救出戦

1-11.いざ、聖十字軍本部へ


「ほら、振り落とされないで」


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 クルセイド、運河沿いの街道、その美しい風景がどんどん後ろに倒れていく。

 私と僧侶はアンを助けるため、猛スピードで聖十字軍セントール本部に向かっていた。


「し、進行方向に人がいたらどうするんですかぁ!?」


「いないって言ったのはあなたでしょ。注ぎ込んだ魔力が無くなるまでは止まれないから、よろしく!」


 地面を滑るように転がりながら、それは進む。私がそれにしがみつき、僧侶は私の背中に掴まっている。


 いち早く目的地へ向かうための私の詠唱は、【早く転がるやつ、よろしく】だった。


 細かなイメージを容易く具現化する、それが「超魔の才」の力。だからイメージが丁寧なら、その分強力な魔法が生まれる。


 今回イメージしたのは、ローリンドッグが地面を転がる姿だ。巨大なシロたんが転がる様子を想像するのは簡単で、なおかつ正確だった。


 そして出力されたのが、大玉転がしの大玉より3回りは大きい、巨大な毛玉。もふもふの毛がびっしりと生えたそれは、目の前に現れるやいなや猛スピードで転がり始めた。


 もふもふの毛は地面を傷つけることもないので最適かと思っていたけど、当たり前なことにめちゃくちゃ目が回る。

 

 ただ、ものすごく速い。迂闊に喋ると舌を噛みそうだ。


「せ、聖十字軍本部が見えてきました!」


 僧侶の叫びに顔を上げると、確かに兵舎のような素朴な建物が見える。予想よりずっと小さい。絨毯で飛んでいたとき特に気にならなかったわけだ。


 小さく見えていた建物があっという間に近づいてくる。


 僧侶の顔色が悪かったのと丁度注いだ魔力が切れたので、一旦毛玉から降りた。

 少し歩いて運河にかかる橋を渡れば、もう聖十字軍本部だ。


「このまま突入しても、良いかしら?」


「流石に正面からは……」


 潜入するってこと?めんどくさいなあ……


「でも、どうせ戦闘は避けられない……そうでしょ?」


「それはそうですけど……」


 煮え切らない僧侶。


「……聖十字軍ってのは、そんなに強いの?」


「はい。軍とはいっても16人の少数精鋭で、その中には賢者様より強い方たちも数名。魔王の襲撃を受けた火の国の救援に向かったばかりで、本来クルセイドにはいないはずなのですが……」


「救援が終わった可能性は……?」


「王城の兵士たちにも連絡は来ていませんでした。聖十字軍が離れている間、クルセイドの守りの要、最高戦力は賢者様でした。だから、僕らは賢者様があなたの眷属になった時に絶望したのです」


 そういうことか……


「じゃあ、やっぱり聖十字軍は戻ってきてなくて、アンは別のところにいるんじゃ……」


「いえ、賢者様の体に浮かび上がっていた契約の紋章は、契約主が近いほど効果が増します。最後に再開した時、賢者様の体は殆ど紋章に覆われていました……」


「ふうむ……まあ、行ってみようか」


「し、正面からですか…!?」


「君たち、聖十字軍に何の用かね?この時間、敬虔な民は礼拝をしているはずだが……」


 いつの間に。目の前に髭面の男が立っている。十字架のあしらわれた鎧を着込み、旗のついた長槍を構えていた。


 旗には「Ⅸ」という数字が大きく描かれている。16人いる中の9番目ということだろうか?


「あなた、聖十字軍?救援任務はどうしたのかしら?」


「愛する祖国に魔王が攻めてきた上、賢者様が神に背いたとあれば、戻るわけにいくまい……礼拝時間にこんなところにいるお前たちも、神に背くものかね?」


 僧侶が不安な顔で私を見ている。


 はあ……


 めんどくさ。


 こんな雑魚相手に、時間はかけたくない。


 魔力を一点に集め、魔法陣を展開する。


「【壊す者ブレイカー、よろしく】」


 詠唱と共に魔法陣の中から現れる、巨大な銀色のハンマー。 


「な、この魔力……まさか貴様、魔王か!?」


 この力を人に使うのは、初めてだな。


「あなたたちが悪いんだから」


 当たりどころが悪くても、恨まないでね。

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