚染されて帰ってきて。本当に、整備班の人には頭が上がらない。


「だけど、あの時の君の装備は対ゾノビーラを想定していたものだったし、スカウターの装甲を薄くして軽くしていたからこそ、戦艦に乗り込んでフィラースを助け出せた。君は偵察機には向いていなかったのだから仕方ないとよく分かったよ。逆に、君に相応しいのはストームブレイカー系列だろうなと僕らの方でも納得した」

「そうですね。ただ、私が偵察機としての役割を放棄したら、第3部隊で偵察人員が居なくなりますよ」

「そうだね。だから、スカウターは偵察機のままだ」

「もしかして、新しい人員を雇ったのですか?」


 まさか、ここでラーディン、或いは新キャラクターが登場するのか。そうなると、ストーリーにどんな影響があるんだ。既に、この前のエーテルノイド・ドメイン襲撃事件の影響が計り知れないと言うのに。


「いや、違うよ」

「よかった」

「そんなに偵察したかったの?」

「いや、そういう訳では無いのですが」

「まあ、いいか。それで、僕たちなりに、君のスカウターを改良させてもらったよ。今日は、それの紹介をしに来たんだ」


 周は私の目の前に、紙の束を置いた。そこには、REZ03-B02Bと書いてあった。中を捲ると、設計図や操縦方法、システム系統についてなどが詳細に記載されていた。


「今日中にこれを確認しておくといい。明日の作戦で使うんだってさ」

「はい!ありがとうございます!」


 今日一日、訓練を休みにしてもらい、私はREZ03-B02Bの仕様書に目を通す。


 どうやら、REZ03-B02B、スカウター2型と仮称しておくが、スカウター2型は前より高威力の装備ができるようになったようだ。端的に言うと、レーザー武器の使用が可能になったようだ。ステルス性能をそのままに、レーザー武器の使用をする都合上、使用するレーザー武器はスカウター2型専用になるようだ。


 その為、この武器を壊すと、修理までにかなり時間を要するので、大事に扱っていきたいところだ。また、コックピット内装が変更され、よりグリムムーンに近いようになった。私としても、今後、グリムムーンに乗ることがあるかもしれないので、ここでグリムムーンに近い操縦方法に慣れておきたい所であるので、嬉しい限りだ。


 しかし、スカウター2型はスカウター1型より装甲を薄くしている。その為、この前のようなゾノビーラの爆破を受けると、中破では済まない恐れがあるので、なるべく正面切っての戦闘は避ける必要があるようだ。


 新しい機体で、次の任務に参加できると周は言っていた。つまり、私はノックスの任務に就けると言うことになる。これなら、私が生身で単身で工場に忍び込む必要はなさそうだ。


 明日の任務で、潜水艦の情報を絶対に入手して見せる。

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