第一章 34 「アカリ悩む」

ポルト村は純潔の薔薇団が所有していた廃砦に最も近いその小さな村だ。

その中心にある小さな宿屋「ミケル亭」の女将は、食堂の後片付けをしていた。


今日の宿泊客は日暮の時間にやって来た冒険者二人組だけ。その彼らの食事も済み、今日の仕事も終わりという時間だった。

「よし、片付けも終わったね!」

女将が食堂の明かりを消そうかと思ったその時、宿の入口を叩く音が聞こえてきた。

「?こんな時間に誰だい…はいはい!今開けるよ!」

女将がかんぬき錠を開けて扉を開くと、そこには見知った美少女、アカリが立っていた。

「あれま、馬をお預けいただいたお嬢様じゃないですか」

「夜分にごめんね、女将さん」

女将は一瞬、馬を引き取りに来たのかと思ったが、彼女の背後に控えているリアに気付き、怪訝な顔をした。

リアはショーツこそ身につけているものの、それ以外は黒いダウンジャケットを肩にかけているだけという出立ちだ。

「そちらのエルフのお嬢さんはどうしたんですかい⁉︎ほとんど裸だし、それに…なんて事だい…‼︎」

リアの様子から何となく何があったかを察した女将は絶句してしまう。

「ごめん、俺の連れなんだけど、ちょっと彼女を手当して休ませたいんだ」

「ええ勿論いいですが…まず浴をせにゃいけませんよ‼︎身体を綺麗にしないと病気になっちまう‼︎」

「え、お風呂あるの…?」

何故か物欲しげな表情を見せるアカリ。

「うちはそれが売りですかんね。そんな事より、さあお嬢さんこっちだよ‼︎」

「す、すみません…アカリいいのかな…?」

「うん、女将さんの好意に甘えとこ。戻ったら手当な」

「うん、行ってくるね」



女将に連れられて浴室に向かうリアを見送り、アカリは適当に食堂の椅子に腰掛ける。

「だあああ…疲れたわあ…」

脚を投げ出し、天を仰ぐ。

この世界に転生してから、始まりの村、ルドルフの助太刀と何人もの人間を殺害してきたが、それはあくまで戦闘行為の結果とも言えた。

だが今回は違う。

アカリは明確な殺意を持ってユージンを射殺している。

その行為をこの世界での法や倫理観で定義するなら、きっと正義の一言で片付けられるのだろう。それだけあの男は悪であったし、アカリ自身も許せなかった。

だがしかし、その倫理観に馴染むにはまだ日が浅いのも事実だった。


- …まあ、グダグダと良い子ちゃんぶってちゃ、守れるものも守れない…か。


「はぁあ…なんにしろリアが無事でよかった…」

正直なところ、怒りに身を任せて勢いで行動した感は否めない。

だが、それだけリアを大切に想う自分がいる事に気付く。

「はぁ…まあ俺、元男だし好きになってもしょうがないかぁ…」

リア可愛いし、と自嘲気味に笑う。

だが彼女を大切に思えば思うほど、一緒に行動していて良いのかというのも悩みだ。

アカリにとって目下の目標はGCWの仲間達を探す事。このハードモードな異世界で非戦闘員を連れて旅をするのも苦労するだろう。

そもそも今回の一件で、リアが自分と一緒に旅を続けてくれるのかも分らない。

「う〜ん…」

悶々とした気持ちを抱え唸っていると、女将さんが神妙な面持ちで食堂に戻って来た。

「お嬢様、あの子に何があったかは聞かないけど、厄介事の匂いしかしないんだが大丈夫なんかい?」

リアの傷を見たのだろう。心配半分、何かに巻き込まれるんじゃないかの不安半分ってところか。

「大丈夫。その厄介事を片付けた帰りなんだ。リアが戻ったら街に帰るし、安心してよ」

「いやいいさ。それより部屋は空いているし、泊まっていったらどうだい?」

「うーん」

「あの子、一回しっかり休んだ方がいいですよ。それに、夜道は危ないですしね!なーに、貰った馬の預かり代から代金引いてもまだ多いんだ、安心してくださいな」

そう笑顔で言ってくれる女将に、優しい人だとアカリは頭を下げた。

「なら一晩、ご厚意に甘えさせてもらうよ。ありがとう」

「いいってことですよ!簡単にはなっちまうけど、お夕飯も準備しますさ」

そう言って女将は台所へと姿を消した。



〜〜〜〜〜〜〜〜


しょーもない異世界でも温かみはあるんです。


いつも読んで頂きありがとうございます。

第一章もいよいよ終わりが近づいてまいりました。

目下の悩みはどうしたらもっと多くの方に読んでもらえるか…!

素人悩みでございます。


最後までお付き合い頂けると幸いです!




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