第一章 24 「事後」

ダンドルン城外に建つとある一軒家があった。

石造の立派なその家の玄関上には赤い薔薇の紋章が掲げられている。あのユージン・ヤクトのハーレムパーティー、『純潔に薔薇団』のパーティーハウスだ。


その地下にある隠し部屋でヤクトは激しい憎悪を募らせていた。

「っくそ‼︎あの糞女、調子に乗りやがって‼︎英雄のこの俺様の誘いを断った挙句に…あんな…くそおおお‼︎」

「あ‼︎ああ、ユージンさ、まぁ⁉︎く、苦し…いです‼︎」

「煩いミオ‼︎︎便器の分際で黙ってろ‼︎」

ヤクトの首を絞める激しい責めに苦悶の表情を浮かべ犯されているミオと呼ばれた女性は、アカリに非難の声を上げた彼のパーティーメンバーだ。

「あの女ブッ殺してやるぞ‼︎英雄に逆らった事を後悔させてやる‼︎」

「っひぐ⁉︎…かはっ‼︎」

ヤクトは更にミオの首を締め付け、激しく腰を打ち付ける。

地下室には他のパーティーメンバーの女達も居た。が、二人は天井から縄で吊り下げられ鞭で打たれた痛々しい姿のまま、後の一人は犯され床に捨てられたまま全員が気を失っている。

アカリに手痛く返り討ちにあったヤクトは、拠点に帰ってからパーティーメンバーを痛め付けて憂さ晴らしをしていたのだ。

ヤクトは表向きは甘いマスクのイケメン冒険者として女性に大人気、実力もあって数々の高難易度依頼をこなす英雄と持て囃されている。だがその実態は、気に入った女性を性奴隷にして痛ぶる屑男であった。

「くそっくそっ‼︎くそおお‼︎」

「けはっ…か…⁉︎」

ミオは酸欠で意識を失い床に落ちるようにして倒れた。

「ふう…もうバテやがって…使えねー便器だ」

ヤクトは倒れているミオの上に腰掛けてパイプ煙草に火を付ける。

「しかし…ムカつくがとんでもないイイ女達だったな」

ヤクトはアカリとリアの姿を思い出してニヤける。

「おとなしそうな女の方は俺の新しい奴隷にしてやろう。でもあのクソ生意気な女は許さねぇ…」

ヤクトは怒りに身を任せて煙草をミオの尻に押し付けた。気を失ったままのミオが煙草の熱さにビクンッと痙攣した。

「奴隷なんかじゃ生易しい…まずは喉を潰して二度と俺に生意気な事を言えなくしてやる‼︎あとは…そうだ‼︎人間をやめさせて家畜にしてやる‼︎顔と身体だけは良いんだ‼︎手脚を切って短くして…グヒヒヒ‼︎」

などと悍ましい妄想に耽るヤクトは、気を失ったままのミオを再び犯し始めるのだった。




窓から挿す朝日に微睡む。鳥の囀りが心地よい朝だ。

アカリはぼーっと天蓋を見つめる。

「朝かぁ…」

ゆっくり起き上がるとそこはベットの上だ。

酔の残っていないスッキリとした思考で身体を見ると上半身はブラジャーのみ、下はスカートこそ履いているが下着は無いという半裸である。

「ん゛⁉︎」

酔っても記憶を失わないというのも酷。走馬灯の様に思い出す昨晩の自分の痴態にわなわなと震え、顔は一気に紅潮する。

「やっちまったあああああ⁉︎」

頭を抱えて絶句する。酒の力とは怖いものである。

曲がりなりにも大貴族であるルドルフを変態呼ばわりでSMプレイである。処刑の一言が脳裏を過ぎる。

「おお、目覚めたか」

「っひゃい⁉︎」

その声がした方向を見ると、入浴を済ませたのかバスタオルを肩にかけた半裸のルドルフが居た。

ヤバイヤバイと冷や汗だらだらなアカリに、彼は爽やかな笑顔を見せた。

「おはよう。昨日は情熱的だったぞ!」

「あ…あは、あは…は…」

盛大に引き攣った表情で笑う。

「どうした?」

「いやぁ…チョーシニノリスギタナーって…」

「はっはは!何を言っている。俺の人生で一番幸せな一時だったぞ?ありがとう」

とりあえず処刑はされないらしい。むしろ本心から好評だった様で、感謝までされる始末だ。

「すまないな。良く寝ていたから先に湯浴みをしてしまった」

ルドルフはそう言ってアカリに近付くと、彼女の身体に手を回し持ち上げる。

「⁉︎」

突然のお姫様抱っこにアカリは何が何やら混乱する。

「ちょっ⁉︎ルドルフ様⁉︎」

「なに、湯浴みをせねば部屋に戻れまい。おい、誰か居らぬか⁉︎」

ルドルフが呼びかけると直ぐに侍女が入室してきた。

「失礼致します」

「アカリの湯浴みを手伝ってやってくれ。俺はこの後、公務があるのでな」

「承知しました」

恭しく一礼する侍女にアカリはちょっと待ってと騒ぐ。

「いや、自分でやるから‼︎ってかルドルフ様も下ろして⁉︎」

「はっはっは‼︎気にするな‼︎」

こうして強制的にバスルームに連行されたアカリ。

その後も身体を洗おうとする侍女に自分でやると抵抗するものの、微笑む侍女に「昨晩はお楽しみでございましたのでしょ?御遠慮ばさらず」と言われて撃沈し、全身を丁寧に洗われてしまったのだった。




さて、全身スッキリさせられて部屋に戻ったアカリを待っていたのは、リアの凍てついた視線だった。

「…朝帰り、ね?」

「そのぉ…飲み過ぎて寝ちゃったみたいでして…」

まるで浮気がバレた男の気分である。

「ふぅん?」

「…なーんもなかったよ?」

「本当?」

「う、うん」

実際は公爵を脚責めしたり罵倒したりと、SMプレイに興じていたなどと言える訳がない。


ー すまん、リア!これもルドルフ様の名誉の為だ‼︎


本番はしてないし、などとアカリは心の中で言い訳する。

そんなアカリにリアはフッと笑った。

「ま、いいけど。…ちょっと不安だったのよ」

「不安?」

「うん。アカリがね、公爵様の妾になったりして、この旅が終わっちゃうんじゃないかって」

どうやら思っていた以上にリアは自分との旅を良く思ってくれていた様で、それはアカリにとって予想外の事だった。

「リア…」

なんだかんだ二人での旅は楽しいと自分も感じていたが、リアも同じ気持ちでいてくれた事にアカリの心は温まる。

アカリはリアの両手を握った。

「大丈夫、まだまだ旅は始まったばっかじゃん?まだ、仲間の手掛かりすら無いし、終わらないよ」

「ええ…そうよね」

歯に噛むリアの頭を撫でる。

「ちょ、ちょっと…むぅ」

口では文句を言いつつも満更でもなさげなリア。

「…それより、この後はどうするの?」

「今日は商人達に聞き込みだね。あの侍女の人に聞いたんだけど、街の南にあるプランドラってとこに商業組合の支部があるらしい」

「商業組合か。確かにそこなら商人達も集まるし、いいかもね」

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