第4話 偉人に助言をもらいに
神様の思惑など、分からないことを考えるのをやめて
半日で
PCで作業したのなら一週間程度はかかっていたことだろう。
そんなところで、お腹がぐるぐると自己主張して、お腹も空いてきた。
お米、納豆、味噌汁の和食セットのオブジェクトを
(素晴らしすぎでしょ……この世界……)
縁側に座りながら、納豆のかかったお米を箸で口に運んでいき、ちゃんと味がすることに驚いた。
納豆のパックを開けてたれを入れて混ぜるという過程すらも必要のないのはありがたすぎる。
味噌汁なんて、一人暮らしを初めてから、レトルトのものばかりだった。心なしか、味見を適当にしかしない母が作ってくれた薄味な味噌汁の味を思い出し、ようやく先立ってしまった申し訳なさがこみあげてきた。
会社に関しては何とも思わない。
(私のことがニュースにでもなって業界の待遇改善に繋がればいい)
食後も少々、凪の体で気になる部分を微調整していた。
暗くなってきたので屋内に凪を移動して、敷布団のオブジェクトを設置した。
模様が洋風な花をモチーフにした柄のものしかなかったので、今度
両手を水平に広げたT字の初期ポーズで微動だにしない凪を見て、不憫に思い敷布団のオブジェクトをもう一つ呼び出し、凪を横にして布団をかけてあげた。
私が作業を終えていないせいで、凪は目を瞑ることすらできなかった。
「ごめんね、明日は動けるようにしてあげるから……」
私の手は自然と凪の頭を撫でていた。
しかし、ふと手を離してしまった。
(こんな子供扱いをして欲しくなかったらどうしよう)
それは、今まで凪に対して抱かなかった感情……配慮だった。
これからは意思を持つ一人の命になるはずの存在だ。
自分が満足するためにひたすら作りこんでいくのとは違う。
私は急ごしらえで手が動くように骨の設定を簡易的にすると凪に尋ねた。
「あなたは、生まれたい? もしそうなら、私の手を握って……」
これだけは確かめておかねばいけないと思った。
恐る恐る凪の手に触れると、弱弱しく握り返してきた。
見た目は凛々しいのに、まるで赤ん坊のような反応に思わず口角が上がる。
「ありがとう……」
本人の意思が確認できたのなら、迷うことはない。
私は全霊を以て、凪を創ることに専念するのみだ。
翌日、目を覚ますと凪を庭に移動させ、色の設定を始めた。
直接凪に色を書き込んでいくような作業感だった。
まずは、白地に青の
色、質感の設定を終えるまでには半日を要した。
そして、残りの時間を使って、骨の設定全身分完了させた。
(これで、凪は動くことができるはず……まだ動かないけど、今日はもう寝よう)
私は翌日を楽しみに心おだやかに眠りについた。
もちろん、凪にも布団をかけてあげた。
この世界に来て三日目の朝は、バタバタという物音で目が覚めた。
目を開けてみると、凪が動いていたのである。
布団を畳んで、押し入れに入れている最中だった。
私は凪が自主的に動いている様子を見て呆然としてしまった。
それでも、私は意を決して声をかけてみた。
「……凪! おはよう!」
私の声に反応した凪は振り返り言葉を発するべく口を動かした。
「ーーーー」
口の形では「おはよう」と言ったように見えたが声という音にはならなかった。
言葉が音にならなかったことに凪自身も驚いたようで、喉を押さえて首を傾げていた。
それに動きもどこか機械的で、ぎこちなく不自然だった。
「何か足りないものでもあるのかな…………そうだ! 誰か住人を探してみようか。長く住んでいる人なら経験した人もいるかも」
凪はうんうんと頷いて、玄関へと私の手を引いて駆けていった。
思ったよりも子供のような動きをする凪を意外に思いつつも、付いて行った。
外へ出てソファーのオブジェクトを
北にはピグマリオンの神殿が見えた。
ピグマリオンに聞きにいくことも考えたが別の住人について興味があったのでもう少し探してみた。
すると、一軒の中世ヨーロッパ風の小さな小屋が西の方へ行ったところにあることに気付いた。きょろきょろしていた凪は、私が指をさして場所を示すと、うんうんと頷き袖を引っ張り「行こう」と主張しているようだった。
上空からソファーは洋風な小屋の前に着陸し、私はひとまず削除して小屋を眺めた。
レンガと白塗りの壁、三角の尖った茶色い屋根で建物自体はありふれたものだった。こんな世界だからなのか名前の表札もない。
扉の前に立つとコツコツとノックをした。すると奥から女性の声がしてすぐに扉は開かれた。
妙に既視感のある真ん中分けをした黒髪に中世ヨーロッパ風の落ち着いた暖色の服装をした女性が私と凪を出迎えた。
「最近、この世界に招かれた
「まぁ! こんにちは。さぁ、入ってくださいな。そちらの椅子にでも腰をかけていてくださいね。わたくしは旦那を呼んできますので……」
家具は椅子もテーブルも本棚も木製で統一感のある様子だった。
本棚はぎっしり詰まっており、それでもなお収まりきらない本は床に山積みになっていた。
(うわーすごい勉強家の人だ。なんか緊張してきた)
出迎えてくれた女性は家の奥へ歩いてゆき「レオナルド~お客さまよ~」と呼びかけた。
私は「まさか」と思い当たる人物がいた。
万能の天才と呼ばれた、あの偉人ならこの世界にいてもおかしくはない。
そうして、足音が近づいてきて、その男は姿を現した。
真っ白な髪をした中年の男性だった。
その手には筆が握られていて、作業の最中だったことを思わせる。
客人相手に青、黄、緑など様々な絵具が白いエプロンについていても気にする様子はない。
「あぁ、最近誰か呼ばれたとか通達がきていたな。ようこそ我が家へ。ワタシは万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。そして妻のモナリザだ」
かの有名なダ・ヴィンチは自らを天才と高らかに宣言して不敵な笑みを浮かべた。
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