第一章 07 「この世界の事」
アカリは自分がこの世界の出身でない事、元の世界で原因不明の事件が起きて、気付いたらこの世界に放り出されていた事をリアに掻い摘んで話した。
さすがにこの世界の文明レベルから、フルダイブ型仮想現実からの転生や、自分が元は男というのは触れなかったが、それ位は仕方がないと割り切る。
意外な事にリアはアカリが話す間、驚いた表情は見せつつも真剣に聴いてくれている。
「…とまあ、眉唾物だとは自分でも思うけど」
一通り話した後、アカリは少し寂しげに笑う。そんなアカリにリアは首を横に振り微笑んだ。
「…正直、私には突拍子もない話だからよく分からない。でも、貴方が見た事ない武器で戦う姿とか見てるし、私を助けてくれたアカリさんが困っている事は本当なんだろうって思えるわ」
リアは正直に思った事をアカリに伝える。
「それと、多分だけど異世界があるって事は本当だと思う」
「え?」
「もう百年前に、異世界から来た勇者の話があるのよ」
「マジ?」
アカリは思いもよらない情報に驚愕する。
「ええ。遠い別の大陸にホランド王国って国があるんだけど、そこが国の危機に“強き者”を召喚したっていう話よ」
百年前の別の大陸の話、その点が信憑性を下げている。
「それって御伽噺とかじゃないん?」
「んーん、実話って聞いてるわ。父様と母様はエルフだから、百年前にも生きていたし、よく古い歴史を話してくれたもの」
「なるほど…」
やはりエルフは長命種らしい。
とはいえ、リアの両親が亡くなっている以上、詳しい話は分からずじまいだが、記憶していた方が良い情報と判断する。
これが事実ならこの世界には同郷が居るかもしれないのだ。
- なら、あいつらもこっちに来ている可能性も
アカリはGCFの仲間達の姿を思い浮かべ、僅かな希望を得るのだった。
それからアカリはリアに色々と質問をし、この世界について情報を得る事になる。
まず現在地はトールド大陸というらしい。その辺境の王国であるフェルロン王国のさらに奥地にあったのがここ、ブエダ村との事だ。
ブエダ村は元々狩人の村で、狩猟を生業として数カ月に一度来る行商人と革製品を取引して生計を立てていたそうだ。
そしてフェルロン王国は貧しくはないが、豊かでもない何処にでもある小国で王都の名前はポルド。現王はルニール十七世といい、国民からは心優しき王と慕われているそうだ。
他にも周辺国との関係などを聞いてみたが田舎の平民であるリアには分からないとの事。強いて言えば、隣国の一つであるバスケード王国とは何度か戦争が起きているらしい。
通貨は金銀銅貨で、どの国で発行されていても世界共通で使えるという。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨も百枚で金貨一枚の換算となる。ちなみに物価的には庶民の一食が銅貨三、四枚で、質素な衣服は銅貨五十枚程度というから日本的に考えれば銅貨一枚で百円と思えば良いだろう。
そして最も知りたかった魔術についてだがリア曰く、魔術は魔術師でないと分からないとの事だった。
一般知識としては、「魔術師は素質がないとなれないのよ。それも数百人に一人いる程度だから、ほとんど見たことが無いの」との事だ。
という事で魔術に関する情報としては、盗賊との戦いで得られた『詠唱が必要』で『杖を持っている』を合わせても詳細は謎のままだった。
「ごめん、あんまり役に立たなくて…」
申し訳なさそうなリアに、そんな事はないと励ます。
「ホント、助かったよ」
「…アカリさんは、これからどうするの?何処かに向かうのかな」
言われてみればGCFの仲間がこちらに来ていないかを探すという中期的な目的は出来たが、短期的な行動は考えてもいなかった。
「んー…とりま、何処か街に行って色々な情報を集めようと思うんだ。その後は…まあ考えるよ」
アカリは笑って誤魔化す。
「街…ね。一番近い街はドードスだけど、情報集めって考えるとその先のダンドルンまで行った方がいいかも」
「へえ。何かあるの?」
「冒険者組合の支部があるの。だからあっちこっち旅してる冒険者も来るからいいかなって」
出ましたファンタジーの醍醐味、冒険者組合と冒険者。ゲーム好きなアカリは心の中で小躍りする。
「なら、ダンドルンに向かうよ」
「え、もう行くの⁉︎」
そう言って立ち上がるアカリをリアは慌てて引き止める。
「歩きだと途中のドードスまでニ日、そこからダンドルンまで四日の距離よ⁉︎」
「えっ⁉︎めちゃくちゃ遠いじゃん」
ここは中世めいた異世界である。日本の様にそこら中が宅地化されてる訳ではないだろうし、考えてみたら車どころか自転車すらないので当たり前ではある。
「今日は泊まって明日出発した方がいい。それと旅支度は村の物持っていっていいから、しっかり準備した方がいいわよ」
アカリは確かにと直ぐの出発を諦めて、村に一泊する事にする。
「お言葉に甘えさせてもらうわ」
その時だ。
外から何かが崩れる大きな音が聞こえた。
窓からみれば村の中心で、燃え盛っていた民家が盛大に崩れた様子が分かる。石造りだったが、構造を支えていた主柱が焼けつき、ついに倒壊したのだろう。
「…」
アカリはリアの様子を静かに見守る。
彼女は両手を前に組み、祈りを改めて捧げている。その頬には一筋の涙が流れていた。
リアが落ち着いた後、彼女と共に村の建物を周りって旅に必要な食糧や日用品などを集める。
バックパックに次々と物資を収納する様子に、リアがとんでもなく驚きどうなっているのかと質問攻めにされたりする。
夜にはリアが質素な手料理を振る舞ってくれた。そのまともな食事は、急に単身で異世界に放り出され盗賊とはいえ人を殺める事になったアカリの心を癒した。
こうして夜も更けた今、アカリは充てがわれたベットに寝そべっていた。
「憧れはあったなぁ…異世界転生」
オタク男子であったアカリがそう思っているのは自然だろう。だが、実際に自分がその状況に置かれればサバイバルの様相を呈しているのが現実だ。
「アイツらを探す…ってのは勿論だけど、優先はしっかりこの世界で生きていく事だよね」
武器はある。理由は分からないが、身体強化などのスキル系も使える。つまりは戦える美少女受肉転生だ。
アカリは改めて手鏡で自分の顔を見る。
「…やっぱ俺、すげー美少女」
自分を見て芽生えるスケベ心。
手で自分の身体をなぞっていく。
「んっ…」
ぞくっとする感覚が気持ちが良い。自然と下腹部へと手が進んでしまう。
「肌のすべすべ…胸もデカい…って」
アカリはハッとして手を止めた。
「ないないない。ヤバいわー…」
今はそんな時ではないと首を振る。
「異世界の街かぁ…どんな場所なんだろうな」
思考をリセットすべく、目を綴じて明日からの事を思い浮かべてた。
「宿を取って、そこを拠点に情報集め…」
次第に眠くなり考えるのを止めて、
「…やっぱそのうち試してみっか…この身体」
そんな阿呆な事を思いつつ寝落ちたのだった。
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いつもご愛読ありがとうございます!
少しずつですが読んで頂いてる方が増えてきて、大変嬉しく思います!
これからももっと多くの人に読んで頂きたく思ってますので、作品評価頂けると大変助かりますので、よろしくお願いします!
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