第9話 嵐の前の
つかの間の休みと言うべきかそもそもこの世界に転生してからあまり休む機会がなかったので初めての休みと言うべきか。
なんにしても、冒険者が足を踏み入れてこないので少しだけ気を緩める事が出来た。
その原因について考えると、可能性としては二つ。
一つは、立て続けに冒険者がやられたから危険と見て攻略を中止したのか。
あるいは、『英傑』なる存在が倒され戻ってこない事に対して危機感を抱いているのか。
『英傑ユニット』。
例のやたらコストの重たい存在は今のところ俺が使役する事の出来るモンスターと同じ枠組みとして俺の手中にある。
『粉砕剣聖』という名前に相応しく彼女はありとあらゆる防御力に対して一定値の補正が働くらしい。
具体的に言うと、防御無視。
ゲームで言うとぶっ壊れ特性である。
ただ当然のようにデメリットも存在しており――その重たすぎるコストもそうだが――その一つとして装備する武器もこちらでコストを消費して用意しなくてはならないという事。
例えば大剣を一本用意するのに『500』ポイント消費しなくてはならない。
その為、彼女がこのダンジョンに足を踏み入れた時と同じ力を発揮する為にはそこから更に『5000』以上のポイントを用意しなくてはならないのである。
アホかな?
ただ、調べてみると割と融通が利くポイントも発見した。
どうやら『英傑ユニット』というのは消費するコストを減らすと弱体化した個体となって召喚されるらしい。
つまり素直にあのバカげたコストを消費しなくても一応『英傑ユニット』は召喚出来るみたいだ。
その弱体化具合については調べて見ないと分からないのでひとまず試しに召喚してみたところ。
「な、ななっ!」
……なんか、縮んでない?
このダンジョンに足を踏み入れた時の彼女はもっと大人びていたし、いろいろなところも大きかった気がする。
しかし本来消費するべきコストを大分落とす事によって弱体化した状態で召喚された彼女は、傍から見て完全に幼女だ。
これで剣とか振るえんのか?
試しに剣を与えて――いや、普通に反逆されそうだな。
「あ、あは……わたくし、みんなを守る英傑なのにダンジョンのモンスターの手下になっちゃった……♡」
なんか様子がおかしいな。
幼女がして良い表情を浮かべてないんだけど。
「これからわたくし、みんなの事を、みんなを守る力で傷つける事になって、それで今まで築き上げてきた名声も何もかも台無しになっちゃうんだ……♡」
なんかもしかしてヤベー奴なのかこいつ?
……逃がしてー、逃がしたら今度こそ俺の方がぶっ殺されるだろうから絶対に逃がせられないけど。
とはいえなんか知らないけど俺に対して従順な彼女にひとまず最低コストの状態で『黒い骸骨』君と戦って貰う事にした。
弱体化しているとはいえあんな事をしてくれた『英傑ユニット』だ、簡単に返り討ちにしてくれると期待してみていたのだったが、
「きゅう……」
なんか、あっさり倒されたな。
「わたくし、英傑なのに……骸骨程度のモンスターに凌辱されちゃった……♡」
いや、凌辱はされてねーだろ。
ていうか一々語尾にハートを付けるな、エロゲー世界の住人か?
エロトラップダンジョン世界だったわ。
とはいえこれで彼女はちゃんとコストを支払わないと骸骨にも負ける存在である事が分かったのは収穫だ。
つまり宝の持ち腐れっすね。
『100000』ポイントも消費してようやっと召喚出来るユニットの姿か、これが?
それだけ支払うに相応しい性能を出してくれるんだろうな……
今のところ普通にポイントがないからフルスペック英傑をそのままお出しする事は出来ないし、ていうか彼女を強くすれば強くするほど召喚するのにかかる時間が増える仕様なのでますます使いどころがなくなっていく。
いや、むしろゾンビアタックとかに使うべきなのか?
『英傑ユニット』とかいう名前的に超強そうな存在を使ってやる事がゾンビアタックとか完全にアレだけど、だけど今のところ使える場面というのがそれくらいしか思いつかない……
幸い、彼女は最低コストだとスライムよりちょっと重たいくらいのそれで召喚出来、倒されても30秒後に再召喚が可能になるみたいだ。
まさにゾンビアタック専用ユニットみたいである。
本当に英傑とかいう強キャラの姿か、これが?
「それにしても、本当に冒険者がやって来ないな……」
ふと、そのように思う。
今のところこのダンジョン攻略者として『英傑ユニット』セシリアが現れてから既に二週間が経過している。
冒険者がやって来ないとなるとポイントの稼ぐ方法が、自動的に湧いて来るものに頼るしかなくなっていく。
ちなみにそれはダンジョンの規模が大きくなれば大きくなるほど増えていくので、いっそここからセシリアを倒す事によって手に入れたポイントを消費して拡張してみようかとも思った。
でも、このポイントを使ってトラップとか、あるいはモンスターを強化したりして次にやって来る敵を倒す事を考えた方が良いのだろうか?
例によって、エロトラップを作る余裕なんてない。
ないったらない。
「もしかすると、彼女が動いているのかもしれませんね」
ふと、思考に耽っているとボスフロアというか俺が住処としているエリアで、俺の私物である娯楽品(色を揃えるタイプの立体パズル)で遊んでいたセシリアがおもむろに呟いた。
「彼女って、冒険者か?」
「いえ。彼女はわたくしと同じ英傑ですけど、日常的に行っている業務は冒険者ギルドの受付嬢です」
「……?」
「彼女は――」
セシリアは言う。
「英傑『予見天使』エデン。この世界で最も賢い女の子です」
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