第9話 大学

大学ではさらに「ふつうの人」ができるようになった。


今思えばけっこう無茶をしてお母さんには心配をかけたなぁ…


そして大学生といえばサークル活動。

私は学園祭実行委員会と古美術研究会に所属し、忙しく暮らしていた。


古美術研究会に入ったのは古美術に興味があったわけではなく、

部費で美術館や博物館に行けるという話を聞いて友達と入った(難しいことはわからないけど、美術館や博物館に行くのは好き)。

先輩はおらず、部員は6人で全員私の友達だったためまったりと好きに活動していた。


忙しかったのは学園祭実行委員会のほう。

学園祭前になると夜の21時まで部室に残り、場所を移して終電の時間までしゃべったりはざらだった。

そして駅まで車で家族に迎えに来てもらい、次の日は1限の授業に出席するために朝早く家を出るなんてのはよくあった。

病院に行く日も、本当は早く帰らなければいけないのに、委員会を言い訳にしてそのまま友達の家に泊まる日もあった。

しかし学園祭実行委員会の内情は、人数が少ないくせに人間関係がごたごたしていた(特に恋愛系)。


また、学園祭を運営している側だったので、学園祭に参加するサークルトラブルがあったら「お前土下座して謝れ」と罵られたこともあった。

何回も腹を立てたし何回も泣いたし何回も笑った。

なかなか波乱な日々だったと思う。


20歳を過ぎてお酒を飲むようになると、

ザ・大学生!という感じの飲み会も多々繰り返した。

肝臓に負担がかかるからお酒はあまり飲まない方がいいと言われていたのに、飲み会ではガブガブ飲んだ。

体育がなくなったことで、日常的に自分が病気であることを自覚することが少なくなり、

自分は健康なんじゃないかと思ってしまうことがあった。


バイトも人並みにして、夏休みや春休みにはいろんなところに行った。


彼氏もできた。

振ったり、振られたり、人並みに恋愛をして、今の夫と出会うこともできた。


しかし、やはり自分は病気だと突きつけられる出来事があった。


就活だ。


自分のやりたいことを見つけることもできなかったし、働ければどこでもいい!というわけにもいかなかった。


日に当たれないから外回りの営業はだめ

体力が削られるから立ちっぱなしの仕事もだめ

冷暖房設備が整っているところじゃないとだめ

忙しすぎると身体がもたないから残業が多いところはだめ

今通院している病院に行かないといけないから転勤があるところはだめ


…となるとできるのは「事務」しかなくなる。

しかし「事務」は超人気職種だったので、

なかなか内定はもらえなかった。


面接では自分の病気のことは言わなかった。

大学で受けていた健康診断ではいつも問題がなかったし(私は特定の項目の血液検査をしない限り問題がなかったため)、

めちゃくちゃ頭のいい大学でもないのに持病があるなんて言ったらどこも内定がもらえないと思ったからだ。


SLEは難病だが障がい者採用枠を受けれるわけではない。

特定疾患の人が相談できるハローワークのサービスも受けたが、

相談員の人には「面接で病気のことを言って受かる人もたまにいるけど、ほとんどの人が隠してるのは事実。だけど特別な支援はないから、自分で頑張るしかない。」と言われた。

また、平日病院に行かなければならないから正社員で働くのは厳しいことも。

難病なのに、人と同じ様に働けないのに、何の支援も受けられない現実を突きつけられ、帰り道一人で泣いた。


そして夏の終わりにようやく内定がもらえた。

もちろん病気のことは言わなかったが、大学の健康診断は何の細工もせずに「問題なし」なので健康面も特に指摘されることはなかった。


大学も無事に卒業でき、

卒業式にはめちゃくちゃお酒を飲んで騒いだ。

大学を人生の夏休みと言う人がいるけど、

振り返ってみると長い夏休みだったなと思う。


そして、人生の夏休みが終わると、

人生で一番辛く、死にたいと毎日思う会社員生活が始まった。

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