私は新聞記者をしている。

とある事件を追って暑い中、街中を歩いて調査をしている。


最近は私が書いた記事も評判が良いらしく上司から褒められたりするようになった。いつもうるさかったあの上司が、ニコニコしているのはなんか“違和感”があるけど、まあ職場がいい雰囲気になったからよしとするか。


私の書いた記事が評判が良くなったのは、信憑性が高く、まるでその場にいたかのような臨場感を出せるようになったからである。

それは、2ヶ月前に知らない間に与えられたある能力のおかげだからだ。


3日前、公園でひとりの男性が殺された。

防犯カメラが近くには設置されていないエリアで、物的証拠も公園を捜索したが何にもなく捜査は難航しているようだ。


いろいろ街中を回ったが、これといった情報はなかったので殺人現場に行くことにした。

現場の公園は、結構広く事件が起こる前までは子供たちが遊んだりしていた近所では知られた憩いの場だったが、今はひっそりしている。


夕方になるが、辺りを見回っても人はいない。しかたない、他の方法で調査するか。


一度目を閉じる、「ふっー」と息を吐いて再び目を開くと、体が軽くなった感じがすると能力発動の合図だ。

今日は事件のあった日に、現場付近にいたという方がいると【とある情報提供者】から聞いた40代くらいのサラリーマンの格好をしている男性を探していると、ベンチに座っているのを発見した。すぐに声をかけてみる。

「あのすみません」

「えっ!」と驚いた表情を浮かべる男性。

「こないだこの公園で事件があったのはご存知ですか?」

「はい、ちょうどここにいたから、わかりますよ」

「ところであなたが最近この界隈で有名な方ですか?」

「いやそんな有名ではないのですが一応、はい」と私が苦笑いをしていた時だった。


後ろから女性の声が聞こえて来た。振り向くと、近所のマダムたち3人が集まって井戸端会議をしていた。

「あの人さっきから誰と喋っているのかしら?」

「えっ!ちょっと不審者じゃない?」

「そうね、警察に連絡しょうかしら」とスマホを片手に3人とも足早に去っていった。

うっかりしていた。人がいたとは、気が付かなかった。この能力は、一般人がいる場所で使うと不審者に思われる。

こないだは、誰か通報したようで警察官にお世話になってしまった。

おかげで、上司にこっ酷く怒られた。


今回もまた通報されると大変だからまだ聞き込みをしたかったが、この場から離れるとするか。


取材中だった男性に「警察を呼ばれたかもしれないので、後日また来ますね」

「はい、わかりました」と男性はベンチから姿を消した。


「ふっー」と息を吐くと能力が消えて、通常の風景に戻る。警察が来る前に私は自宅に足早に帰った。


後日公園に行って、あの男性から事件のことを聴くと、「あれは、人間の仕業じゃない」と何かに怯えた表情をしている。

「というとあちら側のやつの仕業ってことですか?」

「ああ、それ以外は俺にはわからないが強烈な気配を感じた」

「なるほど、ご協力ありがとうございました」

と礼をして、公園を後にした。


困ったな、あちら側のやつが犯人だとすると記事には書けないよなとため息を吐きながら一旦職場に向かった。


職場に着くと、最近機嫌が良かった上司がいない。同僚に何があったかを聴くと、昨日自宅で倒れて、意識不明の状態だそうだ。

うーん、やはり私が感じた違和感が的中したのかもしれない。でも職場で、あの能力を使うと嫌なんだよな。なにせ、この職場には、うじゃうじゃいるからだ。


そう【アレ】が‥


終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る