第2話 ビバ異世界

 目が覚めると、地べたに寝そべっていた。心地のいいそよ風が体を撫でるように吹き抜けていく。視界に広がるのは覆われた木々とその木々の隙間から溢れるように降り注ぐ日射し。耳をすませば毎朝聞いてる鳩の鳴き声も聞こえてくる・・・・・・いや、違う。リズムが違う。いつも聞くやつは、


 ホーホーホッホー

 だけど、これは

 ホルッホルッホホッホーだ。


 まぁそういう日もあるか。鳩だし。

 それにしても今日もいい天気だなー。


 あれ? よくよく考えたら俺何でこんなところで寝てるんだっけ? さっきベッドから起きていつも通り鳩の鳴き声も聞いたし朝の占いもみて学校に向かってそれから・・・・・・


 そうだ!! あの時木陰を庇ってトラックに轢かれたんだった。でもなんで生きてるんだ? 仮に生きてたとして普通なら病院のベッドの上にいるはずだし、スマホの通知も心配といじりのメールで鳴り止まないはず。体も特になんともないし、おかしい。


 でもなんかこういう展開どこかで見たことあるな・・・どこだっけ。えーっと・・・・・・あ! これはもしかしてあれか。昔木陰が読んでた本を借りてざっと見た時のアレなのか。詳しくは知らんが別の世界に来たみたいな・・・・・・いやいや、それはない。流石に厨二病すぎ。


 自分が普段しない考え方をしたせいか笑いが急に込み上げてきた。


 きっとたまたま当たりどころが良くて怪我もせず近くの茂みにでも飛ばされたんだろ。とりあえず最寄りのコンビニにでも寄ってスマホから学校に連絡入れとくか。トラックに轢かれて遅刻するって。クラスの奴ら大笑いだろうな。


 俺は土で汚れた制服を払いながら立ち上がり、改めて体に異常がないか確かめた。特に痛みやあざなども残っていなかった。


 ここはおそらくいつも彼女と待ち合わせてる神社の近くだから右に向かえば一般道に出るはず。俺はスマホから学校の電話番号を入力し、かかるのを待ちながら道路がある方向へ向かった。


 さっきの場所から三十メートルほど歩いたがなかなか道路に出ない。電話も繋がらない。おかしいと思いスマホを確認したら電波が通っていなかった。いつも通る道でも少し外れればこんな深い森があるなんて思いもしなかった。


 草木を掻き分けながら足場の悪い道を歩き進めると、逆光のせいでよく見えないが人影らしきものが一瞬見えた。少しホッとして急いで人影らしきものの方へ向かった。


 無事茂みから脱出することができた

 が俺の知ってる景色とは似ても似つかない場所がそこにはあった。


「どこだ。ここ……」


 舗装された道路やコンクリートでできた建物等は一切なく、ただひたすら広い平原に作物が綺麗に育った畑と家のようなものが点々と建っていた。


 「この辺にこんな場所あったんだ・・・・・・まぁ田舎だしな」


 見慣れない景色に呆気を取られ、気がつけば此処ここいらの住人と思しき人たちが続々と集まってきた。少し変わった服を着ているが、なんかコスプレとかのイベントかな?


 とりあえずここがどこか教えてもらったら、元の神社があった道まで戻らなくちゃな。

 俺は集まってきた人達に声をかけた。


「こんにちはー。ここが今どこかわかりますか? ちょっと道に迷っちゃって。あ! あと俺のスマホ電波届かないんで携帯お借りしてもいいですか?」


 返答がない。なんだ? なんか変なことでも言ったか? 


 住人たちは顔を見合わせコソコソと何かを話している。


 え? まじで何だろ。


 すると一人の杖をついた爺さんがみんなより一歩前に出て口を開いた。


「◎△$♪×¥●&%#!」


 ん? なんて? 言葉が訛ってるのか何と言ったのか聞き取れなかった。


 俺は恐る恐る何と言ったのかもう一度尋ねてみた。


「すいません。あのー・・・なんと?」


 その瞬間、爺さんは顔を火山のように紅潮させながら、ついていた杖を振り回してきた。


「◎△$♪×¥●&%#!!!!!!」

 

 突然のことすぎて咄嗟に謝罪や弁明の言葉が口から溢れてきた。

「ノーノー!! ソーリー! ごめんなさい。違うんです。」


 ジジイの怒りは治らず、ひたすらさっきの聞き取れなかった言葉を連呼しながら杖で殴りかかってきた。俺はジジイの杖を抑えながら必死に考えた。恐らくさっきの言葉を一度で聞き取れなかったことについて怒っているんだ。だが何度聞いても日本語には聞こえない。


 どうやってこのジジイの怒りを収めて誤解を解くか悩んでいると、人だかりの奥から一人の少女が声を上げた。


「その人にここの言葉は伝わらないわ!!」


 人だかりが道を開けると大体中学生くらいの女の子が綺麗な黒髪を靡かせながら堂々とした態度でこちらに近づいてきた。


「お爺ちゃん、もうやめて。その人にはこっちの言葉はわからないわ。私が話するからみんなも戻って」


 ジジイは杖を振り回すのをぴたりと止め、集まっていたギャラリーも各々解散していった。


 俺はジジイの暴走を止めてくれた少女に感謝の言葉を伝えた。


「いや本当に助かったよ。ありがとう。あの爺さん訛りが酷すぎてなんて言ってるのか全然わかんなくてさ」


「あれは訛りじゃないわ。この国、の言葉よ。それと私の名前はアイーダ。あなたの名前は?」


「俺の名前は日乃下大地。大地でいいよ。それにしてもフリクトって? 聞いたことない国の名前だ。てかここ日本でしょ? だって君日本語喋ってるじゃん」


「あぁ、これはよ。一年ほど前、この村にユウシャと名乗る変わった服を着た人が現れて、この言葉はその人に教わったの」

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