第33話
エリア17に配属された俺たちはクリスタルドラゴンや魔晶ドラゴンを狩りながら、ダイヤモンドドラゴンの出現を待った──が、以前おっさんから聞いていた通り簡単に遭遇できるものではなかった。ドラゴンキャニオンの最深部でさえ、その存在に巡り合うことは容易ではなく月日だけが流れていた。
やはりダイヤモンドドラゴンは伝説上の魔獣なのか?
俺は半ば諦めにも似た気持ちで、セイライさんの野望に仕方なく付き合っていた。
──ただ思わぬ収穫もあった。
それは魔水晶。エリア17には魔晶ドラゴンが頻繁に出現した。
ルビーは火属性の魔力を生み出し、サファイアは水属性の魔力を生み出す。
それらを手に入れた俺は一つのアイデアが浮かぶ。──これらを使えば風呂が作れる。
この世界は魔力が発展している一方で、文明レベルは低い。化学技術は前世での中世ヨーロッパ程度しかない。
風属性のエメラルドや光属性のアメジストを使えば扇風機や照明なんかも作れる。直接魔力を消費しなくても生活に便利な魔道具が作れるのだ。
王宮にはそれらしき魔道具が存在していた。魔水晶はかなり高額なため王族や貴族、一部の人間にしか手に入れることのできない代物だった。それを俺たちはこの場所でいとも簡単に入手することができたのだった。
魔道具のDIY〖do-it-yourself〗。なんでも自分で作る。
任務が完了したらマイフォームに大浴場を作ろう。そしてカリバーとエクスに身体を洗ってもらう。あわあわの二人にサンドイッチされて……、夢のハーレム生活。ムフフフとスケベな妄想が頭の中を駆け巡った。
「ご、ご主人様ぁ〜! カリバー凄いものを見つけてしまいましたっ!」
俺がスケベな夢想に
そう言えば、最深部を探索してくると一人で出掛けて行ってたな……。
「ダ、ダイヤモンドドラゴンの棲家ですっ!」
な、なんだって⁉ ダイヤモンドドラゴンの棲家? カリバーの声に思わずうろたえる。
「はいっ! こぉーんな大っきなダイヤモンドの家がありましたっ!」
カリバーが飛び跳ねて、その大きさを説明してくれるが、今いちピンとこない。
──というより、全然伝わってこない。
「こぉーなってて、そんでもって、こぉーでっ! こーで、こーで、こぉーでっ!」
ぴょんぴょんとジャンプしてブンブンと両手を振り回しているだけだった。
「……ほ、ほんとなんですってばぁ〜〜! 信じてくださいよぉ〜〜お!」
理解のできない俺たちを前に疲れ果てたカリバーは半べそをかいて座り込んでしまった。
俺とセイライさんが半信半疑でカリバーに従うと、たしかにそこには巨大なダイヤモンドの建造物が存在していた。
なんだこれ?
防壁? 砦? めちゃくちゃデカいじゃないか⁉
「ねっ! ねっ! 言ったでしょっ!」
カリバーが腰に手をあて勝ち誇るように鼻の穴を広げた。
「……これはすべてダイヤモンドですね」
渓谷を間仕切るダイヤモンドの壁に手を這わせたセイライさんが目を見開く。
煌めく表面は鏡の如く俺たちの姿を映し出し、反射した光が俺たちの瞳を輝かせた。
「ぶっ壊して売れば100億ドルエン以上するんじゃないですか?」
ダイヤモンドドラゴンを討伐するよりもそっちの方が手取り早い。俺の問いにセイライさんが首を振った。
「世界で最も硬いダイヤモンドです。これを壊すことは魔力を使用したとしても不可能でしょう」
「セイライさんでも無理なんですか?」
「……残念ですが」
入り口などは見当たらない。巨大な壁だ。俺たちは聳え立つダイヤモンドの防壁に指をくわえて唖然とするだけだった。
しかしこれは一体? 人工物なのか? それともカリバーが言うようにダイヤモンドドラゴンの棲家なのか?
「これだけのものです。ギルドが把握していないとは思えません。何かありそうですね……」
「ぎゃあーー、変な顔っ! ぷっぷぷぷぷっ! ご主人様の顔も歪んでますっ! ぷぎゃあーー!」
難しい顔つきで考え込むセイライさんの傍らで、カリバーがダイヤモンドに映り込んだ俺たちの姿をみて転げ回っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます