第12話 バイトにて

 放課後になり、いつものように時間を潰してからバイトに向かう。


 そしてアポロンの相手をしつつ、叔父さんを待つ。


「アポロン」


「ワフッ!」


「あのよ、最近変な女子と知り合ってな。なんか、面倒なことになりそうだ。理由はわからないが行く先々にいたり、いつの間か近くにいたりするんだよ」


「ワフッ?」


 その顔は『自業自得では?』と言ってるような気がした。

 無論、そんなわけはないのだが。

 すると、準備を終えた叔父さんが玄関から出てくる。


「おいおい、何を犬に人生相談をしてるんだ。するなら、ここに頼れる叔父がいるだろうが」


「叔父さんだと余計なことも聞きそうだし」


「失礼な奴だな。ほら、車に乗れ」


「へーい」


 ひとまず車に乗り込み、店へと走り出す。

 昨日はよく寝たのので、今日は寝ないですみそうだ。


「んで、女の子がどうとか?」


「聞いてたんかい。別に大したことじゃないよ」


「このイケオジの叔父さんに話してみろって。明子さんには黙っておくから」


「イケオジとか自分で言っちゃダメだし。まあ、母さんにバレると面倒だね」


「ぐぬぬ……俺だってまだまだ気持ちは若いんだよ」


 確かに叔父さんはお洒落だし渋いからモテる。

 店に来る女の人も、叔父さん目当てで来る人もいるくらいだ。

 ちなみに母さんにバレると、根掘り葉掘り聞かれるのが想像つく。

 動けはしないけど、口だけは元気だし。


「……俺さ、女の子ってめんどくさいと思ってたんだ。やかましいし、すぐに徒党をくんだり陰口言ったりするし。中学の頃も、男子と遊んだりする方が楽しかったし。 今でこそあれだけど、昔は妹の面倒とかも見てなかったし」


「まあ、お前くらいの年齢ならそんな奴もいるさ。それに、お前はうちの店で働いてるから仕方のない部分もあるし……それについてはすまんな」


「いや、それについては感謝してるよ。おかげで、この間も妹に洋服とか買ってあげられたし」


「お前は十分良いお兄ちゃんだよ、俺が保証してやる。きっと、死んだ兄貴もそういうさ」


 そうして信号待ちの間に、俺の頭を乱暴に撫でる。

 俺は照れ臭くなりつつも、大人しく撫でられるのだった。



 ◇



 店に着いた俺は準備を済ませ、十八時に開店となる。

 次々とお客さんがやってきて、ウェイトレスの由香里さんが忙しなく動いていた。

 この店は広さもあるしカウンター席が四つに、二人席が四つ、四人席が四つあるがそこまで満席になることはない店だ。

 なので、三人でも十分に回すことができるが……ごくたまに、満席になって忙しくなることがある。


「優馬君! コップが足りないよー!」


「了解です!」


「優馬! 皿もだ!」


「わかった!」


 そうなると、俺はひたすらに雑用に徹する。

 そして二十一時になると、いつものように客が引いていく。

 ここから一時間くらいは、ほとんどお客さんが来ない。


「あぁー、マスター! 疲れましたよー!」


「ああ、ご苦労さん。その分の給料は払ってると思うがな。この辺にしては頑張ってる方だろう」


「そうなんですよねー。ここ、店自体が週四回ですし、実働時間も最長で六時間で終電で帰れるし……時給もいいしマスターかっこいいし、優馬君優しいし。ぐぬぬ、文句がつけられない」


「いや、何を悔しがってるんですか。それならいいんじゃないですかね」


 この大学生一年である菊池由香里さんは、俺と同時期に働き始めた人だ。

 ここは都内から近く、それでいて田舎でもあるけど時給や交通の便はいい。

 なので割と人気だし、バイトしたいという子もいたりする。

 ただ叔父さんは半分道楽でやってるので、相当気に入らない限りは雇わない。

 バイトで雇ってるのはもう二人だけだし。


「うん、そうなのよー。それに、二人共セクハラとかしてこないし。むしろ、私がしそうだし」


「そこはしないでくれません? というか、たまにお尻を触りますよね?」


「えへへ、そこは仕方がないですぜ旦那。高校生のお尻なんか触れる機会ないんだから。良いじゃん、減るものでもないし」


「誰が旦那ですか。ほら、次のお客さん来ますよ。今のうちに、片してしまいましょう」


「そういうことだ。ほれ、給料分は働け」


「はーい、頑張りまーす」


 そして休憩をして二十二時になると、お姉さん達がやってくる。

 仕事上がりだったり、これから仕事に行く方々だ。

 そして、すぐに出来上がっていく。


「うぇーい! 優馬君!」


「はいはい、何ですか」


「彼女はできましたか!?」


「できてないですよ。そもそも、そんな暇はありませんし」


「もったいない! こんなに良い男なのに! お姉さんが立候補しちゃおうかな!」


「結構です。そもそも、俺には勿体無いですから」


「かぁー! 今日もイケメン! 酒が美味い!」


 とまあ、大体のお客さんがこんな感じである。


 これでいて普段はキャリアウーマンだったり、夜の蝶として男達を手玉にとるお姉様方である。


 そりゃ、清水くらいの猫かぶりは可愛いものだと思ってしまうのも仕方ない。


 清水か、あいつも生き辛そうにしてるよな。


 まあ、借りは大きいし何かあれば力にはなろうとは思ってる。


 ……ってなんか言い訳みたいになってるしな。










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