1-6.波に乗る時は、今?

 黒い炎によって燃え始めた、空飛ぶ絨毯じゅうたん。このままでは私と魔法を封じられたアンは仲良く空中から落下、ゲームオーバーだ。


 一か八か、あれをやるしかない。


「アン!私の腕を掴んで!」


「へ、へえ?う、腕?マキナの??」 


 柄にもなくわたわたするアン。宝石のような青い瞳がせわしなく動いている。


 焦って冷静な思考が出来なくなってるみたいだ。仕方なく、強引に真っ白な右腕を掴む。


「ま、マキナ、何する気?」


「上手くいくかわからない。もし失敗しても恨まないでね!」


 説明している暇はない。アンの腕を掴んだまま、燃え落ちる絨毯から飛び降りた。ひいい、地面が迫ってくる!


 落ち着け、私。12歳の頃とは比べものにならない魔力量を持つ今の私なら、あの魔法を使えるはず……!


 ー時間魔法を!ー


 上手くいくかわからない。あのとき、時を司る者(笑)は【時間跳躍クロノスキップ】について『時を飛ばす魔法』という説明しかしてくれなかった。


 時間魔法の対象が詠唱した本人だけなら、アンを助けることは出来ない。


 それに、この詠唱が正しい詠唱だとすると、「超魔の才」のせいで不発になってしまう可能性もある。


 ……それでも、何もしなければアンが死んでしまう。落ちながらも魔力を練り上げ、大きく息を吸い込んだ。


「【飛ぶ翼。泡沫うたかたの街。佳景かけい定まらず、また波の中に溶ける】」


 詠唱が始まると、周りの空間が波打ち、まるで水の塊のようになって、私とアンの体を呑み込む。そのおかげか落ちるスピードはかなりゆっくりになった。


 成功した?いや、まだ油断は出来ない。この水は魔法の前段階。詠唱に失敗すれば消えて、そのまま人生エンド。


 ………………

『イメージしろ。時を飛び越える自分を。その終着点を。時間とは波。常に形を変え、流れ続ける波だ』

 ………………


 かちかちという音を聞きながら、時を司る者(笑)の言葉を思い出す。


 時を、飛び越える……。


 やっぱり上手くイメージできない。


 時間は波だと言うが、前世の知識がある私からすれば、時間にはお金のイメージしかない。「時は金なり」……いや、そう思ったことは一度もないけど!


「マキナ……これは水魔法?何が起きてるの……?」


 混乱するのも当然でしょう。でも、詠唱を中断するわけにはいかない。


「【海は永遠ならず、時は永遠ならず。ゆえに我ここにとどめる】」


 巨大な時計の文字盤が浮かび上がる。その上で短針と長針が回る、回る。


 あの時は短針が指した数字×1年分、時間を飛ばしたから……


 いやいや、1年後とかに飛ばれても困るんだって。どのくらいまで調整できるんだ、これ?


 えっと、えっと……? 


 迷ってる間にも文字盤が近づいてくる。なんてめんどくさい魔法……!

 

 結局、あの時のような波は生まれていない。でももう、詠唱を終えるしか……


「【時間跳クロノスキッ】……」


 ぱしゃあん。


 その瞬間、水のようなものが弾けて、私たちの身体は地面に投げ出された。


「生きてる……?」


「いたた、け、結果オーライ……」


 迷ってる間に地上との距離はかなり小さくなっていたらしい。投げ出された時に少し身体を打ったけど、生きてるから安いもんだ。


「公園?誰もいないね……」


 起き上がって辺りを見回す。草っ原の周りに花壇やベンチが並び、でっかい石像がある。いこいの場所って感じの雰囲気だ。


「公園。普段は沢山人がいるけど、城に魔物が攻め入ったせいでみんな引きこもってるみたい」


「ああ、さっきの……」


 ………………………

『サイクロプス、救出に参りました』

『ゴーストアーマー。こんな貧弱な檻、すぐに粉々にしますから』

 ………………………

 

 私を助けに来た、と言ったサイクロプスとゴーストアーマー、それから地下にいた時に聞こえてきていた魔物たちの鳴き声。


 でも……


 ……………………

『現に貴方は私達が救出に向かうより早く、自力で人間の檻を脱出し、ここまで来た。違いますか?』

 ……………………


 あの骸骨の台詞を信じるなら、サイクロプス達は私と無関係の奴らってことになる。


 どっちかが、嘘をついていた……?


「また借りができちゃったな……おーい、マキナー」


「はっ」


 アンに肩を叩かれ、我に帰った。


「あっ、ごめんごめん、ちょっと考え事を……」


「あ、そうだったんだ。ごめんね」


 気まずい。


「そういえば、ここってどこの街なの?私の記憶にはなくて……」


「水の王国クルセイド」


 全然知らん国名出てきた。


「え、ここ王国の外なの?」


「……あ、そういえば言ってなかった。魔王たちの手で王都が壊滅して、王国は内部でいくつかの国に分かれたの」


 うっそお。


「じゃあ、王都にあった魔法学院も……?」


「うん。爆発した」


「ばくはっ……」


「とにかく、歩きながら話そう。早く、私を縛る契約を解かなくちゃ」


 さっさと立ち上がって歩き出すアン。私は慌てて後を追いかける。


 ……えっ、爆発!? 魔法学院、爆発!?


 薄々思ってたけど。


 この世界で、スローライフとか無理では??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る