log32...私個人の考えを乗せた声明(記録者:KANON)

 あれから三日。

 今日も、彼と彼女は飛び立ったようだ。

 ゲームの支配者が支配する、要塞“マヌ”へと。

 結果は勿論、大まかな展開も初戦と大差無い。

 二人も二人で、返り討ちに遭うごとに恐ろしいまでの成長と適応を遂げて居る。

 だが、それでワンマンアーミーが誕生すれば、今頃VRMMOプレイヤーは化け物揃いとなっているだろう。

 彼と彼女は、決して特別な勇者等では無いのだ。

 現実は、昨日100機落として、今日150機落とした。そして、残りの数百機と言う多勢に集中砲火を浴びせられて四散させられた。

 その、繰り返し。

 このまま同じ事を繰り返していても、スジャータの尻尾の先すら掴めない現状は、絶対に覆らないだろう。

 弾やミサイル、機体の修理費も日に日に彼と彼女の資産を圧迫していく筈だ。

 私は。

 チームメイトの居ない天権ティエンクァンの開発室で、独り。

 傍らに展開させた仮想端末ウインドウに、彼と彼女が闘う映像を映しつつ、闘いに赴く積もりだ。

 これで何が変わるのかは、分からないが。

 或いは、無駄に終わる公算の方が高いけれど。

 私は、彼と彼女と共に闘いたい。

 それだけを想った。

 

 この“配信”は、予め大々的に拡散してある。

 と言うより、SNSに簡単な告知一つ出しただけなのだが、既にリスナーの数がとんでもない事になっていた。

「この配信をご覧になられている方であれば、重々承知ではあろうが。

 私はユニーク・スキル保有の開発者、反物質のKANONカノンである」

 

 およそ、この配信を視聴する方々の希望通り、かねてより、私へ寄せられた開発への要望に答える積もりだ。

 そう「現実的に、人間が使えるレベルに改良しろ」と言う声に対する答えだ。

 

 ――甘えるな。

 

 自分に合った装備が都合良く現れるのを待つな。

 自分が、装備に合わせろ。

 幸い、このゲームには強化人間手術と言う技術が存在する。

 第七世代以上の強化を施せば、私の反物質装備は問題無く使える。

 こちらの映像をご覧頂きたい。

 タイニー・ソフトウェア社の名も無きテストパイロット、HARUTOハルトMALIAマリアだ。

 あの、アンドセーフティと御霊前を実戦で下した二人組、と言えば通りが良いかも知れない。

 無謀な事に、ブラフマー財団本部を連日襲撃し、悉く撃墜されて居る。

 HARUTOハルトは、高々、第四世代の――最も副作用が安定し、且つ、恩恵が軽微な――施術しかしていない。

 一方のMALIAマリアは、第十世代。言わずもがな、肉体の自由を完全に捨てて力を求めた。

 甘えるな。

 都合の良い装備の登場を待つくらいなら、装備に自分を合わせろ。

 私は先程、こう言った。

 同時にもう一つ、こうも言いたい。

 道具に、使われるな。

 “ゲーム”に、遊ばれるな。

 ……私が何故、反物質のユニーク・スキルを運営AIから与えられたのか。

 諸君等にも今一度、考えて頂きたい。

 実際に私の作品を使った天権のテストパイロットであれば、特に肌で感じておられる筈。

 一介のプレイヤーにこんなものが許されれば、これまで“オルタナティブ・コンバット”を支えていた均衡――ゲームバランスが崩れてしまう。

 運営AIは、この世界ゲームに何らかの変革をもたらそうとしている。

 悪し様に言えば、我々、オルタナティブ・コンバットの全プレイヤーをモルモットとした、人体実験だ。

 何故、旧タールベルク、及び、それを吸収したタイニー・ソフトウェア社所属の私にこのスキルが与えられたのか迄は判らない。

 だが。

 運営AIは、私が天権ティエンクァンに移籍する事も予期していたのだろうと思う。

 何故なら、タイニー・ソフトウェア社、高内重工業、トゥルビネ・インダストリー……何処に反物質を持って行こうと、必ずそのエネルギー源となるジェネレータの問題が付きまとうからだ。

 武装のパワーバランスを大きく変動させると言う事は、機体への負荷を増加させざるを得ない事を意味する。

 その負荷の波が最後に行き着く先は機体の中枢であり末梢部――パイロットと言う名の“パーツ”だ。

 運営AIの狙いの鍵は、其処そこにあるのでは無いかと、私は推測している。


 ……これは、“彼”の受け売りになるが。

 ゲームそのものが、私達に反物質と言う“飴”を与えているのは明白。

 それに乗れば、運営AIの思う壺だ。

 それが解っていて、私は、私達は、敢えて運営AIの思惑に乗った。

 運営AIの上から目線な謀略に嵌まった上で、それでも真っ向勝負で打ち破って見せる。

 それこそが“人間”だ。

 それを証明する為に、彼は――私達は、闘っている。

 

 そして。

 マヌを戴く空の上で、彼と彼女が戦う映像に。

 マヌ程では無いにしても……まるで“建造物”を無理矢理飛ばしているかの様な、圧倒的超質量の――SBスペアボディが、新たに映し出された。

《やぁ、遅くなってすまないね》

 もう一人の“彼女”、YUKIユキの、相も変わらず飄々とした通信が飛び込んで来た。

 あの空飛ぶ兵器基地アームドベース搭載SB(と言うより、あれではSBの方が搭載されている有り様だが)を動かしているのは、彼女だった。

《アタシの最高傑作にして最低の欠陥品“アウトレット・モール”、ウン年越しの初お披露目だ》

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