第一章 11 「お宿事情」

さて、途中で道に迷いつつも集合先である西広場に着いたアカリを待っていたのは、膨れ面のリアであった。


「遅いわよ!」

「ごめんごめん…ちょっと寄り道してた」

「もう‼︎…何かあったかもって心配したじゃない」

心配してくれたのかぁ、と嬉しく思うアカリ。

リアと出逢ってまだ四日だが、たった一人で異世界に放り出されたアカリにとって唯一の心許せる相手だ。

コルシカの件もあり、少々ナイーブになっていたアカリは、彼女の事は大切にしようと改めて思った。

「心配してくれてありがと」

という訳で、何気なく感謝を伝えてみる。

「⁉︎…べ、別にアカリは強いから大丈夫だと思ったけど…またトラブル起こしてるんじゃないかって思っただけよ‼︎」

「⁉︎」


- 良いツンデレをありがとう


凄く生暖かい視線でリアに微笑む。

そう、アカリはツンデレ属性が大好きなのである。

「むー…何か心配して損した気持ちなんですけどー…」

「あはは」

「それで、どこ行ってたのよ?」

そういえば、この街とも繋がりのあるリアは彼の事を知っているのだろうかと思い至る。

「それなんだけど、リアはコルシカって司祭を知っている?」

「ダンドリー司祭?知ってるも何も、この地域の村々を巡回して頂いている司祭様よ」

どうやら思いもよらぬ繋がりがあったようだ。

「どんな人?」

「んー、皆んな信頼してたかな。教会の人って堅苦しい人が多いんだけど、ダンドリー様は優しいって言うのかな。巡回に来た時も農作業手伝ったり、他の司祭様とは色々違ってたわ」

コルシカは良き聖職者という評価の様だ。

「前に村の近くにゴブリンの大きな巣が出来て困った時も、教会の費用持ちで冒険者を雇って駆けつけてくれたし、立派な方なのは間違いないわね」

「成る程ね」

リアの話からは何か裏がある人物には思えず、コルシカは信頼に足る人物なのかもしれない。確かに先程話した時も、善人を偽っている様には思えなかったのは確かだ。

考え込むアカリにリアが心配そうに声を掛ける。

「アカリ、何かあったの?」

「実はさっき…」

アカリは聖堂であった出来事を話した。


「…ダンドリー様がそんな事を」

「正直、分かんないんだよね。あの司祭が何を考えてるのか」

何か欲があっての言動ならまだしも、要求、と言うよりお願いされたのがい誰なのかも分からない女性の話を聞いて欲しいとだけ。しかもそれが不確定らしきニュアンスもあった。

「そんなんでどうしろとっていうね」

「んー…確かに謎だけど。ダンドリー様の事は悪く見なくて良いんじゃないかな?実際、アカリが知りたい事を教えてくれたんでしょ?」

「まあそりゃそうだけど」

「アカリが不安になる気持ちは解るけど、今必要なのは味方なんじゃないかしら。だから…何て言うか、味方の可能性が高い人が増えるのは良い事だと思うといいわよ」

リアは笑顔でそう言った。

どうやら、リアなりに励ましてくれている様だ。

「…胸キュン」

「?」

「…リアの言う通りだなって」

そう、疑えば疑う程に思考はネガティヴになっていく。それは精神衛生上良くないし、誤った判断をしかねない。

「よしっ、リア‼︎宿とってご飯にしよう‼︎」

「ええ、そうね」

二人は宿を探しに歩き出す。


「宿はいくつかあるけど、何か要望ある?」

「ん〜…とりあえずお風呂があって部屋が綺麗な宿がいいな」

「お風呂って…貴族様とかが泊まるような宿じゃないと。そんな高級宿はこの街には無いわよ」

「⁉︎」

異世界あるあるな問題に驚愕し、堪らずリアに詰め寄る。

「お風呂無いの⁉︎」

「よ、浴槽のある宿なんて滅多に無いわよ」

「なん…だとっ…⁉︎」

打ち拉がれ、地面に膝をつき涙を浮かべるアカリに、リアはオロオロと慌ててしまう。

「えっえっ⁉︎そ、そんなに⁉︎」

「もう川の水は嫌…あったかいお風呂には入りたいんだよおお」

おいおいと泣き風呂に入りたいと叫ぶ美少女。あまりの光景に通行人が何だ何だと集まりだす。

「落ち着いてアカリ‼︎宿にお風呂が無くても、ちょっと高いけど公衆浴場に行けばいいんだし…‼︎」

「なぬっ⁉︎」

ガバッと起き上がり血走った目を見せるアカリに流石のリアも引き気味である。

「何処⁉︎」

「だから落ち着きなさいよ‼︎宿取ったら連れて行ってあげるから‼︎」

「ありがとおおおリアぁ‼︎」

感激のあまり我を忘れてリアに抱き付く。

「…も〜、恥ずかしいじゃない」

とは言いながら、抱き付かれてちょっぴり嬉しそうなリアであった。



さて、風呂付きは諦めても部屋が綺麗な宿という条件は変わらず、二人はとある宿屋の前に立っていた。

宿は外観は小綺麗ば三階建て、看板にはベットの絵柄と共に『兎の寝床亭』と書かれている。


「…ってか、普通に読めたわ」

書かれているのは日本語とは全く異なる言語だし、そもそもローマ字でもない。しかし、どういう仕組みか分からないが、アカリにはその文字の意味が理解できたのだ。

謎である。


「この宿は女性の宿泊大丈夫みたいだし、ここにする?」

気になる事を言うリア。どうやらこの世界の宿には女性お断りな宿もあるようだ。

「女性ダメな宿もあるん?」

「そりゃあるわよ。冒険者相手に商売する安宿なんかは女性お断りが大半ね。理由は…ほら、男の冒険者とか獣みたいなもんだから…事件になるのよ」

「…あぁ」

女性となった今のアカリには、とても恐ろしい話だった。要はトラブル防止で、女性を入れないという判断だろう。

「でも、女性の冒険者もいるんでしょ?」

「いるけど、大抵はパーティー組んでるから稼ぎが良いし、安宿みたいなとこに泊まらないのよ」

女性は女性で身を守るようにしている様だ。

「女性泊まれる宿とか、浴場には看板にあの赤いマークが入ってるから覚えておいて」

それは赤い女性っぽいシルエットのマークであった。

「女子トイレマーク…」

ピクトグラムはどの世界でも同じデザインに行き着くということだろうか。その見慣れたマークに不思議な気持ちになる。



「いらっしゃい」

宿屋に入ると恰幅の良い女性が挨拶をしてきた。この宿の主人だろうか。

「こんにちは。一泊したいんですけど、空いてますか?」

「あらあら、また凄い別嬪さん達だねぇ!そっちの子はお貴族様ですかい?」

アカリに視線を向ける女将さん。

やはり格好なのか、アカリは貴族と思えるらしい。

「違うよ。まあ気を使わなくて良い」

アカリの回答を気にした様子もなく、女将は笑った。

「すまないね、詮索はしないさ!二名様だね。空いているから泊まっていきな。うちは部屋に鍵も掛かるし、別嬪さんでも安心さね!」

「ありがとうございます。おいくらですか?」

「朝食付きで一部屋、銅貨四十枚さね」

リアが言われたお金を女将に渡す。

「夕飯はどうする?」

「夕食は浴場行くついでに食べて戻るから結構です」

「あいよ!」


アカリはリアに全てを任せていた為に、女将に指定された部屋に入って驚愕してしまう。

「銅貨四十枚の部屋ってやっぱり立派ね」

感心するリア。

確かに立派だった。シンプルな木材の内装だが、調度品は綺麗に整えてある。二人分がゆっくり休めるソファーとテーブル。そして大きなサイズのベットには枕が二つ…。

「な…んだと」

そう、部屋にはベットが一つしか無いのだ。

むしろ部屋の前で二人で一つの部屋という事実に気付いた事を遥かに上回る衝撃である。

対外的には女性二人なので問題は無いだろうが、アカリの魂的には問題大有りである。

「…そういや、ベット一つだけどいいん?」

気になったけど“私は”気にしていないよ〜な程でさり気なく聞く作戦をとるアカリ。

「うん。少しでも安くしたかったし、女の子同士だしいっかなって。まあ?…ちょっと恥ずかしいけどね」


トゥンク


「そーだねー」


- 照れ笑いが眩しいぜ


今はお風呂に入ってご飯を食べて煩悩を鎮めよう。そう思い、アカリは考えるのをやめて荷物を下ろす。

「荷物置いて行くけど、公衆浴場ってシャンプーとか置いてある?」

「シャンプー?」

「あー、頭洗う石鹸みたいなやつ」

「ああ、洗髪なら銅貨五枚でやってくれたはずよ」

やってくれるとは、どういう事だろうか。

「仕組みが解らん」

「行ったら私が案内してあげるわよ」

リアが任せてと胸を叩く。


こうして二人は「いざ異世界公衆浴場!」などと楽しげに笑うアカリを先頭に宿を出発した。

この時、久々のお風呂だとアカリは完全に舞い上がっていたのだ。ある重大な事実に気付かないままに。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


シアは作者の趣味でそこそこツンデレ要素ありのエロフさんです。

ただ基本犬系ヒロインで恥ずかしさを誤魔化そうとツンデレになるタイプです。

そーゆーの可愛いじゃないですか⁉︎


皆さんのお陰で少しづつ順位が上がって嬉しい作者です。

今後とも、応援よろしくお願いします‼︎

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