第三章 獣人の冒険者クロエ(3)

「ジン君の場合、前衛も後衛もできるなら私と組む場合は後衛をしてもらってもいいかな?」

「ってことは、クロエは前衛向きのスキルを持っているってことか? 聞いていいなら、それだけでも教えてほしいな」

「うん、いいよ。【身体強化魔法】と【剣術:3】だよ。この二つがあるから、今まで前衛でやってきていたの」

【剣術:3】と聞いた俺は、クロエは天才の部類の人間かもしれないと考えた。武器術系や魔法系のスキルレベルは、所持者の才能によって上昇するまでの経験値が変わってくる。

 それこそゲームの主人公はその辺の設定が緩くされていて、基本的に終盤になると均等して最大レベル付近まで上がっていた。

「剣の才能があるんだな」

「うん、一つでも才能があったら冒険者は有利って聞いていたけど本当にそのとおりだったよ」

 才能があると言うと、クロエは笑みを浮かべてそう言った。

 そんなクロエを横目でチラリと見たリコラさんは、クロエのもう一つ優れた点について教えてくれた。

「クロエさんは剣術の腕もそうですが、なにより一番優れているのは斥候技術だとギルド側は評価しています」

「へぇ、それはいいな。俺はそういった技術はないから、クロエが居たらダンジョン攻略も早いうちから挑戦できそうだな」

「いいね! 私がわなとか見破るから、ジン君の魔法で魔物を蹴散らせば簡単にダンジョン攻略もできそうだね!」

 ダンジョン攻略。そう俺が言うと、クロエは目に見えてワクワクとした雰囲気でそう言った。

 ダンジョン、それは神々が人に対し試練を与える場所。そういった設定でこの世界にはいくつものダンジョンが存在する。形状はさまざまで、よくあるのが洞窟型のダンジョン。王都の近くにもいくつかダンジョンが存在していて、日々、多くの冒険者達が挑戦している。

「ジンさんとクロエさんでしたら、油断さえしなければ良い稼ぎにはなりそうですね。一応、こちらでジンさん達に合いそうなダンジョンを探しておきましょうか?」

「そうですね。一応探しておいてください。行くかどうかは、今のところわかりませんけど」

「わかりました。ジンさん達に勧められるダンジョンを探しておきます」

 フィーネさんがそう言うと、クロエは「楽しみだね!」と言った。

 その後も何度か話が脱線しつつもお互いのことをなんとなく知り、明日一緒に依頼を受ける約束をしてから解散となった。

 クロエと別れた後、すでに外は日が落ち始めていたので宿に戻った。


 宿に着くと、すでに夕食の時間だったので食事をして、シャワーを浴びて部屋に入った。

「……って、待てよ。クロエってゲームに同じ名前のキャラいなかったか!?」

 ベッドに横になった俺はハッと思い、そう叫びながら飛び起きた。

 ゲームのキャラに獣人族の冒険者で、クロエという名のキャラがいた。

 いや、でも〝ゲームのクロエ〟と〝今日会ったクロエ〟は全く別人に見えた。

 ゲームのクロエは暗い雰囲気をまとった少し怖い系のキャラで、俺も初見は〝敵キャラ〟だと誤認するほどだった。ただ実際は〝重度の人間不信〟で、信じた者以外はたとえ相手が善人であろうと心を開かないというキャラ設定だった。

「そういえば、クロエのエピソードに今日の出来事に似たイベントがあったな……もしかしなくても、あのクロエが今日会ったクロエなのか?」

 いまだに信じ切れない俺は、頭の中を整理し切れず一時間近く悩み続けた。

 結果的にゲームのクロエと同一人物と決定付けることで、今回は納得することにした。

「自分でストーリーから脱却しようとしているのに、なんで重要キャラの一人の〝クロエ〟と仲間になってるんだよ」

 ため息をつきながら俺はそうつぶやくともう考えるのが嫌になり、目を背けるように眠りについた。


 翌日、約束の時間に遅れないように少し早めに宿を出た。

「あっ、ジン君。おはよう!」

「って、なんでもういるんだよ……」

 約束の時間まで、まだ三十分ほどあるはずだ。

 なのに待ち合わせ場所にはすでにクロエがいた。

「えへへ、ジン君と初めての依頼で楽しみだな~って思ってたら、朝早くに目が覚めちゃったの」

「だから早く来ていたのか……俺が早めに来なかったら、あと三十分待つことになってたんだぞ」

 笑っているクロエに、俺はため息まじりにそう言った。

 それから俺達は王都に外に出て、依頼の場所に向かった。

 今回の依頼は討伐系の依頼で、できるだけれいな状態で素材を持ち帰ってほしいと言われている。

「クロエ、近くにいるか?」

「ちょっと待ってね……」

 ゲームのクロエだとすればジン以上に索敵能力が高いはずなので、俺は魔物の発見をクロエに任せることにした。

 その後、少ししてクロエから「向こうにいる」と報告を受け、戦闘態勢をとった状態で移動を始めた。

「──!」

 移動した場所には依頼書の魔物。オークの集団が五体で食事をしていて、全く警戒をしていなかった。警戒してないなら簡単だ。そう思った俺は、その場から魔法を飛ばして魔物の首を目掛けて魔法を放った。

 強すぎる魔法だと素材に傷がつくと思い、オークの首が飛ぶ程度の魔力で魔法を使った。

「んっ? 一体、俺の魔法に耐えたやつがいるな」

「……ジン君、あれもしかしたら上位種の〝ハイオーク〟かもしれない」

「上位種の奴か、だとすればさっきの魔法は効かないな」

「──ッ!」

 仲間を殺されたハイオークは俺とクロエの姿を見つけると、たけびを上げこちらに向かって走ってきた。

「ジン君! あのハイオーク、速いよ!」

「このままだと魔法戦は厳しそうだな……クロエ。あいつの相手を少し任せても大丈夫か?」

「やってみる」

 クロエは俺の指示に対してそう返事をすると、サッと急展開して武器を構えた。

 ハイオークはそんなクロエを目に入れると、「ブモォォ」と叫びながら、クロエに突進した。

「ハァッ!」

 突進してきたハイオークに対し、クロエは一瞬で動きを読み、その攻撃を回避した。

 聞いていたとおり身のこなしが抜群に良く、ハイオークでさえクロエの動きは読めていないようだった。

 そして、自分を見失ったハイオークの背にクロエは攻撃を仕掛けた。

「ッ! か、硬い!」

 しかし、ハイオークの皮膚はかなり硬くクロエの持っていた剣では傷一つ付かなかった。

「クロエ、危ないッ!」

 ハイオークは自分に攻撃を仕掛けたクロエをつかもうとしたが、クロエに気を取られているその間に俺は【風魔法】を限界までみ、ハイオークに向かって放った。

 その攻撃はハイオークに直撃して、間一髪クロエを助けることができた。

「ブ、ブモォォォ」

 ハイオークは俺の攻撃を受けると、悲鳴のような声を上げて近くの巨木まで吹き飛ばされた。

 巨木にぶつかったハイオークは荒い息を立てているが、ほぼ体力もなくなっているようだ。

「ハイオークとはいえ、案外あっないな」

 俺は巨木にぶつかり今にも死にそうなハイオークを見てそう口にした。

 次の瞬間、ハイオークはいきなり立ち上がると「ブモォォォ」と叫びながら、俺に向かって突進してきた。

「ジン君、危ない!」

 ハイオークが起きあがったことにクロエが驚き、俺を心配する声を上げた。

 俺はそんなクロエに「大丈夫だ」と口にして、突進してきたハイオークの攻撃をけ、魔力で強化した剣で首を斬り落とした。

 首を斬り落とされたハイオークは首と胴体が分かれ、絶命した。

 やっぱり〝ジン〟ってキャラはチートだな。今の戦闘で明らかにそれを感じた。

 この世界に転生してから俺は、ほとんど〝魔法〟しか使っていなかった。

 確かに【剣術:3】のスキルはあるが、実際に剣術を習ったりはしていない。

 それなのに俺は、ただ魔力で強化された剣でハイオークを斬り倒すことができた。

「ジ、ジン君!」

 ハイオークを倒したところを見たクロエは、遠く離れた場所から俺のもとに走ってきた。

「魔法で戦うって言ったのに、剣で戦い始めたから驚いたよ!」

「ごめんごめん、ちょっと剣で戦ってみたいと思ってさ」

 実際に俺は今の戦闘中に、ハイオークを魔法で吹き飛ばした時点でそう思い剣を使って戦った。

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