50話 悟

 ……まあ、こうなるわな。


 別に狙ったからいいのだが。


「清水さん、これ食べてください!」


「どれどれ……うんっ、美味しいね」


「わぁ……ありがとうございます! あの、それもらってもいいですか?」


「ええ、もちろん」


 目の前では、美優と清水が楽しくお弁当を食べている。

 お互いに作ったものを交換したりと、実に楽しそうだ。

 ほんと、美優に来てもらってよかった。


「こういう空気も久々だわい。お前が小学生の時に来た以来か」


「あぁー、そんなになるっけ」


「それより、物凄く注目されておるが……」


「清水、学校では聖女様って呼ばれるくらいの女の子だからなぁ」


 なんか、俺たちの一角だけ人が少ない。

 みんなが、ちょっと遠巻きに眺めてる感じだ。


「ほう、これだけ可憐な容姿だと大変じゃ」


「まあ、色々と苦労してるらしい」


「うむ……お主はナイトになってやらねばいかんぞ?」


「……そのつもりだよ」


「よく言った、それでこそ我が孫だ」


 すると、清水がこちらを見る。


「どうした?」


「う、ううん、少し見慣れないだけ」


「お兄ちゃん、かっこよくないですか?」


「か、カッコいいと思う」


 清水は俺から顔を逸らしながら言った。


「おい妹よ、清水がめちゃくちゃ気を使ってんじゃねえか」


「ええー? だってお兄ちゃん男前だと思うもん」


「そ。そうだよ」


「へいへい、ありがとよ」


 そうして、楽しい時間を過ごしていると……礼二さんがやってくる。

 うちの両親とも仲が良かったので、当然じいちゃんと美優も知っていた。


「おおっ、礼二君じゃないか」


「ああ〜! 礼二さんだ!」


「哲也さん、ご無沙汰してます。美優ちゃんも、すっかり大きくなって……すみませんが、ご挨拶は後で。清水、悪いが来てくれるか?」


「何かあったんですか?」


「ああ、ちょっと問題がな。優馬もいいか?」


「俺も? ……わかった」


 すでに食べ終わっていたので、俺と清水は礼二さんの後をついて行く


 そして、俺達が到着したのは保健室だった。


 その前で、礼二さんが耳打ちをする。


「優馬、俺では聞き出せん」


「どういうこと?」


「あまり問題を大きくしたくないか、本人が嫌がってるんでな。どうやら、教師である俺には言いづらいらしい」


「……よくわからないけどわかった。とにかく、俺は話を聞けばいい?」


「ああ、それで頼む。清水も、フォローしてやってくれ」


「はい、わかりました」


 そして、礼二さんがその場を離れる。

 俺達が中に入ると、そこには足を怪我した悟がいて隣には森川がいた。


「おっ、悟じゃん……それ、どうした?」


「え、えっと……僕が転んじゃって」


 俺から視線を逸らして下を向く。

 その姿は、悟がカツアゲされていた場面と一緒だった。

 あの時も声をかけたら、何もされてませんって言ったっけ。


「悟、俺の目を見て言え」


「うっ……」


「あ、あの! 違うんです! この怪我は私をかばって!」


「だ、大丈夫! 自分で言うから……」


 一生懸命、涙を堪えようとしていた。

 なるほど、情けない姿は見せたくないよな。


「清水、森川を頼む」


「うん、わかった。森川さん、ちょっと出ようね」


「は、はい」


 森川と清水が出て行くを確認してから、改めて悟と向き合う。


「どうした?」


「……情けない話なんだけど、僕も頑張ってみたくて。その、優馬君が変わるっていうから。あと、森川さんの前でカッコつけたいって気持ちもあって」


「そうか」


「だから運動苦手だけど、練習とかなんかしちゃって……」


「ああ、知ってるよ」


 放課後に、二人で二人三脚を練習してたのは知ってる。

 というか、割と目立っていたので知ってる人は多いだろう。


「そうなんだけど……お昼に入る前に横山君に、お前みたいのが相手なら楽勝だなって言われて。あと、森川さんのことも悪く言われて……二人とも、地味でお似合いだって」


「……そうか、あいつは二人三脚も出るのか」


「そうみたい。なんか、うちには負けたくないで……僕、悔しくて。それで、最後にもう一回練習しようって思ったんだけど……転んで怪我しちゃった……はは、馬鹿みたいだよね」


 その目から涙が溢れる。

 きっと、悟なりに頑張ってきたのだろう。


「んなわけあるか、頑張ったことに意味ないことなんてない。お前が努力して変わろうとした、その事実があればいいだろ」


「優馬君……」


「少なくとも、俺は馬鹿だとは思わない」


「あ、ありがとう……でも、迷惑かけちゃった」


「……悟、お前の仇をとってもいいか?」


「……よろしくお願いします」


 そう言い、悟は俺に頭を下げた。


 努力をしない天才肌がなんだか知らないが……俺のダチを馬鹿にしたことは許さん。

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