第一章 09 「真始まりの街」
「おお、城壁とか異世界ファンタジーっぽい街‼︎始まりの村があんな事になってたから、実質ここが始まりの街だな」
ゴブリントラブルの後も何度かの魔獣遭遇はあれど、二日目の夕方には無事にドードスの街に到着した二人。
入口の城壁に感動するアカリの様子にシアはクスリと笑う。
「城壁って珍しいの?」
「うん、俺の居た世界では城壁なんてほとんど無いからね」
「へぇ、それでどうやって街を守るのよ?」
「そもそも魔獣がいないし、戦争になったら城壁なんてあっても意味が無いくらい武器が発展してる世界」
「…それはそれで怖い世界ね」
それを聞いたリアは微妙な表情を浮かべるのだった。
入門は特に手続きのようなものは無く、リアが守衛に村の事を話すと直ぐに街に入ることが許された。
「へえ、凄く人がいるんだね」
途中で経由したヤーソン村にも人が居たが、さすがは城壁を持つ規模の街だ。馬の様な生き物に荷車を牽かせた行商人らしき者や武器を携えた冒険者らしき一行など、多くの人々が行き交っていた。
「ドードスは街道の拠点になっている街よ。代官様も居らっしゃって、この地域の行政はこの街が担っているわ」
「成る程ね」
アカリは少し嬉しそうに周囲を見回す。何せこの世界で初めての活気ある営みだ。
「とりあえず私は村の事を伝えに代官様の処へいくけど、アカリはどうする?」
「そうだな、俺は遠慮しておく。募る話もあるだろうし」
「分かったわ。じゃあ戻ったら宿を取ろっか。街の西広場で落ち合いましょう」
リアと別れたアカリは、街を適当に見て回る事にした。
建ち並ぶ家々もブエダ村のそれに比べても大きく、ほとんどが石造りである。中には店だろうか、絵柄付きの看板が出された家屋が多く見受けられる。
-あっちは八百屋か。で、こっちは…武器屋かな
看板の絵柄はその店が何を売っているのかを表している様で、異世界人のアカリでも直ぐに理解できるものだった。
− 文字で書かれた看板が全く無いのは、識字率の問題かもな
ふと、アカリはある事に気付く。
- …俺、何でこの世界の言葉話せてるんだ?
すごく自然にリアや盗賊達と会話していて忘れていたが、考えてみたら謎の現象である。この世界の言葉が日本語である、なんて事はあり得ないだろう。
とすれば何らかの不思議現象が起きているのか?言葉が分かるのなら文字も読めるのか?
現状は分からない事だらけであった。
− 色々、知らないとだね…
考え事をしながら歩いているうちに、アカリは街の中心らしき広場に出た。
その中心にはどの建物より立派な建物があった。
「これは…教会かな?」
「ええ。その通りです、旅の方」
三階建て相当の高さの尖塔を持つ石造りの建物を見上げて独りごちたアカリに、背後から答える声があった。振り向くとそこには白いローブ姿の男性が立っている。ローブにはリアが村人を弔った際に用意した十字架に様な形状と同じ刺繍が施されている。
「あんたは?」
「失礼。私はここドードス教会で司祭をさせて頂いております、コルシカ・ダンドリーと申します」
成る程、このローブがこの世界の聖職者の証なのだろう。アカリは若干警戒しながらも、穏便に済ませようと「アカリだよ」と名乗り会釈をする。
「ども、司祭サマ。それで、俺に何か用?」
「いえ、用という訳ではないのですが。教会に戻って来ましたら、何やら周囲から注目を集めている方が教会の前に立たれておりましたので…」
「ん?」
- …注目?
言われて気付いたが確かに何人もの人々が、広場の周辺から遠巻きにこちらの様子を伺っていた。それこそ商人風の人物もいれば冒険者らしい男達もだ。
そしてどういう訳か、その大半が妙にいやらしい目付きである。
「まあ仕方がありません。男性というのは欲望に忠実ですからね。貴方のような美しく若い方が、そのような扇情的な格好をなされていては注目を集めるのも無理ない」
コルシカと名乗った司祭が半ば呆れたように言う。
「…アハハハ」
女子高生の制服は扇情的なのかと疑問に思ったが、そもそもそれが好きでアバターを作ったアカリである。
「可愛いって罪だね…」
「貴方、面白い方ですね」
コルシカは右手を口に当てて小さく笑う。
「よかったら彼等が欲に負ける前に聖堂へどうぞ。しばらく篭っていれば人も散るでしょう」
どうやらコルシカに他意は無く、純粋に女性であるアカリを気遣っての接触だったようだ。
アカリは厚意に甘んじ、教会に足を踏み入れる事にした。
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