第16話 到着したが……

 そのまま山を登り続け、人目につく前に離れる。


 怪我をしてるとはいえ、この状態を見られるのはよろしくない。


「あとは行けるか?」


「ええ、ありがとう……」


「おいおい、しおらしくなるなよ。これで、少しは借りを返せたか?」


「う、うるさいわね。まだまだ貸しはあるんだから覚悟しなさい」


「へいへい、そうですね」


 変にしおらしくなるより、こっちの方が楽だ。

 そうすりゃ、俺も気を使わずに済むし。

 そして、少し離れた位置から頂上に到着する。

 すると、ちょうど礼二先生が降りようとしていた。


「おっ、二人ともきたか。遅いから、探しに行くところだったぞ。携帯にも出ないしな」


「あっ……ごめんなさい」


「先生、俺が悪いんですよ。ちょっと目眩がしまして。清水さんには気遣ってもらいました」


「……ふっ、無事ならいいさ。それじゃ、点呼を取るからお前たちも列に並んでくれ」


 そうして、生徒たちの元に戻っていく。

 すると、清水から視線を感じる。


「どうした?」


「別に庇わなくても良かったのに……」


「うん? まあ、お前が怪我なんかしたら男子が大騒ぎするからな。というか、俺がリンチされそうだ」


「ふふ、そうかもしれないわね」


「ほら、ゆっくりで良いから行くぞ」


「……我ながらほんと嫌、なんで素直にお礼が言えないのかな」


「あん? なんか言ったか?」


「う、ううん、何でもない」


 そうして俺達は悟達と合流し、礼二先生の話を聞く。


「よーし、これで全員揃ったな。とりあえず、お疲れさん。この後の予定だが、二時間の休憩兼オリエンテーションがある。近くに生簀があるので、そこで釣り体験もできるぞ。もちろん、食べたりできる」


「先生、夕飯はありますけど良いんですか?」


「清水、良い質問だ。夕飯は六時半だし、まだ二時半だから平気だろ。それにカレーをうまく作れるとは限らんからな。あとは普通に川遊びもできる。注意点は常に監視員もいるが、入るときは気をつけること。それと足湯もあるから自由に使うと良い……くらいか? んじゃ、あとは四時半まで各自自由にしてくれ」


「「「ウォォォォォォ!」」」


「小腹空いたし釣り行こうぜ! 俺、うまいんだぜ!」


「疲れたから足湯行きたい!」


「川でのんびりしたい〜」


 そんな声が上がる中、生徒達が移動を開始する。

 当然、男子達が清水を放っておくわけもなく……他クラスのイケメンやら、同じクラスの奴らが群がっていた。

 当然、それに勝てないと思った連中は引き下がって行く。


「ねえねえ、清水さん。俺、釣りが上手いんだよね」


「いやいや、あっちに良い景色があるみたいだから行こうよ」


「せっかく川があるから川遊びだろ」


「え、えっと、いっぺんに言われても困っちゃうな……」


 明らかに清水は困っているが、男子達は気にした様子はない。

 ずっと、自分のことを話し続けている。

 そのことに自己嫌悪を感じつつも、あいつらにも腹が立ってきた。

 あいつが足を痛めてることに気づきやしない。


「……借りはまだまだあるしな」


「はぁ? 清水さんは俺と釣りに行くんだよ」


「いやいや、良い景色がいいでしょ」


「断然、川遊びだろ」


「み、みんな落ち着いてね?」


 少しずつ気まずい空気が流れて始める。

 清水も足が痛いのか、いつものような余裕がなさそう。

 俺は咄嗟にスマホを取り出し、文章を打ち込む。

 すると、すぐに返事が帰ってきた。

 流石は、頼りになる先生だ。


「おーい! 清水! こっちきてくれるかー!? 少し手伝って欲しいことがある!」


「は、はい! ごめんね、みんな。ちょっと先生が呼んでるから行くね」


「「「そんな……」」」


 男子達ががっくしと肩を落とす中、清水が先生に駆け寄って行く。


 それを確認した俺はお礼の文章を打ち、一人で川を眺めに行くのだった。

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