log01...とある白黒対決の様子について(記録者:MALIA)

【せんとう かいし】

 旧式コンピュータの、思わず脱力しそうな棒読み音声がコックピット内に反響して、わたしに戦闘開始をつげます。

 コンピュータの声に応じるかのように、コックピット内の視界が急速にひらけました。

 抜けるような青空の下、きれいに切りそろえられた人工芝と、外周を大きく囲む鉄条網だけのシンプルな情景。

 わたしが乗るこの機体の全長は20メートル弱。コックピットは胴体にあるとはいえ、見おろす景色です。

 これは、機体のあちこちに内蔵されたカメラのみせる映像なのですが、時々、ガラス窓ごしと間違えそうになるくらいの高画質だとおもいます。

 シートに座るわたしの目の前や手元には、えげつない数のスイッチや操縦桿や操作パネルがびっしりとひしめきあっています。

 コレ全部覚えて、ようやく歩いたり飛んだり、一通りの基本動作ができます。

 そこまで覚えるの、ほんとに大変でしたよ。

MALIAマリア、“アーテル・セラフ”、いきます」

 右手でレバーを引きながら管制塔に告げて、わたしは黒き熾天使アーテル・セラフと名づけた自機を発進させました。

 ……とはいえ、わたしの視点からではこの機体の外観はみえないのですけどね。せっかく自分好みにデザインしても、パイロットがその勇姿を見ることはできないのが、このゲームの泣き所だったりします。

 ちなみにわたしのアーテル・セラフは、戦車タンク型です。振動の大半はショックアブソーバーが減衰してくれているとはいえ、キャタピラで大地を踏み均す、微かな振動が座席に伝わってきます。

 武装はさしあたり、右手にアサルトライフル、左手にバズーカ。

 実寸大の人間にはまずムリな二丁拳銃ですね。巨大ロボットならではです。

 なお、可変アサルトライフルについては、これから使いながら説明します。

 

 さて、前置きがながくなりましたが、いよいよ敵機がみえてきました。

 マットな質感の白をベースに、黒のラインと空色のアクセントがあちこちに入ったカラーリング。

 二足タイプのオーソドックスな人型。背中には四本の柱のようなもので構成された二対のウイング。脚は太く、全体的にがっちりとしたフォルムで強そうですね。

 目に見えた武装と言えば、右手にマシンガン・左手にも機関砲チェーンガン

《……HARUTOハルト、“アルバス・サタン”、出撃する》

 白き悪魔王アルバス・サタンと名づけられた機体から、冷静そのものな男性の声がしました。

 このHARUTOハルトさんとは、このゲーム“オルタナティブ・コンバット”もふくめて、かれこれ三タイトルのつきあいになります。

 前回ご一緒したのはクトゥルフ神話系のゲームで、前々回は古きよきJRPGの世界でした。

 そして今、わたしと彼は自作巨大ロボットに乗って一対一の対決を行うわけですが。

 お互い、ようやくまともに歩けるようになったばかりのビギナー同士。

 はてさて、どんな勝負になりますことやら。

 

 機動力ではこちらが不利。

 先手必勝。

 わたしは左手の操縦桿を引き、スイッチを押しました。

 わたしの操作を受けたアーテルが、HARUTOハルトさんの白い機体めがけてバズーカを構え、人間でいう人差し指にあたるマニピュレーターを折って引き金を押し込みました。

 ドッ、という音なき重低音と、機体全体につたわる微細な振動。

 彼のアルバスは背中のブースタから蒼い光を噴射し、瞬時に退避。

 遥か彼方に着弾したわたしのバズーカ砲弾が、人工芝のこびりついた泥間欠泉を噴き上げてはぜました。

 やっぱり、ロボットの操縦ってこう、半テンポ遅い感覚がします。

 操縦桿から命令の伝わるまでのレスポンスはコンマ秒以下なのでしょうけど、ファンタジー世界とかで直接手足を動かすのに比べると、どうしても遅延を感じます。

 今回選んだゲームとは、そういうものです。

 すぐ順応しなきゃって思います。

 とりあえず、彼の機体についてわかったこと。

 わたし、てっきりあのウイングがブースタだと思っていたのですが、実際には背中の中央に埋めこまれていた……つまり、翼には別の用途があるようです。

 補助ブースタという線も考えられなくもありませんが。

 ……とかなんとか、あれこれ考えていた間にも、わたしの手元は操作をとめていません。

 次はアーテルに右の手――アサルトライフルを構えさせ、引き金を引かせます。

 目に痛いマズルフラッシュが、モニタ全体を明滅させます。

 一度のトリガーで、ライフル弾が四発、お魚のように連なってアルバスを襲います。まあ、一般的なバースト射撃ですよね。

 アルバスはこれも横飛びで難なくかわし、再度噴かせたブースタで急カーブを描きながら、わたしに向かってきました。

 これを迎え撃つべく、わたしは、アサルトライフルの操縦桿をひねりました。

 すると銃口ががちゃこん、と組みかわった音と感触がしました。

 改めて、アサルトライフルを発射。

 今度は、打ち上げ花火のような無数の弾が放射。

 この銃は、ワンタッチでショットガンとアサルトライフルを切り替えられるすぐれものなのです。

 HARUTOハルトさんもさすがのカンといいますか、わたしの銃口がスイッチしたことに反応して、ブースタのベクトルを瞬時に転回、真上へ飛翔、結果的に散弾を数発だけ浴びただけで終わりました。

 目算、胴体や腕の装甲が少し凹んだ程度みたいです。

 わたしは、また、別の武装を開放。

 わたしからみて真正面から、開閉音。

 つまり、胴体の装甲が開いたのです。

 コックピットを守る一番大事な装甲を開けたことになり、すごく危険ではありますが。

 振動と推進音が連続、何発もの胸部マイクロミサイルが、意思のある魚群のようにアルバスへと殺到。

 攻撃は最大の防御。

 わたしへの追撃をあきらめた彼は、急旋回しつつミサイルを撒きつつ、ついにマシンガンを発射。

 それは、無数のビームをフルオートで放つ光学マシンガンでした。

 無理な体勢から、それも巨大ロボットという間接的なものに撃たせている悪条件を感じさせない、正確な狙いは、さすがHARUTOハルトさんその人というほかありません。

 一応わたしは、マイクロミサイルを撃ったのとほぼ同瞬に別の操作もしていました。

 それに応じたのは、背部に装備していたウイングでした。黒き熾天使というだけあって、わたしのにも翼がついてるのです。

 正確にはリフレクトクロークとよばれるそれは、名前の通り上着みたいにわたしの機体正面をつつみこみ、マシンガンの光弾を霧散。

 対エネルギーフィールドを展開する防護武装です。

 機体の動力炉ジェネレータから直接エネルギーを引っ張ってくるものなので、長時間の使用はむずかしいのですが。

 アルバスが、銃口の赤熱したビームマシンガンを下げました。

 入れ替わりに、反対側のチェーンガンを咆哮させます。

 こちらは金属の実体弾。わたしのアーテルを守る外套クロークが、ひしゃげた金属悲鳴ともに、はかなく剥げ飛びました。

 わたしは逃げず、再びバズーカを向け、容赦なく彼を撃ちました。

 彼のアルバスは深追いせず、再度飛翔して、わたしの砲撃を回避。

 読み通りです。

 二タイトルのゲームを共に戦った間柄の、身内読みともいいますか。

 わたしは両手の武装、アサルトライフルとバズーカをあらんかぎり撃ちます。撃ちまくります。

 乱反射する、爆轟と弾幕。

 しかし、肝心のアルバスにはほとんど当たっていません。

 アルバスからも、蒼い弾幕と紅い弾幕が交差してわたしを襲います。

 わたしも必死に操縦桿を上下前後させ、機体を蛇行させます。

 何だかんだでやっぱり乗り物。

 それも重ね重ねいいますが、わたしのは戦車タイプ。

 大きく慣性がかかって、ファンタジー世界のように小回りのきく動きはできないようです。

 チェーンガンのほうは、タンクの頑丈な装甲に助けられてほとんど跳弾してくれていますが、問題はビームマシンガンのほう。

 あちこち、表面の装甲が剥がされてきているのを感じます。

 そして。

 三つのアラーム音がコックピットで不協和音をかなでます。

 両手、および胸部の弾薬すべてが尽きた警告音です。

 戦車もこうなってはただの動くカンオケですが、

 

 ここからが、アーテルの本当の姿になります。

 

 わたしが、決められた順番どおりに操作パネルを叩くと。

 機体全体があわただしく組みかわりはじめました。

 コックピット内のわたし視点なので、このギミックを直接みせられないのが残念ですが。

 弾の尽きた重火器すべてが切り離パージされ、戦車のキャタピラだった脚部は折り畳まれ、新たな胴体の装甲に変化。

 また、新しくスカートのような脚が、キャタピラにとってかわって生えてきたはずです。

 脚……といっていいのか、むき出しの反重力装置というべきか。

 わたしのアーテルは、タンクの姿を捨てて浮遊フロートとよばれる機動方式に変身したのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る