包容力MAXのイギリス人が妹になったので一つ屋根の下で暮らします。

Y0324

1章 幼馴染と妹

第1話 父が海外で再婚した

 友人は少ない方が幸せである。

 俺がテレビでその言葉耳にしてから何度も何度も復唱するほど、心に響いた言葉である。

 人間関係や交友関係、そんな物は必要ない。本当に気の合う友達さえいればそれで良いと俺は思っていた。友達が少ないのは悪だと言う人がいるが本当にそうだろうか?考えてみて欲しい、例えば中学校の時に10人以上友達を作ったとしよう。さてその中で高校、大学、社会人になってからも連絡を取るのは何人になるのだろうか?まぁせいぜい1人や2人くらいであろう、そのほとんどは中学校生活を終えると、その交友関係は終わってしまうのだから……、そんな労力を使うくらいなら最初から作らない方がマシだ。




 朝日が窓から差し込む頃、高校2年生である久野原友太くのはらゆうたはいつものように目覚め、パジャマから制服へ着替える。

 今日も普段と変わらない日常が始まろうとしていた。まずはリビングに行き、一枚の写真が入った写真立てに向かって挨拶をする。


「おはよう、母さん」

 母は小さい頃に病気で亡くなっていた、小さい頃の俺は突然の出来事への戸惑いと寂しさからかずっと泣いていた事を今でも覚えている。

 そんな中俺を育ててくれたのが父だった、男手ひとつで全く弱音を吐かずに育ててくれた偉大な父には感謝しかない。そんな父は仕事の関係で海外へ赴任中で現在俺一人暮らしである。やはり父も母も居ない家は最初は寂しかったが今はもうすっかり慣れてしまっていた。

 いつものように僕は食パンをトースターの中に入れ、スイッチを入れる。焼けるまでの間洗面台に行き、顔を洗ったりして自分の身支度を整えた。


 焼きあがった食パンを1枚食べた後家を出ると、家が通っている高校から近いというのもあって僕と同じ制服を着た多くの男子生徒や女子生徒が歩いていた。俺は「おはよー」と言いながら仲睦まじい姿を見せる生徒を横目に一人で学校へと向かうのだった。

 あんなに群れて何が楽しいんだろう?


 教室に入り、一人机に座りスマホを取り出そうとすると「よう、久野原」という陽気な声が聞こえる。


「よう、小原」

 小原総司おはらそうじ、俺の数少ない友達の一人で、俺とは対照的に金髪で陽気な性格の彼は数少ない俺の友達でもあった。最初に話しかけて来たときは、鬱陶しいやつだなと思っていたが、俺が困っている時に助けてもらったり授業で組を作る時に、困っていた時に声をかけてくれたのが小原だった。

 そんな彼と過ごしている内にだんだんと俺は彼を信用するようになっており、今では親友のような関係となっていた。


「今日も一人でスマホを弄ってるのかー?」

「うるせー」


 いつものように冗談を言い合いながら、談笑する俺と小原。話題はソシャゲの話や、小原の友達の話だ。

 小原は僕とは違いたくさん交友関係を持っていた。それはもうこの学校には友達はいないのではないか?って思うほどだ。二人で並んで歩いている時も小原は別のクラスの男子や女子に声をかけられるし、SNSでも毎回違う友達と遊びに行っている。


「おまえももっと俺以外のやつ交友関係持ったらどうだ?」

「俺は、別に交友関係なんてものに興味はないし、友達もお前ひとりで十分だ」

「寂しいやつだなぁ……」


 小原は呆れた表情で、やれやれと言った感じで首を横に何度も振る。


「だいたい、そんなに交友関係持って疲れないのか?」

「別に疲れないけど? むしろ楽しいぜ? いろんな性格のやつと絡めてさー」

「俺にはわからない世界だな……」

「久野原は、もっと交友関係を持った方がいいって!お前と話してるとすげぇ楽しいしさ

何より良い性格してるんだから、もっと交友関係をもつべきだ」


 小原はそう力説するが俺は「はいはい、そうですか」と受け流した。

 交友関係をたくさん持っても疲れるし、人間関係によるトラブルでめんどくさくなるだけだ。


 俺が少し暗い顔をしていると空気を読んだ小原は「そういえばさー」といい話をすり替えた。


「明日、外国人の転校生が来るって知ってるか?」

「外国人の転校生??」

「しかも、女の子らしいぞ!!」


 小原はさっき話してた時よりも声のトーンが1テンポ上がっていた。まぁ外国の女の子は美人な人が多いし男子はテンション上がるか……。

まぁ俺は興味ないけど。


「お前も楽しみだろ??外国人の女の子の転校生!!」

「まぁ……それなりに……」

「あ、今やましい事考えただろ?」

「考えてねぇよ!!!」


 そんな話をしていると、ホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任の教師が「席に付けー」と言いながら入ってきた。その声とともに散り散りになっていた生徒がそれぞれの席に着いた。






 時は流れ授業が終わり放課後となる。それぞれ部活動に向かう生徒や帰宅部で何の部活動にも参加していない生徒はそのまま帰路についていた。

ちなみに僕は後者で何の部活動にも所属していない帰宅部だった。

 俺は机に入っていた教科書をカバンに詰め込み足早に教室を後にしようとすると、廊下を歩いていた一人の生徒とぶつかりそうになる。一言「すいません」と言いながら立ち去ろうとすると俺の肩を掴まれてしまう。


「え? 何ですか?」

「待ってよ、久野原」


 振り向くとそこに立っていたのは、俺の幼馴染植野優奈うえのゆうなだった。彼女は幼少期の頃からの付き合いだ。黒く長く伸びたストレートの髪の端麗な姿で昔から女子や男子からの人気は高かった。だが少し性悪のせいで怖がっている生徒も何人かいるとか……。


 そんな彼女だがたまに一人暮らしである俺を心配して家へご飯を作りに来てくれることもあり、意外と世話焼きな一面もある。


「植野か……びっくりさせるなよ」

「だって、顔も見ずにすいませんとだけ言って立ち去るのはひどくない?」


「せっかく久しぶりに会えたのに」と悲しげな顔をする植野、そんな顔をされると足早に彼女の前から立ち去ろうとしたことにもの凄い罪悪感が湧いてくるから、やめてほしい……。


「悪かったよ」

「じゃあ、久しぶりに一緒に帰ってよ」

「了解ー」


 僕は笑って了承すると植野も嬉しそうに僕と並んで、昇降口まで歩いて行った。



 学校を出て何も言わずに帰り道を歩いていると、植野が「ねぇ」と言い話し始める。


「友達増えた?」

「いや、小原ってやつだけ、あとこれ以上増やすつもりもない……」


 植野は「そっか……」と一言だけ言い複雑な表情をする。


「やっぱり……私のせいだよね……?私があの時……」

「まだ気にしていたのか?」

「気にするよ!! だって……私のせいで久野原は……」

「もう気にするな……済んだ事だ……」


 その話をした後二人の間は気まずい雰囲気となっていた。昔俺が交友関係や人間関係をもう作らないと決めた出来事があった。

 今でも思い出したくもない出来事だ。それを彼女は自分のせいだと思い込んでいてずっと悔やんでいた。僕の家にご飯を作りに来てくれるのもその罪滅ぼしと言う名目らしい……。


「ごめんね……私また……」

「いや、気にしてないから……」


 はぁ本当に気まずいなぁ……、できればもうこの話はしたくないし彼女にも悲しい思いはさせたくない。だけどやっぱり彼女は僕に対する罪悪感が忘れられないんだろうな。


「ところで、またコンビニの弁当ばっか食べてるでしょ?ダメだよ?」

「ギクッ……」


 意外と鋭いな……植野。ここのところ植野が家に来ていないせいでほとんどコンビニの弁当ばかりだった。それもしょうがない、俺は料理をしたことがないんだから。


「はぁ……、ちょっと行かないだけでもうこれなんだから」

「すいません……」

「まぁ今日はバイトで無理だけど、明日久野原の家に行くからね。」

「わかった、楽しみにしてる」


 久しぶりに植野の手料理かー、彼女はこう見えてもかなり料理がうまい。特に俺の大好物のミートスパゲティは絶品だ。

 楽しみだなぁ。


 また暫く歩いていると、交差点に差し掛かり植野は「じゃあ私はここで」と言い俺とは別の方向へと歩いて行く。


「じゃあまたな、植野」

「うん、またねー久野原ー」


 笑顔で手を振りながら歩いて行く植野を見送った後、俺は最寄りのコンビニへ晩御飯を買うべく向かう。さっきコンビ二弁当ばっかはダメだよって言われたばかりなのにな。何やってんだか……。


 スマホのニュースサイトを見ながらコンビニの駐車場へ入ろうとすると、こちらの方に一人の女の子が向かって来ているのが見えた。それは遠くからでもわかる程の銀色の髪の毛で、目は青く身長は植野よりも小さい女の子だった。

 女の子は近くの家に泊まりに来たのか、かなりの大荷物で手には一枚のメモを持っている。どうしたんだろう?道に迷ったのかな?


「あの……、すいませんこの辺にひさやはらって言う方の家を知りませんか?」

「ひさやはら?知らないな……」


 少し片言なところを聞くに日本人ではないのかな?でももし外国人だったらすごく日本語がうまいな……相当練習したんだろうか?それにしてもひさやはらか……聞いたことがない名字だな。


「そうですか……ありがとうございました。」


 深々と律儀に礼をして僕の前から去っていく銀髪の女の子、ひさやはらさん見つかると良いな。



 コンビニで少し奮発してミートスパゲティの大盛とサラダを買い帰路につく俺、やはり植野の料理も絶品ではあるがコンビニの惣菜もこだわっているのもあって、かなり美味しい。皆自炊もせずコンビニで買うのも納得だ。

 

 すっかり日も落ちた頃、ようやく家に付き、中へ入ろうとすると突然スマホの着信音が鳴った。誰だろうとスマホの画面を見ると、今絶賛海外へ赴任中の父からだった。


「もしもし」

「もーしもーし友太くーん元気ー?」


 相変わらずテンション高めな声だ、しかも今日はいつもよりもさらにテンションが高い。


「あぁ、元気だよ、父さん今どこにいるの?」

「今ねー、イギリスにいるよー?」


 イギリスか……。あれ?今日本18時だけど向こうとは時差があってあっちは真昼間……てこと父はまだ仕事中なのでは?


「父さん……仕事中なんじゃないのか?」

「ううん、今日はやすみー」


 なるほどだからテンションが高いのか……納得だ。


「そうそう、今日は友太君に大事な報告がありまーす」

「なんだよ……」

「なんと、父さん……」


 スマホの向こうでドラムロールのようにドゥルドゥルと口ずさむ父さん。そんなの良いから早く言ってくれ。


「イギリスで、イギリス人で女性と再婚しちゃいましたーー!!」

「マジで!?」


 親父ついに再婚か……おめでたい。しかも相手は赴任先のイギリス人女性とは……。


「やっちゃたー」

「おめでとう父さん!! で、相手はどんな人なの?」

「実は相手も、バツ1で子持ちだったんだよー、しかもお前と同い年の女の子!」


 相手もバツ1か……、バツ1同士気が合ったんだろうな。それにしてもまさかこの年で兄弟ができるとは思っても見なかった。しかも同い年で外国の女の子とは。嬉しいような、ちょっと複雑なような気分だ……。


「それでさ、その女の子日本に行きたいーって言い出してさー、友太君の家に向かう事になったから」

「あー、俺の家に来るのね、はいはい……ちょっと待ってや!!!」

「もうそろそろ着く頃だと思うからよろしく~!!!!」

「おい!!!ちょっと!!!」


 そこで通話は途切れた……。何勝手な事してくれたんだよ……父さん!!!

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