14歳

明(めい)

第1話


去年の今頃に戻りたかった。

 

僕はよく授業中に面白いことを言ってクラスのみんなに笑ってもらっていた。


クラスメイトは気軽に話しかけてくれたし、笑わせようとして失敗してもフォローしてくれる大事な仲間が4人いた。男子2人に女子2人。


男女関係なく、仲間とは色々な場所へ遊びに行ったり、教室で遅くまで話し合ったりしていた。特別なことがなくても、毎日が楽しかった。去年までは。



中学3年生になって、クラス替えがあり、4人はみんな同じD組になれたのに、僕だけA組になってしまった。


今のクラスには笑いがない。気真面目な優等生がみんなA組に集結してしまった感じで、冗談が通じないのだ。教室の空気はいつも冷え冷えとしている。



今は2月。僕はこの1年近く、必死でクラスを盛り上げようとしていた。目立ちたかったわけではなく、毎日通う教室に笑いが欲しかったのだ。けれどA組では誰も反応しない。


時折僕の言動が痛々しいといった目で見てくる子もいた。中2までのやり方が、中3の、このA組には通用しなかったんだと思う。僕は僕という人間をクラス全員から否定されているような気がしていた。 



4月から僕とA組との間にちょっとずつ距離ができて、それを無理に解消しようとして、僕は徐々に、徐々にノイローゼっぽくなっていった。



夜眠って、朝起きたら中2の日々に戻れるのではないかと期待し、朝起きて中3年の僕でいることに気づくと、とてつもない絶望を覚える。



これは、眠ったまま目が覚めなければいいのにと思って床に就き、朝は結局起きてしまう人の心境と似ていると思う。 



去年が楽しすぎた。前に進むべきだと分かっているのに、僕は高校受験を目前に勉強もせず、身辺整理を始めている。



首を吊ろうと思っている。そんな些細なことで馬鹿だ、と言われるかもしれない。死

んだらそこで終わりだと理解している。


でも、ひょっとしたら死んだあとで、14歳に戻れるかもしれないと頭の片隅で期待している自分もいる。もう、縄は用意してある。 



学校から帰り、自室のパソコンをつけ、今までのメールを削除しようと受信ボックスを開く。削除前に送受信ボタンを押すと、奇妙なメールが1件入っていることに気づいた。



件名は『止めろ』というものだった。差出人は不明。スパムだろうと思ったが、これから自殺することを誰かに見透かされているのかとも考えた。


まさか。 


止めろという3文字に、ただ過敏に反応しただけ。


それでも気になって、メールを開いてしまった。


『15歳の佐山悠介様。これを開いてくれ。これを午後4時半前までに読んでくれ』


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