第34話 情熱の代償3


「まったく… フリオという男は、本当に迷惑な奴だ! 自分の失敗に、私のデシルまで巻き込もうとするとは!」


「ふふふっ…」

 僕は本当に、サリダ様に愛されているんだなぁ~…? 


 イライラと文句を言うサリダの腕の中で、もう一度ごそごそと向きを変え、デシルは広い胸に耳を当てて… サリダの心臓がドクッ… ドクッ… と、怒りと心配で激しく暴れる音を、うっとりと聞く。


 デシルの顔に笑みがこぼれ、広い背中に腕を回し、トンッ… トンッ… とたたいてサリダの怒りをなだめる。 



「君には関係ない事だと思って黙っていたが… 怖い目にあわせてすまなかった! 私の判断ミスだった!」

 悔しそうにサリダが、謝った。


「んんん? 黙っていたとは何ですか、サリダ様?」

 今の言い方だと… 僕の知らない、何かがあったのかなぁ?!

 

 顔をあげて、デシルが大きな青紫色の瞳で見上げると… サリダの眉尻まゆじりが下がり、困り顔になる。


「うん、それが… 国境の守護騎士団に助けを求めたアオラが保護されて、今はエンプハル公爵邸に戻っているという話だ」


 卒業パーティーの直前に、アオラの抑制剤をすり替えて協力した侍女が、公爵邸でアオラ関連の動きがあると、つなぎの騎士を通して、サリダに連絡を寄こすのだ。



「え?! アオラ様が?! それでフリオは男爵邸に、1人で来たのですか!!」

 変だと思った! アオラ様のことを、フリオに聞こうとすると、話をはぐらかそうとしていたし… でもアオラ様が騎士団に保護って、何で?!


「…そうだ! アオラとフリオは国境を越えて、隣国で結婚して暮らそうと考えたらしいが… 国境へ行く前にフリオの旅費がきて、貧乏な生活をいられると、アオラは恐ろしくなり、フリオの元を逃げ出したらしい…」


「ああ… お金を使う時でさえ使用人まかせの、苦労を知らない公爵令嬢だから… フリオにお金が無いと知った時は、きっと驚いたでしょうね…? それよりも隣国へ行けば、フリオは爵位を継承してないから、平民として扱われるのではないですか?」


「その通りだ、デシル! 彼らはそんなことも、考えなかったようだ… やっぱりデシルは賢いな! 結局、アオラは父親の公爵によって、東部のはしにある修道院へと、送られる予定だそうだ」


「あ~あ~… エンプハル公爵が気の毒になってきましたね…?」


「まったくだ!」

 

「でも、公爵には申し訳ないですが… 僕はフリオではなくて… サリダ様と結婚できて幸せです! あなたをアオラ様に取られなくて本当に良かった! ふふふっ…」

 嬉しくなって気持ちがたかぶり、デシルは背伸びをして、自分からサリダのあごにキスをした。


「私の方こそ、デシルをフリオから奪えて幸運だった!」

 ニヤリと笑いサリダはデシルの唇に、少し長めのキスを返す。


「僕って… フリオに捨てられて、サリダ様にひろわれたのではなくて… フリオから奪われたのですか?!」


「そうさ! 知らなかったのか?」


「ふふふっ… サリダ様に奪われて嬉しい! ああ、そう言えば… なぜかフリオが、ずっとサリダ様のことを気にして、張り合おうとしているように見えました… なぜだと思いますか?」


『クソッ…! 何でお前までサリダなんだよ!!』 


 サリダを嫌悪していたフリオを思い出し、デシルが首をかしげると… サリダもデシルの顔を見下ろしながら、首を傾げた。


「うう~ん… そうだな… さすがに、フリオ本人に聞いてみないと分からないが… もしかすると、アオラはフリオと一生、貧乏に暮らすぐらいなら、私と政略結婚をした方が良かったと、今さらだが、考え直したのではないかな?」

 

「なるほど! それでフリオは、サリダ様に嫉妬して…?」



 サリダの予想はずばり、的中した。

 アオラは侍女もいない、極貧ごくひんの旅に耐えられず…


『こんなことなら、サリダと結婚していれば良かったわ! あなたが悪いのよ?! 私を誘惑して“つがい”にしたから!! 私を幸せにできないなら、私を誘惑しては、いけなかったのよ!』


『先にオメガのフェロモンで、オレを誘惑したのはアオラじゃないか?!』


 オメガならばデシルのように、自分を従順に愛し続けると… フリオは変な思い込みを持っていた。


 ……だが実際は、“番”のアオラに反抗的な態度でののしられ、旅の間じゅう2人はみにくいケンカを繰り返し… そのうえ、フリオはあっけなくアオラに捨てられてしまう。


 フリオは、傷ついた心にデシルの慰めが欲しくて男爵邸を訪れ… ついでにやり直そうとせまる気でいたが、何もかもが遅かった。



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