第7話 毒キノコ

「えへへ、キノコ、キノコ」


 それからというもの時間があるときはお父様に何回か森へキノコ狩りをしに連れていってもらっていた。


「これこれ、毒キノコ」


 名前は知らないがイエロー・マッシュルームと呼んでおこうかな。

 全体が黄色い。

 この黄色いキノコは毒キノコとして有名なのだ。


「いひひひ」

「もう、エルダ様ったら、またそのように笑って」

「だって、毒キノコだよ」

「そうですね。もう」


 リーチェも呆れている。

 この毒キノコ、神経系の毒があるみたいで、食べると痺れてしまう。

 それがですね「痺れ薬」としてモンスターにも有効なのだ。

 だから毒矢とかに使うことができる。

 さらにこの痺れは痛みを感じなくさせる麻酔作用があった。


 異世界でもヒールとポーションだけではない。

 骨が変に曲がってしまった時は手術をする。

 回復するときに変な向きのまま直らないように補助する必要があるからだ。

 そういうときにこのような麻酔薬を必要とした。


 ビーカーに入れて煮ていく。

 こうして薬液を抽出するのだ。

 これは蒸留ではなく煮詰めて水分を飛ばす。


「ぐつぐつぐつ」

「きゃっきゃ」


 カメルも一緒になってそのビーカーを観察していた。

 だんだん水分が減っていき、濃い茶色の液体が下に残る。


「できた!」

「あら、まあ」


 強い臭いはないが、わずかに甘いような匂いがする。

 これが麻酔薬または痺れ薬だった。


 なかなか貴重なため、あまり出回らないらしい。

 痺れ薬は他にも植物から作るものもある。

 ただ高性能な麻酔薬といえばこのイエロー・マッシュルームだった。


「リーチェ、診療所へ行きましょう」

「はい、エルダ様」


 リーチェと診療所に行く。

 出来を確認して、もし問題なかったら買い取ってもらおうと思ったのだ。

 実は黄色いキノコは豊作で、大量に生えていた。

 だからカゴ一杯と採れたため、まだ何個分か作れる。


「ようこそ、クライシス診療所へ、エルダ様」

「こんにちは、マクラン先生」


 この診療所はかかりつけ医で、私も親しい。

 小さい頃はよく魔力熱という魔力保有者特有の熱を出したのだそうで、お世話になっていた。


「イエロー・マッシュルームが豊作でして」

「え、毒キノコですよ」

「知ってます。麻酔薬になるって」

「はい、そうですが」

「これ見てもらえます」

「ほおぅ、たしかに麻酔薬の匂いだ」


 マクラン先生は色を確かめ、臭いを嗅ぐ。

 そしてなんと、一滴、指に垂らして舐めてみた。


「えっ、舐めて大丈夫なんですか」

「まあね、これくらいなら平気」

「そ、そうですか」

「うん、このピリッと来る感じ。本物だね」


 さすがはプロ。

 こうやって品質を確かめるとか驚きだ。


「使えそうですか?」

「そうだね、大丈夫そうだ」

「まだ、後五個くらい作れそうなんですけど」

「いいね。全部買い取るよ」

「本当ですか」

「ああ、なかなか入荷しなくて、欲しかったんだ」


 家に帰って急いで残りも煮詰めていく。

 そうしてまたマクラン先生の所へ行って、納品をこなしてきた。


「はい、代金」

「ありがとうございます」


 へへへ、金貨だ。

 別に貴族だから、金貨くらい見慣れてはいても、こうして自分で稼いだ金貨を見る機会は少ない。

 私はニコニコして家へ帰った。

 もちろん、リーチェが付き添いしてくれている。


 その後、クライシス診療所では麻酔薬が有効活用されたらしい。

 なんだかちょっとだけ社会貢献できたような気分になって、うれしかった。


 マクラン先生が言う。


「実はこのイエロー・マッシュルーム、美味しいんだ」

「えっ、大丈夫なんですか?」

「ひとくちくらいならね」

「へぇぇ」


 これを聞いては居ても立っても居られない。

 またお父様をせかして森に行く。

 今の時期にしかイエロー・マッシュルームは生えていない。


「あった、ありましたわ」

「確かに黄色いね」

「これです」


 さっそく株を回収する。


「いひひひひ、焼いてみようか、煮てみようかしら」

「エルダ様、悪い顔してますよ」

「だって、毒キノコ、美味しいって」

「そうですけどね。お嬢様なんですから」

「はーい」


 焼いてみることにした。


「リーチェはやくはやく」

「はいはい」


 リーチェに網の上に乗せて、キノコを焼く。

 焦げ目がついていい色になっていく。

 甘い匂いも漂っていて、とっても美味しそうだ。


「いただきます!」

「一本だけですよ」

「わかってるって」


 ぱく。

 美味しい! 甘味の旨味が凝縮していて、本当に美味しい。

 この前の茶色いキノコよりも私は好きだ。

 くそおぉぉ。

 もっと食べたい。いっぱい食べたい。

 気持ちがむくむくと湧き上がる。


 でも、これは本来毒キノコなのだ。

 たくさん食べると死んでしまう。

 これ以上食べれば、その前に痺れてしまうだろう。


「カメルも! カメルも!」

「カメルは一口だけですよ」

「きゃっきゃ」


 カメルにも一口ぶんだけ切ってあげる。


「おいち!」


 頬っぺたに手を当てて、おいちってポーズをした。

 とってもかわいい。

 でも、もうダメだよ。

 毒はだいたい体重に比例して耐性がある。

 小さい子は少量でも危険があった。


「もっと! もっと!」

「カメル、ごめんね、ダメなんだよ」

「キノコ! おいち!」


 カメルがもっともっととせがむけどダメなものはダメだ。


「あら、本当美味しいわ」


 お母様も食べてみて、うれしそうにする。


「これ毒キノコなのよね?」

「そうですよ」

「怖いわねぇ」


 まったり言ってる場合ではないが、まあ美味しい毒キノコもあるということだ。

 こうして毒キノコを堪能した。

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