第42話 パンは寝かされている間、どんな夢を見ているのか?

 晴れた日は、〈文脈山脈〉へお月見に行きましょう。

 昼のうちから登るのがいいでしょう。

 木漏れ日が気持ちいいですし、乾いた土を踏む感触もいいものです。

 忙しく毎日を過ごしていると、なかなか土を踏むことはないでしょうから。

 わざわざ〈遠足のしおり〉まで用意することはないのかもしれませんが、あれば気分がノることうけあいでしょう。

 道は綺麗にならされて、休憩所や自動販売機も随所に完備された、老夫婦が体を軽く動かしに来る程度の山なのです。

 見通しもよく、間違っても遭難することはないでしょう。

 この山が宇宙船だなんて、本当にそうなんでしょうか?

 信じられませんが、逆にそうかもしれないと、思います。

 もう文脈など、どこにもないのですから。

「しってるかな、お嬢ちゃん」と金歯のおじいさんは言いました。

 おじいさんは、ベンチに座り、にこにこと笑い、月を眺めていました。

「パンってな、寝るんやって。パンでも寝るんや、そしたら、君も寝たほうがいいんじゃないの」

 驚きました。

 だって、それまで文脈を忘れてしまっていたおじいさんが、唯一、文脈をきちんと辿っているのですから。

 パンだって眠っているだけではないのです。

 菌を増殖させているのです。

 たとえば宇宙人が地球人の体を乗っ取り、それを媒介して増殖し、地球で秘密裏に侵略を考えているとか、そういう類の話です。

「パンは眠っている間、どんな夢を見ているんやろうな?」

 胡蝶の夢。

 その話があたしの頭をよぎりました。

 うるさい文脈です、まったく。

 パンが眠り、あたしになった夢を見ているパン。どんなパンなのでしょうか。

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