第28話 a-5《そんなバナナ》

 お姉様は、小さな足の親指をぴこぴこと動かします。

 厚い毛布から伸びた脚がまた愛らしいのです。

 それだけでも、この〈惑星〉が素敵な場所だと思えます。

 お姉様は、ノートを足の指で挟みました。

 彼女の創作ノートです。

 五・七・五という韻律を使った〈川柳〉というものらしいです。

 新作ができたから、読んでほしいということでしょう。

 あたしはノートを開き、作品を読み上げました。


「『愛を謳うのは、それはそれは、まるで聖なる槍で天を貫く……』」


 非常に素敵です。

 まるで、官能小説みたいです。

 パパの〈ブンガク〉とは、大違いです。

 あたしは天使のようなお姉様の指先をきゅっと握り、賞賛を浴びせかけること小一時間(お姉様といるときのあたしは、明らかにいつものあたしとちがう……?)彼女はずっと、頭を抱えていました。

「アイデアを絞り出しているのですね。歯磨き粉のようです。愛を歌うのは、のべつまくなく、歯磨き粉を絞ることと同じなのですね」

 甘えるように、お姉様のお腹にそっと頭を預けました。

 ふと、違和感を覚えます。

 あたしの左耳は、彼女のお腹の感触をはっきりと記憶しています。

 その違和感に従うのなら、そのお腹は、いつもより、膨らんでいるように感じました。

 お太りになられたのかしら。

 そうじゃない、と、耳たぶがざわつきます。

 耳たぶは、一見不要なようで、実はなかなか優れた受容器官なのです。(なるほど、これは食いちぎってはいけない)

 伝わってくるのは、いきもののザワメキ。

 なんとまぁ、おめでたいことでしょうか。

「お、おめでとうございます!」

 お姉様の手を握りました。

 彼女はあたしの手を、頼りなく握りかえしました。

「もしかしたら、次に会う頃にはもう、お姉様の赤ちゃんが誕生されているかもしれませんね! この惑星の新しい住人が加わるなんて……この上ない、幸せです」

 あたしがまくし立てる間も、お姉様の豊かなまつ毛は寂しそうに俯いたままです。

 なぜ、そんなお顔をなさるんでしょう?

 もしや。

〈サル〉のやつが、お姉様に「堕胎しろ」とせまっているのでは、と思ったのです。

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