第七話 まっくろくろすけな闇の三貴士


「お前たちのわかり難い説明をまとめると、裁定者称号には所持制限数があって、譲渡も相伝もできない、ゲームマスターへのアクセス権がある、と。だから北原天満宮周回か」


「はい。仰る通りです!」

「スズ頭いいねぇ」

「お前たちの説明が分かりづらすぎる。すぐに道が逸れるし…教えるのがおそいんだよ、バカ」


 はい、清白のバカ頂きましたー!

 天邪鬼だからな。清白は。バカってのが好きだと思えばいいな。今回は違うかもしれんけど。




「北原天満宮は道中のモブでもかなり稼げたが、俺達で揃えた前回の人数は100人だったよな?…無理だな」


 確かになぁ。ギルドのメンバーを確認したが、現在5人だ。

 うち幽霊部員が四人。実質一人しか残らなかった。元々千人超えてたが、マスターがゲーム規約違反者になったんだし、共同資金まで盗んでるし、仕方ないだろうな。




「メンバーはここにいる人だけでいいでしょぉ?天満宮二周で今の倍のレベルになるよ。そしたらボクも手抜きできるし。

 一騎当千になるか分からないけど、ボクが百人分負担する」


「いや、間違いなく巫女一人でどうにかなる。しかし…」




「清白。甘いこと言ってんな」


 おっと。巫女の口調が変わった。

 目が引き上がって細く鋭く尖ってる。

ボス部屋で猛毒のエフェクトを忠告した時の口調だな。

 どうやら本気になる時の癖っぽい。

 殺気が漂い始めた。




「金額的に、今のレベルと力量じゃ一ヶ月なんて無理だ。どう計算しても間に合わない。

 おんぶにだっこでさっさと強くなって、恩返しでも何でもやれよ。誠意のために動くなら、四の五の言うな」


「み、巫女の言うことに一理あるとは思うが…」


「一理じゃなくて真理。他にやりようなんかない。こっちがやるっつってんだから良いも悪いもない」


 スパッと巫女に言われ、ガックリ清白が項垂れる。確かに、その通りだ。清白がごねてるのはプライドもあるし、巫女への義理もある。

 本人がここまで言うともう逃げ道はないな。


「はぁ…」

 


 項垂れた清白が沈黙して、獄炎さんと殺氷さんは冷や汗流してる。

 この殺気は痛いよなぁ。体の芯がヒヤッとする。

 それでも、巫女の翠の瞳の奥は優しさをたたえている。今のこの空気は、本気で清白のためにしてる事なんだ。巫女の優しさと、思われている本人もそれがわかっていて、こうして真剣に考えてるのがわかる。

 巫女は頼って欲しい、助けたいと思ってて、清白は巫女に頼り切って蔑ろにしたくないんだ。

 清白は随分前から俺の大切な人だ。きっと、巫女もそうなってる。大切な二人のお互いを思う優しくて真剣な気持ちが見えて…胸がきゅっと締め付けられた。

 


 ふぅ、とため息が落ちて、清白が巫女を見据えた。


 

「巫女が言う通りに、お願いしたい。俺にレベルと金を稼がせて欲しい。頼む」

 


 躊躇いながらも、難しい顔で清白が頭を下げると、スッと巫女が笑顔に戻った。

 ピリピリした空気が一気にふんわりしたものに変わる。

 これ…本当に癖になりそう。ギャップ萌えじゃないか?たまらん。




「うん。ボクも手伝いたいんだからお願いなんてしなくていい。

 スズはボクに色んなものをくれたでしょ?物だけじゃなくて、あったかい気持ちも貰ったんだよ。ボクもスズと同じことがしたいなぁ。

 裁定者もスズがいい。紀京とスズなら安心だよぉ」

 

「…そう、言ってくれるなら嬉しいよ。称号はそこのマスターたちの顔を見るとなんとも言えんな…」



 

 獄炎さんと殺氷さんがしょんぼりしてる。


「二人は、まだ人となりをきちんと把握してない。いい人だってわかってるけど、紀京とスズはボクの信用度が天元突破してるからさぁ。ごめんね」


悲しげな顔で巫女が告げる。




 マスターたちが、ふとほほ笑みを浮かべた。


「いや、その方がいいんじゃねぇか?最初に取得した巫女の意見が優先されて当然だ」

「そうですね。寂しいですが…。ただ、私達も巫女の信用度を上げたいので清白のダンジョン周回には付き合います」



「そうしてくれるとありがたい。二人とも、頼みます。巫女も、紀京も、よろしくお願いします。」


 マスターふたりと巫女が満足気な笑顔になる。

 うん、すごくいい形に纏まったな!

 殺氷さんもなかなかひねくれた清白に合わせた言い方してる。


 仲良いもんな。あれは頼みやすくなる言い方だ。

 べ、別に君のためだけじゃないんだからねっ!という副音声がついてるのが良いよな。優しい気遣いと思いに溢れたやり取りに心がほかほかしてくる。

 嬉しいんだ、このやり取りの中心が巫女であることが…すごく嬉しい。

その巫女がついついと着物の袖を引っ張る。

 



「ねぇ!スズも一緒に住めば良くない?ボクと紀京はお布団一緒でいいよねぇ?」

「みみみみみ巫女さん!?何言ってるのかな?!」


「だって、怖い夢見たら、紀京のとんとんして欲しいもん」


 うぅっ…そりゃ、してあげたいけど。嫁入り前の娘さんと一緒に寝るのはマズイのでは?すでに手遅れといえばそうだが…。


「紀京…?」

「はっ。清白さん、ステイ。誓って手出ししてません」

「トントンってなんだよ…」


「紀京のお膝の上で、抱っこで背中とんとんってしてもらうの。気持ちいいよぉ。スズもしてもらう?」

「巫女…マジか。ハラスメントシステム鼻にしてたんだよ…紀京は説教時間が増えたからな…」

「はい。」


 うん、もう覚悟する。いいよ、分かったから。睨まないでください。コワイ。


「まとまったなら、このままダンジョンに行こうぜ。うちのギルドには掲示板で報告しておく」


「私は準備したいのですが。サブマスターに伝えて、一旦荷物を取って参ります」




 マスターふたりがポチポチし始めた。


「俺は公式の掲示板に事の経緯を書いてくる。ギルドの掲示板にはもう書いてある。紀京、ギルチャだけ頼んでいいか?」

「おう、任された」




 自分のステータスをオンライン表示に切りかえ、チャットを覗く。

 ログを漁ると…酷いな,罵詈雑言の嵐だ。清白の悪口を書きまくって、消えていった人達ばかり。悪いのは清白じゃないだろ。こんなもの見ても意味ないな。


「おはよう、もうこんにちはか。誰かいるか?」

「こんちゃッス、紀京氏。動いてるのはオイラだけっす。事態は把握されてますか?」


 お、盾職の美海みうみさんだ。この人が残ってくれたのか。




「今把握したとこ。清白と一緒だ。美海さんは残ってくれるのか?」


「今回の責任を負うべきはマスターッスよ。

見るに堪えない言葉が並んでたし、ギルチャはあまり見てないッスが、オイラはサブマスを支持します」


「そう言ってくれると嬉しいよ。マスターが盗んだギルドの共同資金を、脱退したメンバーから請求されていてな。そのためにダンジョン潜りまくることになったんだ。

 美海さんがお手すきなら、手伝いをお願いしたいです」


「もちろん行きます!もうこのギルドは廃止して、新しく作った方がいいんじゃないっスか?作成時の資金提供もしますしー。このままだと不快な輩が参入して来そうで」


 美海さんの言う通りだな。メンバーもいないギルドになんの意味もない。マスターのせいでギルド自体の名声も逆効果だし、加入している俺達も危険だろう。


「清白に伝えてみるよ。美海さんはどちらに?今俺の店に集まってるんだが」

「そちらに参ります。しばしお待ち下さいッス!」




 美海さんは礼儀正しくて強くていい人なんだ。助けてくれって言ったら、いつも必ず来てくれる。

 普段全然喋らないけど、話しかければ丁寧に応答してくれるし、優しい人なんだよな。


「待ってます、っと」




 更に皇の行為や今後についてチャットに書き込んだ。

 幽霊たちが戻るか分からんが一応な。

さて、清白達が戻るのを待つか。

 別画面開いてる時は、ログアウトしてる訳じゃないからみんな硬直してる状態になる。殺氷さんは準備に行ったみたいだ。姿がない。




《ねぇ、紀京。掲示板って画面切り替わるの?》


 あれ?なんで囁きにしたんだ?

 巫女を見ると、不安そうな顔してる。


《ん?ギルドのか?》

《ううん。公式のホームページって言う方》


 巫女?また難しい顔してる。

 ログアウトするな、って言った時と同じ顔だ。


《一旦画面切り替えなきゃだけど、見られると思うよ。待ってて》


「紀京!!」

「ほぁ!?」




 巫女が膝の上に乗ってきたんですが!な、何事?


「だめ。切り替えしちゃダメ。お願い、ここにいて!」

「巫女…?」

「もう、絶対ログアウトしちゃダメ」

「もしかして、何か視えたか?」


 ぶんぶん頭を振って、抱きついてくる。

うお。し、心臓が、ぎゅんぎゅんするんじゃぁ...。


「今は言えない。ごめん。でも…お願いだから行かないで」

「わ、わかった。巫女が言うならそうするよ。そんな顔するなって。な?とんとんするか?」

「うん…」



 

 向かいあわせでくっついて、巫女が顎を肩に乗せてくる。

 うーん、みんなが戻ったらボコボコにされそうだが。まぁいいか。


 背中に手を回して、とんとんたたく。

 巫女…小さいな。もう背丈伸ばす薬ないのかな?でも俺はこのままがいいな。抱っこしやすいし。腕の中にすっぽりくるまったまっくろくろすけな巫女の体温が伝わってくる。


「ボク、紀京のとんとん大好き」

「そそそそうか…大好きか!ははっ!嬉しいなぁ!」

「んふふ。気持ちいいなぁ」


 

 ヴーーーー、何となくこのモヤっとしたやつ、ぎゅんとする理由の正体が分かってきてしまったのですが。

 いや、ダメだ。まだそういうことを認識していい状況じゃない事くらい分かる。


 はぁ。

 巫女も気持ちいいなら、嬉しい。

 それだけでいい……。

 




 カラカラ、と引き戸の開く音。玄関か??


「すみません、チャイムを鳴らしたんスが…ハッ!!」

「あ…美海さん…」

「も、申し訳ないっス!!お取り込み中でしたか…出直しますね!!」


「えっ…あっ!違う!待って待って!取り込んでないから!!」

「ほにゃ?だあれ?」

「素敵なカノジョさんっすね。お幸せに…」


「待って!!ホントに!!」


 巫女を抱えたまま立ち上がって、美海さんの腕をガシッと掴む。


 

「わぁ!紀京力持ちだね?」

「巫女が軽いし、さっきレベル上がったからね!美海さん!違うんです!!」




 ━━━━━━


「なるほど。理解したッス。巫女さん、オイラは美海みうみです。巫女さんのお噂は聞いてますよ!

 オイラは皇氏よりは劣りますが盾職防御特化の土属性・陽、よろしくお願いしますッス!」


「はじめまして、ボクは巫女。呼び捨てでいいからねぇ。無属性・陰だよ!

 えと…あの、ボクのこと知ってるなら、嫌な気持ちにさせさ、たらごめんね?」


 

 美海さんがぱちぱちと瞬く。

 美海さんは金髪ロングをポニーテールにした碧眼の美人女性だが、筋肉がムッキムキだ。常に赤い甲冑装備して、動きが三倍早いとかなんとか。速度が早い盾職の人は貴重なんだ。

 ちなみにこの人もネカマ。ネトゲはほとんどネカマって言うよなぁ。

 

 すらっとして見えるが脱いだらすごいタイプで、コーカソイドのヨーロピアンなお顔。柔らかい物腰で、癖強の喋りが人気あるんだぞ。




「嫌ではありませんよ!紀京氏のカノジョさんッスよね?でしたらいい方に決まってるッス」


「良かった。紀京優しいもんねぇ!ねぇねぇ。カノジョってなあに?」


 おっとー待たれよー!!

 そこから先はダメ。


 


「美海さん!その話はやめましょう!訳あって同居人と言いますか、相棒と言いますか、ええと、仲間で大切な人で…あの…」


 ピーン!と音を立てたような顔して美海さんが頷く。おれは何を言って良いのかわからん…。


「なるほど、友達以上恋人未満ッスか。理解しました。紀京氏ファイト!」

「あぁっ!もう…美海さんが天然すぎる」




「おおぉーい…あーきーちーかー…会話ログ見たんだが。何してんだお前ぇ」

「清白!おかえり!!怖い!!いかがわしいことはしてません!」

「トントンしたんだろ??なぁ?」


「いやー、あはは…くそっ、チャット切り替わっていたのかっ!!」



「スズ」

 

 巫女が俺の横に座り直す。清白との間に座ってジロっと清白を睨んだ。


「紀京いじめないでっ」

「うぉ怖。分かったよ…」

「うん。へへ。ごめんね」

 清白が複雑そうな顔してるなぁ。

 巫女はなんか…どしたんだ?俺はドギマギしてしまうが。


 


「やはりカノジョッスよね?」

「美海さん、辞めてやってくれ。多分微妙なラインなんだろ、これ」

 清白も美海さんもニヤニヤしながら俺の顔みてるんだが。やめて。


「なるほどッス。さて清白氏、ギルチャのログはご覧に?」


「うん。ギルド自体は残しておこう。戒めのためにも。幽霊とはいえ人もいるしさ。

 公式ホームページにも報告書いてきたから。もう、いいかのかな…離れても」


「良きかと思われます。清白氏、一人で背負うのはやめて欲しいッス。オイラも手伝います」


「美海さん、いつも済まない。懐かしいな、こういうの」


 彩りの神札創設メンバーだったもんな、清白は。思えばあの頃から元マスターと付き合っていたのか?

 清白のことを思うと切ない気持ちになる。




「マスターは清白氏で、紀京氏がサブマスターッスか?」

「逆でもいいけど。どうする、紀京」

「美海さんにサブマスしてもらってもいいんだけどなぁ?」


「美海さんはログイン時間短いから負担になるだろ。ゲーム廃人のお前がやれ。」

「はいはい。一旦清白マスターで作ろうか。名前どうする?」


 


「「うーん……」」

「ねぇねぇ、何の話?」


「あ、ごめん。巫女は見てなかったよな。今のギルドから抜けて、新しく作るんだ。暫定だけど清白がマスターで、俺がサブマス」


「ボクも入りたい!!!」


 びっくりしたぁ。巫女がギルドに入るのか?この前嫌がってなかったっけ?




「おぉ?良いけど、嫌じゃないのか?」

「紀京とスズがやるなら入りたい。ダメ?」


 ニヤリと笑った清白が巫女の額をつつく。


「んぁっ」

「ぷっ…変な声。いいに決まってんだろ。設立最低人数が四人だからちょうどいい。しばらく他の新規加入はさせない」


「そうしよう。名前なぁ。なんかない?」

「「うーん……」」


「おでこつつかれたぁ…ギルドの名前ってこと?」

「そうだよ。何がいいか考えないとなんだ」

 

 巫女のおでこを擦りつつ答える。

ツルツルのおでこ。なんか可愛いな。



 

「うーん……」

 巫女、清白、美海さんが同じポーズで悩んでる。面白いな。


「どりーみん☆ふぁいたーず」

「美海さん、そういうキャラだったのか」

「ダメッスか?」

「あいつを彷彿とするからやめよう」

「それはダメッスね!!」


 そうじゃなくても嫌だよ。美海さん。

 まさかのネーミングセンス。

 ここは俺がっ!


「まっくろくろすけ」

「紀京、グーとチョキ選ばせてやる」

「パンチも目潰しも嫌だ」


 難しいな。ギルドの名前は一度決めたら変えられないからな。慎重に考えたいがいかんせん時間がない。

 

「漆黒の姫神とかよくね?」

「清白、若干厨二を感じるんだが。姫って…ぷぷ…」


「うっせ。巫女が黒いだろ。紀京だってどうせ同じ由来のくせに。俺も服、真っ黒にする。」

「なるほど、お揃いッスね?」


 美海さんがアンプルを取りだして染色しだした。相変わらずノリが良くて行動が早いですね。真っ赤な甲冑が真っ黒に染っていく。

 俺真っ黒アンプルないよー。黒い服あったかな?うーーん。




「おそろい?おそろい?嬉しいなぁ」

「黒い服絶対探します!!」

「探さなくてもトラノコがあるだろ、紀京」


 言いながら清白が真っ黒のロングコートを羽織る。巫女と似たようなの探したな?くっそう…。

 虎の子は…一枚あるけど。あんまり着たくないんだよなぁ。

 


「もしかして法王の衣のこと言ってる?」

「それそれ。どうせダンジョンで着るんだからいいだろ。聖職者の服なのにドロップが黒だったのは運命かもな?」

「なるほどデステニー理解した」


 そう言われてしまうと途端にいいものに思えてくる。

 さっさとお着替えするっ!髪の毛は今黒いし。ただでさえフツメンだから目の色のグレーはそのままにしておこう。




 切り替えボタンを押すと、ずっしりした服の重みが体に伝わってくる。ぅー、ヒラヒラの服。慣れない。

 袖は普通の長袖なんだが、襟元が詰まってるし、裾が長いんだよ。

縁にゴールドで刺繍が入ってて派手だし。神父さんの服に似てるんだ。

 陰陽師オンラインゲームなのにおかしい気もするから、普段は上から羽織を羽織ってるんだが。それは黒くないし。このままで行くしかない。


「紀京黒似合うねぇ!かっこいい!」

「そ、そうか?巫女が言うなら、すごくいい気がしてくるな。ずっとこれ着てようかな」


「「…………」」

 ちょっと。沈黙しないでくれっ。俺だって…かっこよく見られたいんだよっ。

 

 

「おっ!?美海がいるな。なんでお前ら真っ黒なんだ?」

「エンおかえりー」

「おう。ログ見るから待ってろ。

 …なるほど。ギルド新設か。殺氷も来るから立ち会ってやる」

「エンもきてくれるの?ワイワイして楽しいね!」

「そうだな」


 なんか、ワクワクするな。なんかギルド設立って感じの人数だ。

 昔、気のおけない仲間とギルド設立してる人たちを見たことがある。

 実は憧れてた。それをみんなでできるのが…嬉しいな。




「ギルドの社はどこに建てる?中古でいいなら社を寄付してやる」

「お、頼むよ。俺は宿を取らないとだし、そこから近い方がいいな。どこにするか」


「宿で過ごす気なのか?清白もうちに来いって」

「俺が行ったらお前ら同衾するんだろ。失恋したてで地獄の寝床は嫌だね」

 

「紀京…お前!」

「獄炎さん!そろそろそのパターン辞めましょう!ねっ!」

 

 獄炎さんのジト目は結構怖いんだぞ。ヤメて!


 

「巫女は…嫌じゃねぇのか?」

「ボクは紀京とくっついて寝たい」

「はーん…なるほどな。くっつきたいってよ、紀京」

「んぐっ……光栄です…」


 鎮まりたまえ。マジで。心臓……頼む。




「やれやれ、青春してんなぁ…しかし、ギルドの設立後はルールやらなんやら決める事山ほどあるだろ。清白はダンジョン周回するならしばらく本当に同居しろよ」


「クソ。…傷に塩塗られる気分だ」

「ごめんな、清白」

「お前は慎めよ!」

「やだ」


 すまん、一緒に寝たいと言われたら俺はそうする。他意は無い。多分。




「……みはしらのうずのみこ」

「巫女?どした?」

 

 巫女が考える人のポーズのままつぶやく。

 日本語だということしかわからん。なんだそれ?


天照大神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみこと 須佐之男命すさのおのみことで三貴士って書いてみはしらのうずのみこって言うの。ギルドの名前!」

「随分大仰だな?」

「清白のよりいいと思うけど?」

「…たしかに…厨二っぽさはないな…」


「ちなみに誰がどの神ッスか?」

「キミは天照大神。髪の毛が太陽の色だから。紀京は目が灰色だから月読命、スズは風みたいに早いから須佐之男命」


「ふん、なるほどな。しかし、紀京が月読?アレかなりの美人な神様って言われてるよな?」

「な、なんだよ!別にいいだろ」

 

 どうせイケメンじゃないよっ。ちぇっ。

 拗ねたような顔をしていたら巫女が両手で顔を包んでくる。優しくて暖かい手のひら。

 じんわり染み込んでくる暖かさにうっとりしてくる。



「あのね…紀京は静かに夜を見守る、月読命に似てるよ。紀京の猫みたいなおめ目でいつもふわふわ笑ってて、優しいの。ボクを見守ってくれる紀京が月読命だよぉ。

 それで、スズが言ってた闇の三貴士ってボクの名前も言葉も読みで入ってるから…良いかなって。ボク、正式には闇の巫女だから。」

「そ、そうか?巫女は闇の巫女なんだな…隠し言葉みたいでかっこいいな。みはしらのうずのみこ、三貴士…なるほど」


 伊邪那美の眷属だから闇の巫女なのかな。かっこいいな。光じゃないってのがまたひねりがあって良い。




「うん!紀京のまつ毛が長いのも似てるし、真剣な目の時の冷たい感じもかっこいいし。ダメ?」

「巫女にはそう見えてんのか」

「紀京氏は顔の作りは悪くないッスが、面白キャラッスよね?」

「美海さん、酷い」


 マスターふたりが吹き出してるし。失敬な!ぷんすこ!




「まぁいいか。じゃあ闇の三貴士ってことで」

「はあい!」

 

 決まってしまった。巫女がいいならまぁいいか。

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