第二章 プロローグ「囚われの境遇」

フェルロン王国の隣国、プライザー王国の王都プラド。

王国内において隣国であるカルドニア帝国との交易でもたらされた富が集中する都市だ。


富が集まれば人が集まり、人が集まれば都市は栄える。そして栄えていけば、自ずと街に光と影が生まれるのもまた摂理。


王都プラドの東、ヴィッカードと呼ばれる街区はまさに影そのものだった。

元々貧民街だった地区を中心に富に群がる裏稼業の物達が集まり、酒場や賭博場、さらには娼館や奴隷市で新たな莫大な富を築き上げる欲望渦巻く闇の街。それがヴィッカードであった。

そんなヴィッカードの二十五番街。ここは色街となっており、多くの娼館が立ち並んでいる。

店は客が娼婦を品定め出来るよう、女達は格子の嵌め込まれた店先に商品として陳列され、生き残る為に皆一様に扇情的な姿で男達に媚びを売る…二十五番街とはヴィッカードの中でも最も堕落したエリアであった。


そんな色街の一角に、一際人だかりの出来た店があった。

「いい女だな」

「何処の出の女だろうな…珍しい顔付きだ」

男達の好奇の視線。

その真ん中で呼び込みの男が声を上げる。

「お客さん方、この女はウチの看板娘‼︎遥か遠い異郷からやってきた物珍しい奴隷ですよ‼︎」

「ほう。その不思議な服は異国のものって事かい?」

「ええ、お目が高い。こいつはウチに売られた時に着ていたもんなんですが、物珍しいのでその姿のまま売っております。なかなか評判なんですよ?」

呼び込みの手が“商品”へと向けられる。

奴隷の証である首輪とそこから延びる鎖で店先に繋がれた美少女。

栗色をしたロングヘアのハーフアップ、何処か空虚さを宿した碧眼をもつ彼女。その格好はセーラー服とルーズソックスという日本の女子高生の出立ちだった。

「うむ、なかなか唆る女だな」

「でしょう?身体は上物。愛想こそありませんが、そこは手篭めにする感じが良いと大人気です」

「よし、買った‼︎」

「ありがとうございます」

一人の男が手を挙げると、呼び込みは男を店に案内して行く。

そのやり取りを格子越しに見ていた少女は小さく溜息を吐いた。

「…あの男が今晩の相手…か…」

見るからにガサツそうな男だった。きっと行為も乱暴なのだろうと憂鬱になる。

少女はその空虚な瞳で空を見上げる。

鳥籠の中の鳥と言えば聞こえが良い。だが彼女の置かれた立場は牢獄に繋がれた奴隷だ。

生活は寝床、食事、さらには入浴と至れり尽くせり。だが所詮その全ては“商品”としての価値を維持するため。自由な時間など何一つ無く、一日の大半は客との情事に費やす日々。

「リサリサ‼︎お客だ‼︎」

奴隷に堕とされた少女、リサリサは呼び込みの男に鎖を引かれ店先を後にする。

「…地獄の終わりって来るのかな…アカリ」

彼女は寂しげに今は居ない仲間の名を呟くのだった。

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