第10話 王妃様の依頼とは

 私達は王妃様のサロンに通された。


「ソフィア、べべ久しぶりね」


「王国の輝ける月である王妃様にご挨拶いたします……」


「もう、そんな堅苦しい挨拶はいいのよ。今日はプライベートだしね。私達は姉妹でしょ」


 義母の挨拶に王妃様は可愛く微笑む。本当にズキューンですわ。


「ソフィアのストール素敵ね。それもべべが?」


「そうなの。べべにお願いしたの。お姉様にもべべからお土産があるわよ」


 私は持ってきたハンカチを差し出した。


「素敵だわ! またみんなに見せびらからなくちゃ。次のお茶会に持っていきましょう。ソフィア、あなた良いわね。私もべべみたいに刺繍の上手な可愛いお嫁さんが欲しいわ」


 王妃様に喜んでもらえた上に、そんなことを言われたら舞い上がってしまうわ。


「お姉様のところももうすぐお嫁さんが来るじゃない」


「お嫁さんと言っても隣国の王女だし、必要以上の交流はないと思うわ。まぁ、私より、ギルが仲良くすればいいのよ。私達は見守るわ」


「王家の嫁姑って大変なのね」


 ふたりで顔を見合わせてため息をつく。うちも大変? 寝てばかりの嫁だしなぁ……。


 聞こえないふりをして、王妃様が用意してくれていたスイーツを頬張る。さすが王家のお菓子。めちゃくちゃ美味しい。


「母上、叔母上、私も参加してもよろしいでしょうか?」


 王妃様の後ろからそう言いながら現れたキラキラしたこの男の子は誰だろう?


 お義母様が立ち上がったので私もとりあえず立った。


「王国の若き獅子、テオドール殿下にご挨拶いたします」


 若き獅子? 第2王子か?


「叔母上、そんな挨拶はいいよ。そちらはランス兄のお嫁さんのべべちゃんかな?」


「そう、ベアトリーチェよ」


 私も挨拶しなくちゃね。


「王国の若き……」


「いいよ、そんな挨拶は。べべちゃんと呼んでもいい? 僕はテオドール。僕のことはテオと呼んでね」


 テオドール殿下は王妃様とそっくりなお顔の超イケメン。金髪のせいもあってか、全体がキラキラしている。


「テオは昨日留学から戻ってきたばかりなの。来週からアカデミーに復学予定よ」


「叔母上のストールもべべちゃんのドレスもめちゃくちゃ素敵だね。べべちゃんの刺繍の話は母上から聞いているよ。いちど生で見てみたかったんだ」


 刺繍? 男子なのに?


「男なのにびっくりしたでしょ? テオは洋服が好きで、ドレスのデザインの勉強に留学していたの。将来は自分でドレス工房を作ってデザイナーをしたいらしいのよ。変な子でしょ?」


 王妃様は楽しそうにふふふと笑う。いやいや王子がデザイナーなんて……。


 まぁでも小公爵夫人が刺繍作家なんだしあってもおかしくはないか。


「母上に兄上のお嫁さんにプレゼントするドレスのデザインを頼まれたんだけど、どうせならそれにべべちゃんに刺繍をお願いしたいなと思って呼んでももらったんだ」


 そういうことか。


「殿下はデザインだけではなく、裁断や縫製もされるのですか?」


「もちろんだよ。でも今回は義姉上にプレゼントするドレスだから縫製はお針子さんに頼もうと思っているんだ」


 男性なのに縫製までするのか。凄いなぁ。しかもこんなキラキラな王子様が。ドレス工房オープンしたらめちゃくちゃ流行るだろうなぁ。


「べべちゃん、どうかしら? やってくれる?」


 王妃様に上目遣いされた。


「もちろんです。喜んで刺繍させていただきます」


 私はテオドール殿下とギルベルト殿下の婚約者の王女様に贈るドレスに刺繍をすることになった。


 殿下が描いたラフを見せてもらう。王妃様と義母が色々言いながら選んでいる。


 途中からは国王陛下も参加してきた。


 私がこんな高貴な方々の中にいてもいいのだろうかと思いながら、楽しいので私も意見をちょこっと伝える。


 そして夕方になって、やっと3着決まった。


 明日までにテオドール殿下がちゃんと刺繍を入れたしたデザイン画にしてくれるそうなので、また明日、王宮に上がることとなった。


 楽しすぎて、身体が辛いことも、ランス様のこともすっかり忘れていた。

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