第2話公子は妹に成り代わる

僕が身代わりを務めるつ告げた瞬間、父は猛反対した。

そんな父を宥め、妹の名誉を守る方法が他にないこと繰り返し説くと、渋々であったが最後は父が折れる形で、説得に応じてくれた。


「ローゼは私にとって大切は娘だが、ジーク…きみも同じくらい大切なんだよ。だから慎重に動いておくれ」

「分かってます、父上。無理はしませんから、安心して下さい」


父の言葉は、僕たち兄妹を思う気持ちに溢れていた。僕は心配を掛けまいと表情を引き締め、重々しく頷いて返した。

父が諦めたように笑うと、そこから事が進むのは早かった。

僕が妹になり代わる事実を知るのは、僕と父、そして父の従者を務めているカルロッソ。あとは、妹がいつも側に置いている侍女のヴィオレッタとダリアの二人。そして僕の従者で乳母の息子であるマグリットだけに絞られた。

妹の捜索に関しては、金を積めば口を割らない者を選んで、依頼することになった。


父と従者のカルロッソが様々な手配をする間に、僕は妹の部屋へと向かっていった。

従女であるダリアが扉を開くと、主を失い静まり返った室内に踏み入り、辺りを見渡す。

執務机に置かれた花瓶が目に留まると、そこには淡いピンクの薔薇が侘びしく、立ち枯れていた。


妹がいつも大切にしていた、亡くなった母が愛していた花だ。


この薔薇のように、妹が朽ちてしまっているのではないか、そんな嫌な予感が胸を過る。


「ジークヴァルト様…、…」 


気遣うヴィオレッタの方を振り返ると、僕はあえて胸を張って見せた。


「大丈夫だ、始めよう」

「はい!」


ヴィオレッタと並んで立っていたダリアが快活に応えると、妹の衣装室に走っていく。

その間にヴィオレッタの手によって、僕の着衣は脱がされていった。

代わりに、妹の気に入っていたドレスが、僕の身体を包み込んでいく。

背中の釦が止められ、繊細なレースが首からデコルテまでを覆い、胸元から菫色のシルク生地へと切り替わる。胸の下で一度絞られてから続くスカートは、オーガンジーが重ねられ、柔らかく広がっていた。

二人の手によって施される化粧が、さらに華やかさを添える。

全ての準備が終わり、姿見の前に立たされると、そこには確かに妹がいた。


「今日から僕が、ローゼリンドだ」


僕に元の姿に戻る日は、妹が帰ってくるときだけだと。覚悟を決めて、呟いた。

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