log26...さる左右対称なSBの襲来について(記録者:フルチューン・MALIA)

 金属片と火花。禍蛇カダだったものの残滓が宙空に浮かぶ中。

 わたしたち、両軍の後続が再びぶつかります。

 “御霊前”がこちらを向き、マシンピストルの弾幕を浴びせてきます。

 さすがに装弾数の少ない武器ですから小雨のようにまばらですが、ひとつ間をおいてガトリングの集中豪雨がくわわります。

 どうにも、機体の形といい、左右の武装のギャップといい、微妙に調子が狂わされます。

 今やネタバレされてしまった後ろのグレネードランチャーですが、本来死角であるはずのそこに迎撃兵装があると思うと、これも神経をすり減らされます。

 今までのクセで、どうしても相手の背後を狙おうと考えてしまうので。

 それに、隠してるのは、あの一門だけとは限りませんし。

 さきほど禍蛇を撃ち落とした重量逆関節機体が、レールライフルのチャージを終えたようです。

 明らかに、御霊前の射撃から逃げまどうわたしに狙いを定めています。

 アルバスがオービットを射出して牽制してくれますが、それも予測済みだったのか、レールライフルの機体は依然、わたしを狙ったまま下がります。

 まだまだレールライフルの有効射程距離ですが。

 後方からUMGPアンマークド・グッドプロダクトのビームライフルがとんできて、これはさすがに命中、大きく体勢の揺らいだところへ、追撃のグレネードランチャーが片足に直撃。さすがに膝から折れて星空の彼方に消えました。

 前にTERUテルさんも言っていましたが、逆関節脚部は横からの衝撃に弱いのです。ビームならまだしも、さすがに実弾をまともに受ければ高内装甲であってもこうなってしまいます。

 さすがにレールライフルの機体は退却、入れ代わりに、追いついてきた軽量二脚二機が上下からわたしを狙います。

 やっぱり、タンク形態のまま戦い続けるのは結構シビアです。こんなこというと、純粋なタンク使いの人に怒られそうではありますが。

 御霊前の弾がちらほら当たるようになってきました。

 UMGPが後ろからプレッシャーをかけてくれているので、ほとんどが跳弾して大事にはいたってませんが……敵後衛がUMGPへ牽制をかけるのもお互いさまです。

 少しでも集中を欠けば、あっさり撃墜される、ギリギリの状態です。さすがにわたしのほうは、オービットを動かせそうにありません。

 こういう時が、マニュアル操作のリーズン式の泣きどころです。

 ちょっとオービットでやりたいことがあったのですが――アルバスのオービットが、御霊前へ飛んでいきました。

《……行け、インスティンクト・オービット。御霊前へ一斉射撃だ》

 たぶん、わたしが考えてたことをかわりにやってくれてます。

 オービットへの回避行動で、ほんの少し、わたしへの弾幕が薄まりました。

 オービットを紙一重でかわしながら、それでもわたしへの射撃を止めないあたりは、やっぱり超人じみていますが。

 なんとなくの感覚ですが、わたしはこの先のダメージをシミュレート。たぶん、落とされはしないだろうと結論づけました。

YUKIユキさん、援護をおねがいします!」

 言葉足らずかもしれませんが、今はこれ以上のセンテンスを発音する時間もありません。

 わたしは、御霊前の火線から逃げる速度を落としました。

 当然、被弾が目にみえて増えます。

 装甲がいやな音を立てて削られ、歪む断続的な音。

 わたしは、バズーカを構えますが、思った以上に照準がブレまくります。

 いつ機体が壊れるかプレッシャーですが、がまんです。

 相手の僚機が、当然、わたしへトドメを刺そうと直進します。

 そこへUMGPが、実弾マシンガンを合わせて牽制。敵の一方は数発命中。宙空でつんのめったところへ、間髪いれず撃たれたUMGPのビームが三発、すべてがおなかのコックピットを撃ち、ついに貫通。

 貫通に三発もかかる高内装甲もさすがですが、機体は大破。

 やはり、その機体の一部が飛び散ってもう一機もひるみます。

 そして、わたしのバズーカも照準が合った一瞬。

 砲身が音なき重低音とともに咆哮、棹立ちにならんという勢いで跳ねて、その飛翔体を御霊前へ放ちました。

 ……かわされました。

 わたしから見て、下へ。

 ガトリングに打ち付けられる音と振動が、かなり大人しくなりました。

 さすがに、縦へ逃れた御霊前の弾幕もズレました。

 また狙いを修正される前に――。

 アルバスがすべてのブースタ全開。そのオービットも御霊前をしつこく追いかけます。

 わたしも、ここで勝負を決めるべく全速前進。

 背後で、UMGPがもう一機の敵僚機を撃墜した音と気配も。

 戦況は進んでいます。御霊前の奥からはさらにたくさんの高内機体が駆けつけます。

 そうなる前に。

 ツバメのように鋭い軌道で御霊前の下を抜けたアルバスが急上昇、その背後で急転回してショットガンウイングを展開。

 さっきの禍蛇と同じシチュエーションですが。

 この刹那、御霊前は……やはり臀部でんぶグレネードランチャー(?)を発射。同瞬、アルバスも背部ショットガンをクロスカウンターぎみに発射。

 双方、被弾して同じようによろめきます。

 御霊前の背後を意識させる、ということはパイロット本人も潜在的に背後に回った敵を意識するのと表裏。

 HARUTOハルトさんは、相手の心理をついてダメージ交換を行ったのでしょう。

 軽量逆関節の禍蛇でも原型はとどめていた程度の威力なので、アルバスの重装甲なら……という簡単な算数ではあるのですが、無茶するものです。

《まだまだ、装備に若さが出てるねぇ。

 ヘタな小細工は大抵逆効果。前例のないアイディアは、大抵誰もだけ。

 またひとつ、勉強になったろう》

 YUKIユキさんが、なんだかうれしそうに独りごちました。

 とにかく、敵の増援が追いつく前に、彼の作ってくれたチャンスを。

 わたしはオービットを飛ばして御霊前の文字通り四方を包囲。それでも針の先くらいの隙間を縫ってきたのが恐ろしいほどですが。

 可能な限り接近してからの偏差射撃になりますが……バズーカの狙いを定めて、発射。

 ビリビリした振動が、わたしの手にまで伝わるような錯覚を感じました。

 辛うじて命中。

 爆炎と爆煙に隠された御霊前へ、わたしは全基オービットへ、一斉射撃のイメージを送信。

 御霊前をめった刺しするように、上下左右から高出力レーザーが襲いかかります。

 ひときわ大きな破砕音と閃光。

 SBスペアボディが、撃墜された証です。

《敵機・御霊前、機体反応消失》

 オペレータとしてのKANONカノンさんが、それだけを告げました。

 視界が晴れたとき、御霊前はすでに無数の残骸に分けられていました。


 ここからも、双方の後続が再びぶつかり合う、乱戦になりましたが、前半戦はわたしたちタイニーの優勢に終わりました。

 自社母艦で弾薬の補給をして、いよいよ後半戦です。

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